2011年の欧州危機の発火点となったギリシャでは、危機の発端が政府の財政赤字隠しであるが、ギリシャ社会には体質的に賄賂、脱税が横行していることが指摘されるようになった。例えばユーロ圏の債務危機対策の要となる欧州金融安定化基金(EFSF)の規模・機能拡充案をスロバキア議会が否決しそうになった時の新聞記事では「アテネ北部のお金持ちが住む地域で、プールのある家は一体何軒?とグーグルの衛星地図で数えたら……。役所の申告記録324軒に対し、1万6974軒を発見!プール付きの家には税金が余計にかかる。だから申告をせずフェンスで目隠ししていた。財政危機になり税務当局がやっと動いて発覚した冗談のような話は、ギリシャで横行する脱税を世界的に有名にした。スロバキアの人たちには許し難い。ギリシャ人はたいてい、平均月収8万円のスロバキア人よりリッチだ。元郵便配達員が財政危機で年金を減らされたと怒っているけれど、まだ10万円もらっている。財政危機は税金をちゃんと集めず使うだけ使った結果なのに、なぜスロバキアが助けないといけない? 多くの人たちが理解に苦しむ。」(毎日新聞「発信箱」2011年10月14日)なお、ギリシャで賄賂が横行している点については、図録2788f参照。

 ギリシャの財政危機の背景のひとつとして「GDPの3割を超えるギリシャの非公式経済の存在」が指摘されることがあるが、シュナイダー他のこのペーパーが出所となっていると思われる。

 シャドーエコノミー(shadow)は非公式経済(informal)、裏経済・地下経済(underground)とも呼ばれる。これらは、GDPに反映されない脱税や贈収賄、麻薬、売春、AV、偽ブランド等の違法取引、自給産品消費、路上販売などの経済取引一般を指す。

 図には、OECDほか主要国45カ国のシャドーエコノミー規模の推計結果をかかげた。

 OECDの中ではエストニア、トルコ、メキシコが最も高く、これらに次いで、財政危機やその恐れが近年問題となっているギリシャやイタリア、ハンガリー、スペインの値が高い。トルコがこうした状況を打破しようとしたこともあった点については巻末コラム参照。日本は12.1%とOECD中、下から5番目と低い。OECD以外では、タイ、ロシアがGDPの半分以上と異常に高くなっているのが目立つ。中国は案外低いレベルであるのがかえって印象的である。

 シュナイダー他によるこのペーパーによれば、時系列的にもシャドーエコノミーの対GDP比はOECD、その他を問わず拡大する傾向にあるという結果が得られており、その主要要因としては世界的に税が重くなって来ているからだとされる。税率が上がれば脱税も増えるのである。

 上の推計結果は、違法取引、犯罪取引、脱税額等の積み上げから計算されたものではなく、マクロ経済的な手法で推計した結果である。推計手法は、通貨需要モデル、電力消費法、MIMIC法などがあるが、このペーパーは、多指標モデルであるMIMIC法を採用している。

 他の2つの推計手法についてOECDの報告書は次のように紹介している。「通貨需要モデルにはいくつかのバージョンがあるが、いずれも「シャドーエコノミー」はすべて現金で取り引きされるため、現金対預金比率の拡大のうち、利子率、支払習慣の変化、所得レベルといった要因で説明できない変化を「シャドーエコノミー」の拡大によるものと見なすという基本的なアイデアによっている。モデルは「シャドーエコノミー」の変化を計測し得るのみであるので、調査期間のいずれかの時点における「シャドーエコノミー」の規模を次ぎに確定する必要がある。通常、最初のベースとなる年次でこの規模をゼロとする仮定がおかれる。

 もう1つのよく使われるモデルは、「本当の」GDP、すなわち「公式の」部分と「シャドー」の部分を足したGDPは電力消費に比例して成長すると仮定するものである。(中略)このアプローチについても出発点における「シャドーエコノミー」の規模を仮定する必要がある。電力消費に基づく推計は、通貨需要モデルによる推計より、「シャドーエコノミー」の規模をより大きく計算する傾向がある。」("Measuring the non-observed economy", OECD STATISTICS BRIEF November 2002 no.5)

 あくまでシャドーエコノミーがこの程度である可能性が高いという推計であって、本当にそうかどうかは分からないものともされる。

 なお上述の電力消費による実際のGDPの推計と関連して、宇宙から見た電灯の明かりで経済成長を測る試みについては図録9412で紹介した。

 シャドーエコノミーを公式にGDPに計上しようとする動きがある。オランダなどではコーヒーショップでも大麻が売られている。EU資金の配分に影響を与えるためもあって、公平性の観点からも麻薬、売春、密造酒といったものをカウントする必要性がEUでは感じられており、実際、GDP計算のEUルール(欧州経済計算ESA)では「すべての当事者が自発的に関わっている経済的に生産的な活動であれば違法であっても報告が義務づけられている」(The Economist May 31st 2014, "Sex, Drugs and GDP"、以下同様)。「ただし、このEUルールでも、これまでは、どうやって麻薬取引やタバコ偽造の計測法のガイドラインは規定されていなかった。もともと計測が難しいこともあって、報告する国はほとんどなかった。こうした状況は、今年の秋、ESA改訂により、見栄えの良くない経済活動からの収入を計算するガイドラインを見直すことになっているので変わって来る」。こうした動きの下、イタリアの統計局が2014年10月から麻薬取引、売春、アルコール・タバコ密貿易をGDPに含めると発表し、大方から失笑に近い反応であるが大きな関心を呼んでいるといわれる。実は、英国やフランスの統計当局も同様の計算に向けた検討をすでに行っているのである。ここで紹介している英国エコノミスト誌の記事の最後は、元イタリア統計局長で、現在ローマ大学の経済統計学教授をつとめるエンリコ・ジョヴァンニーニの次のような皮肉っぽい発言でしめくくられている。「幸福や生活の豊かさを測ろうなんて、何ていい加減な奴だと統計家でない者はよく批判するが、それじゃあ、あなたはGDPを測ろうとしたことがあるんですか、と私は言いたい」。

 対象国45カ国を図の順に列挙すると、米国、スイス、オーストリア、ルクセンブルク、日本、オランダ、英国、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、アイルランド、カナダ、ドイツ、アイスランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、スロバキア、チリ、チェコ、ポルトガル、イスラエル、ベルギー、スペイン、ハンガリー、イタリア、ポーランド、韓国、スロベニア、ギリシャ、メキシコ、トルコ、エストニア、シンガポール、中国、ベトナム、インドネシア、インド、南アフリカ、マレーシア、ブラジル、フィリピン、ロシア、タイである。

【コラム】20世紀前半トルコの近代化

 シャドー率がOECDの中でエストニアに次いで高いトルコであるが、そうした状況を打破しようとした時期もある。初代大統領となったムスタファ・ケマル・アタテュルクが指導した1923年のトルコ革命ののちトルコは維新後の日本を手本に近代化を積極的に推進した(共和制、イスラム法・イスラム暦廃止、ラテン文字採用など)。1937年に単独で西アジア視察旅行を敢行した若き中国史学徒宮崎市定は当時のトルコでの見聞についてこう報告している。

 カイゼリー駅の停車場駐在巡査は外国からはるばる訪れたお客さんということで面識もない宮崎青年の宿泊や汽車利用に便宜を図った。「ヨーロッパではこういう際は必ず若干の心付(バクシン)を出すものであるが、トルコではいま諸事御一新というので、公職にある者はいうに及ばず、一般の人たちにも心付という奴隷的弊風を根絶するようにとの、大統領の厳達である。大統領の趣旨にも賛成だし、これまでもなおそれでもと思って銀貨を差出してはねつけられ、恥ずかしい思いをした経験もあるので、ここでも巡査殿に心からの謝意を表してカイゼリーを後に立ち去った。」(宮崎市定(1944)「菩薩蛮記」、全集20)

 まあまあそんな堅いこと言わずにと再度トルコを堕落させたのは自らの利害にかられた西欧諸国だったのではないかと私はにらんでいる。

(2010年6月28日収録、2011年10月14日冒頭のギリシャに関するコメント追加、2012年6月27日原資料をIMFペーパーから変更、対象国数20カ国から拡張、7月12日コラム追加、2014年6月12日英国エコノミスト誌記事紹介)


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