経済協力開発機構(OECD)が発表した「対日経済審査報告書」で引用され、2006年7月に日本の格差拡大を示すデータとして日本のマスコミにも紹介された相対的貧困率のデータをかかげた(厳密には「対日経済審査報告書」で示されたデータとは異なるが同じ概念のデータである)。

 相対的貧困率という概念そのものに積極的な意味を見出せなかったのでこれまで図録化して来なかったデータであるが、新聞や啓蒙書(例えば橘木俊詔「格差社会」岩波新書(06年))などに引用され影響力をもつようになっているので取り上げることとした。

 確かに日本は米国に次いで貧困層が多くなっている。

 別の角度から取られている所得格差や貧困度のデータ(図録465246531305参照)と食い違っている点をどう考えたらよいのか。これをもって日本は先進国の中で2番目に貧困度の高い国といってよいのか。

 実は相対的貧困率は年齢別の所得格差によって影響されていると考えられる。生涯所得においてまったく平等な国が2つあるとする。片一方は、若い頃200万円の年収で中高年になると800万円の年収となるが平均年収(年収のばらつきの中央値)は500万円の国であり、もう片一方は、年齢にかかわりなく年収が500万円の国であるとする。前者では相対的貧困率は年収250万円以下の者の比率であるから一定程度の比率となるが、後者では定義上ゼロ%である。前者の国の貧困度が大きいというのは定義上そうであるにすぎない。

 年齢別賃金格差と相対的貧困率との相関図を参考に掲げたが、対象国数は少ないものの年齢格差が大きい国ほど相対的貧困率も高いという結果になっている。このように日本は年齢格差が大きいから相対的貧困率も高く出るという側面があり、このことを無視して貧困度を論ずることは妥当ではなかろう。

 OECDが敢えてこうしたデータを使用した理由は、日本においてはコスト削減を進める企業がパートやアルバイトなど賃金の安い非正社員を増やしたことが所得の二極分化を助長させたという報告書の主張(これ自体は正しい)と整合的であるための他、敢えて刺激的なデータを出して、OECDへの多額の拠出国日本のOECD報告書への関心を高めるためだと邪推したくなる。

 図中の日本の相対的貧困率は、2000年頃から2000年代半ばにかけて低下しており、世間一般の理解とは逆に、小泉政権下で格差が縮まったことになる。これは、家計調査による所得格差の動向と一致している(図録4663参照)。

 以下にOECDと同じ算出法で国民生活基礎調査の結果から厚生労働省が計算した相対的貧困率の推移を掲げた。徐々に上昇しつつあり、所得の少ない高齢世帯を除いた子どものいる現役世代では水準は全体を下回るが推移では全体と同じように割合が増えている。相対的貧困率の定義は以下である。「貧困線に満たない世帯員の割合をいう。貧困線とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額をいう。」すなわち1人世帯なら可処分所得そのまま、4人世帯なら可処分所得を2で割って求めた値を各人の所得として計算した結果であり、本来所得のない子どもについても相対的貧困率を算出できるのはこうした理由からである。高齢者は現役世代より所得が相対的に低いため高齢者が増加すれば全体の相対的貧困率と現役世帯の相対的貧困率の乖離幅は大きくなっていく筈であるが、2009年については景気が落ち込み現役世帯で貧困率が増したため乖離幅は小さくなっている。



(更新前は、政権交代後の民主党長妻厚生労働大臣の指示があったためとして厚生労働省が計算し、発表した相対的貧困率の推移(1997〜2006)を掲げていた。その際は「国民生活基礎調査の結果から算定されているが、同じ調査を使用した図録4664にも見られるとおり、年次毎の変動があるので注意して取り扱う必要がある。マスコミはこのように重要な指標をこれまで計算・公表しなかったのは政府の怠慢だとしている場合が多いが、その場限りの論評の感がぬぐい得ない。」とコメントした。)

(2007年11月21日収録、2009年3月28日更新、11月10日政府発表の相対的貧困率推移追加、2011年7月14日政府発表相対的貧困率推移更新)



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