社会格差が問題となる中で、日本の貧富の格差、所得格差は、国際的に見てどの程度の水準なのであろうか。すでに途上国を含めた貧富の格差の概観については図録4650で、また主要国の格差の推移については、図録4660でみたが、ここでは、かなり厳密な定義のOECD Income Distribution Databaseに基づいてOECD諸国全体を比較したグラフを作成した。

 2010年前後のジニ係数で各国を比較すると、日本は、0.336と、対象35か国中、10位となっている。先進国の中では格差の特に大きな国でもないし、格差の小さな国でもないという結果となっている。日本が格差の小さな平等な国であるといった見方があったが、これは事実に基づいておらず、もともと先進国の中では中位の国だったことは図録4660でふれたとおりである。

 OECD諸国の中で最も格差の大きいのは、チリ、メキシコ、トルコといった途上国的性格の強い1人当たりの所得水準の低い諸国である。ロシアもこれに続いている。主要先進国の中では、米国が最も大きな格差の国であり、イスラエル、英国、スペイン、ポルトガルがこれに続き、日本がその後に来ている。

 逆に格差の小さなことで目立っているのは、スロベニアを除くとノルウェー、アイスランド、デンマークといった北欧諸国である。スウェーデンは一時期ほど格差の小ささは目立たなくなった。ドイツ、フランスは、北欧諸国と日本、英国の中間ぐらいに位置している。

 現状と1980年代半ば以降の変化については、1980年代半ばのデータの得られる国では、ギリシャを除いて総てジニ係数が上昇している。所得格差の拡大は先進国一般の傾向であることが分かる。

 日本は高齢化などにより所得格差が徐々に拡大してきているが、2015年の図録更新までは、日本とジニ係数が逆転し、日本以上に格差拡大が大きかったニュージーランドの事例は、構造改革の結果としての側面から注目される。ニュージーランドは1984年に蔵相の名にちなみロジャーノミクスと呼ばれる市場第一主義の保護策廃止、民営化、規制緩和の政策を開始し、1987年には、郵政事業が分割民営化された。ニュージーランドのジニ係数の大きな上昇には、こうした自由主義政策が影響していると考えられることから、小泉改革期の日本で、今後格差がさらに拡大するのではないかという見方が生じたのも無理はないといえよう。しかし、その後、ニュージーランドのジニ係数は低下したので再度日本を下回っている。

 2015年の図録更新では、知りたいと思っていた高齢化の影響を取り除いたジニ係数、すなわち生産年齢人口(18〜64歳)をOECDのデータベースから得られることが分かったので、グラフに付け加えた。高齢者は退職する者が多く、収入は年金収入が中心となる場合が多い。年金給付あるいはそれ以外による高齢者の収入水準が現役世代と比べて目立って低ければ、ジニ係数には高齢化の影響が大きいこととなる。日本の場合は高齢者の比率が世界一の水準に達しているので、全年齢のジニ係数の方が生産年齢人口のジニ係数よりずっと高くなっているのではということが気になるところなのである。

 このデータでは、日本の生産年齢人口のジニ係数は0.332と全年齢より0.004低いだけであった。韓国のように0.020も低いということはなかったのである。韓国の場合は、まだ年金給付が得られない低所得の高齢者が多いので両方の差が大きいのだと考えられる。(日本国内では見つけられない生産年齢人口に限ったジニ係数がOECDのデータベースで見つかるとはどういうことなのだろう。日本のデータが存在する3年おきの年次から元になっているのは厚生労働省の国民生活基礎調査(大規模調査)だと考えられるが、厚生労働省が国内発表していないジニ係数計算結果データをOECDの事務局に送っているからとしか思えない。)

 一方、生産年齢人口とともに高齢人口のジニ係数も新たに図示した。こちらは高齢者相互の所得格差を示すものである。社会保障制度による所得再配分効果が高ければ、特段この値は大きくはならないだろうが、そうでなければ大きくなると予想される。図の中ではメキシコ、韓国、そしてニュージーランドが全年齢と比較して高齢人口のジニ係数が高いことで目立っている。逆に、高齢人口のジニ係数が相対的に低いからといって、社会保障制度による所得再配分効果が高いとはいえないであろう。ロシアで高齢人口のジニ係数が低いのは生産年齢人口において仕事など経済活動によって生じる収入の格差が高齢者の場合は小さくなるからに過ぎないといえよう。スウェーデンの高齢人口のジニ係数が全年齢より高いのは現役の時の収入差が高齢者の年金収入や資産所得の差に反映しているためだからという可能性も考えられる。

 下には、同じデータ源から、主要国について、過去からのジニ係数の推移を追ったグラフを作成した。

 日本について、全年齢のジニ係数と高齢化要因を取り除いた生産年齢人口(ここでは通常の15歳以上ではなく、18歳以上で65歳未満の人口)のジニ係数の推移を比べると、前者の方が後者をだんだんと上回るようになっており、この差の拡大が高齢化の要因による格差拡大といえよう。ただし、その差は余り大きくはない。日本以外の国では、日本と異なり、全年齢と生産年齢人口との差はむしろ縮小、あるいは逆転する傾向にある。しかし、日本同様、その差はそれほど大きくはない。

 次に、主要国の所得格差の傾向については、全体として、格差拡大に向かっていることが明確である。日本の場合は、2000年をピークに小泉政権期にやや格差が縮小したが、その後は、再度格差が広がりつつある。格差の水準については、米国、日本、独仏、スウェーデンの順に格差が小さくなるという状況は少なくとも1980年代から変わっておらず、日本は格差の小さな国から大きな国になったのではない。つまり以前より格差が大きかったのであり、変化があったとすれば格差が小さいという幻想が消滅したのである。小泉改革は格差を拡大したのではなく、格差が小さいという幻想を打ち砕くことに成功しただけである(図録4663参照)。


 対象国はデータが得られるOECD34カ国+ロシア、計35カ国であり、2010年前後のジニ係数が低い順に、スロベニア、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、チェコ、フィンランド、スロバキア、ベルギー、スウェーデン、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、スイス、ハンガリー、ドイツ、アイルランド、ポーランド、韓国、フランス、カナダ、イタリア、エストニア、ニュージーランド、オーストラリア、ギリシャ、日本、ポルトガル、スペイン、英国、イスラエル、米国、ロシア、トルコ、メキシコ、チリである。

(2006年9月17日収録、2012年1月4日更新、2015年2月14日更新、2月15日主要国推移図追加、10月6日資料名年次間違い補正)


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