公共事業の動向を対GDP比の推移で示し、OECDの主要国と比較した。資料は内閣府とOECDのGDP統計である(図録5167では1時点でOECD諸国総てと比較した)。中央省庁、地方公共団体に分けた公共事業の動向は図録5166参照。

 公共事業の定義は各国で様々なので、国際比較が可能なSNA(国民経済計算)上の一般政府総固定資本形成の対GDP比で比較した。ここで一般政府とは中央政府と地方政府を指す。

 予算の用語では、公共事業は道路や橋、港湾、上下水道などの建設を指すことが多い。予算案などで使用される公共事業という用語とSNA上の公的総固定資本形成(Ig・政府の投資)とでは以下の点が異なる。

・公共事業には土地代金が含まれるがIgには含まれない。
・Igにはコンピューターのソフトなどへの投資も含まれるが公共事業には含まれない。
・Igに含まれる学校施設への投資や公立病院への投資は公共事業には含まれない。

 なおここで掲げている一般政府総固定資本形成は公的総固定資本形成のうち公的住宅、公的企業設備以外の総固定資本形成を指す(公的総固定資本形成全体の4分の3を占める)。

 日本の1980年代後半は4%台であったが、1990年代前半、1991年から93年にかけて一気に6%を超える高い値を占めるようになった。こうした急激な公共事業の拡大は韓国を除くと他の先進国では類例のないものである。

 きっかけは、外圧である。すなわち、対日貿易赤字の累積に困っていた米国は、1990年の日米構造協議の中で、日本の内需拡大とそのための公共投資の拡大を日本に迫った。その結果、対米公約というかたちで、1991年度から10年間で総額430兆円という公共投資基本計画が策定された。その後、基本計画は、95年度から13年間で総額630兆円という規模に膨らまされた(2002年にようやく廃止)。

 折からバブル経済の崩壊で日本経済は深刻な景気低迷の時期を迎えており、数度に渡る大型の景気対策予算が組まれた(90年代後半からの経済対策については図録5090参照)。その内容は中央、地方を通じた公共事業の拡大であった。

 毎日新聞は「公共事業はどこへ」という連載記事の中で官僚から次のような当時への回顧談を引き出している(2010年3月4日)。

『「あるころから、お金を世の中に巡らせることが自分たちの役割となり、お金を公から民へ流す蛇口になってしまった」。道路官僚は説明を続けた。「あるころ」とは政府が公共投資基本計画をまとめた90年を指す。...「それまでの予算編成は、これをここに造らないといけないから、いくらかかるという考えだった。だが、これだけ世の中にカネを出さないといけないから、それに見合った仕事を作れというふうに、パラダイムシフト(枠組みの変化)が起きた」と指摘する。

 ...旧自治省で景気対策にかかわった元官僚は「地方が『これ以上嫌だ』と言ってもやらせた。公共事業をしなければ、経済はもっとひどいことになっていた」と話す。

 しかし、副作用が出る。道路官僚は「ゼネコンの金と票が政治家に行き、そこに官僚が金を付ける構造になってしまった」。89年度に50万9000社だった建設業者は、ピークの99年度には60万1000社に達した。

 同じころ、日本経済の体質変化も進んでいた。高度成長時と異なり、公共事業投資が大きな経済効果を生まなくなったのだ。...だが、「新設中心」から「維持補修中心」へ変えるなど、時代の変化に合わせた政策転換はされなかった。』

 少し、引用が長くなったが、当時の雰囲気はこんな感じであったかと思う。確かに、こうした公共事業の急拡大も異常であったが、実は、その後の急縮小も異常である。急縮小の方の異常さはなかなか記事にならない。小泉改革の中で公共事業費の対前年度比3%減のシーリングが継続するなど、今度は逆方向にタガがはめられ、不必要だから削るというよりも、何%削らなければならないから予算を付けないというように、事態は逆方向に回転していった。毎年度、事業、工事の必要不必要が議論されていれば、図に見られるように対GDP比がこうも継続的に縮小し続けることはないと考えられる。

 その結果、2008年には、もともと公共事業のさかんな韓国を下回るだけでなく、フランス、スウェーデンをも下回る3.0%にまで落ち込んだ。この3%という値は1960年以降の最低水準である。2009年には前年秋のリーマンショック以降の世界的な経済低迷に対する景気対策が麻生政権の下で実施されたので、3.4%へと上昇した。図を見れば分かるとおり、先進各国も同様に一般政府公的固定資本形成は拡大しており、景気対策のための公共事業が実施されたことがうかがえる。また2010年、11年には景気対策も落ち着き、日本はそれぞれ3.3%、3.1%へ低下、各国も同様にやや低下している。

 国土交通省などは、日本は災害の多い国なのでもともと災害復旧のための公共事業が毎年必要であり、それを考えるとインフラを他国並みに整備していくためには対GDP比を他国より高く維持する必要があると主張する。しかし、必要以上に増やした前歴から発言に重みがないためであろうが、民主党政権の「コンクリートから人へ」(鳩山首相施政方針演説2010年1月)の流れの中で縮小が迫られる勢いは止まりそうにない状況が長く続いた。

 麻生政権のもと2009年度は公共事業が積み増されたが、民主党政権の2010年度予算では対前年度公共事業費18.3%カットと過去最大の削減幅となり、さらに2010年の年末閣議決定された2011年度予算案では一括交付金に回った分を含めた合計で 5.1%減となっている(毎日新聞2010年12月25日)。同日の東京新聞はこれを「公共事業、財源の標的」という見出しで報じている。事実、2010年〜11年は両年とも対GDP比が低下した。

 2012年度予算に関しては、「公共事業関係費は前年度比8.1%減の4兆5734億円。一括交付金移行分を加えると同3.2%減の4兆8137億円で、当初予算ベースでは民主党政権になって以来、3年連続の減少となった。減少率は10年度の18.3%、11年度の13.8%(一括交付金移行分を含めず)に比べて縮小した。ただし震災復興関連の公共事業関係費(全国防災分を含め7288億円)は、一般会計とは別枠の特別会計に計上されている。これを合わせると総額は5兆5426億円となり、実質的には前年度比で11.4%増と2ケタの伸びを確保した。」(毎日新聞2011年12月25日)報道各紙は「コンクリから人」かすむ、として公共事業の復活を報じている。「「時代に合わない事業を全面的に見直す」とした公共事業だが、次々と復活した。マニフェストで中止を明記した八ッ場ダムは、地元自治体の強い要望を受けて建設再開を決定。東京外郭環状道路(外環道)の未着工区間や、整備新幹線の未着工3区間など政権交代後凍結していた大型事業も建設に向けて動き出した。衆院解散をにらみ、理念を後退させる姿は逆に国民の不信を招きそうだ。」(同)

 2014年度予算については、公共事業費の当初予算は2年連続の増加となった。13年度補正予算と合わせるとかなりの額となる。これは消費税増税後の経済低迷への備え、及び13年臨時国会で成立した国土強靱化基本法にもとづく防災・減災・老朽化対策の追い風によるものとされるが、識者、マスコミは自民党型バラマキの復活と批判している(毎日新聞2013年12月25日〜26日)。

 もっとも、目立った公共事業を復活させている一方で、必要な分については、どこまで以上がやりすぎかの基準がないまま減らし過ぎている可能性が高い。

 財務省は予算を削るのが仕事なので公共事業の対GDP比が高かった時期にはさかんにこの図録で取り上げた指標をグラフ化し、公共事業予算の削減へ向け世論の誘導を図ったが、最近は作らなくなったようだ。グーグルで検索しても最近年次のグラフは一向に出てこない。国土交通省は土木屋さんの集まりなので世論誘導が下手であり、同じ指標のグラフをつくっていても引用して貰えない。

 長期推移では、日本は高度成長期の1960年代には英国、ドイツなどとほぼ同じ水準であったが、その後、英国、ドイツではインフラ整備が一段落し、Igの対GDP比が低下していったのと対照的に日本は高度成長期並みの毎年の整備拡大を継続したため対GDP比ではむしろ上昇傾向となっていた。

 欧米の中ではドイツ、イタリア、英国と比較して、フランス、米国、スウェーデンのIg比率は比較的高い。日本が高かった時代は欧米を圧倒していたが、近年は、欧米の高い国よりは低めで推移している。なお、米国やフランスと日本の推移で増減傾向がちょうど裏返しなのは、偶然だろうか。

(米国は2012年更新で全体にかなり上方修正された。更新以前は米国のレベルは1〜2.5%ポイントほど現在の水準より低かった。更新以前までの当図録のコメントは次のようなものだった。「米国の値がもともと低いのが目立っている。広い国土を活用して効率的なインフラ整備が可能となっているのであろう。」米国に続き、2015年更新で気がついたのであるが欧州各国も全体に上方修正が行われた。その結果、いまや、日本が公共事業が特段に多い国という印象はなくなってきている。これは、コラムでふれたように、2008SNAでR&Dや兵器システムが新たに固定資本形成に繰り入れられたためである。)

 日本の値が相対的に高いのは災害が多い(図録4372参照)ばかりではない。日本の都市は人口密度の低い市街地が拡大するスプロール化が進んでおり、道路や下水道、通信網などのインフラの投資効率が悪い点も相対的に他国より公共事業が多かった理由であろう(人口減少社会となりこれ以上スプロール化の弊害を放置しえないため最近はコンパクトシティが都市整備の基本方向となっている。)

 とすれば尚更現在の状況は減らしすぎの可能性が高い。私見では高齢化社会に伴う健康福祉コストの増大に対処するためには、また食料自給率の維持強化、山林の保全には、日本の場合は外国人労働に依存するわけにはいかないので、積極的なロボット化など機械力のフル活用、およびそれに対応した集落・都市構造と道路等のインフラが不可欠であると考えられる。そのための研究開発やインフラ整備に重点的に投資することが将来の健康福祉・農業のコスト低減につながるといえる。そう考えると、近年のIg対GDP比の低下は百年の計を誤るものとしか思えない。

【コラム】SNAにおける資本概念の変遷

 SNA(GDP統計)の国際基準は68SNA、93SNA、そして2008SNAへと順次更新されてきており、それぞれの資本の概念の違いが総固定資本形成の規模にも影響を及ぼしている。下表に、SNAにおける資本概念の変遷を整理した。

 2008SNAへの改定の影響(対GDP比ポイント)は、2014年11月からOECDデータが切り替わった米国の場合、2010年の研究開発の固定資本扱いで2.5%、兵器システムの固定資本扱いで0.5%とされる(OECD Statistics Brief(February 2015)"New standards for compiling national accounts:what’s the impact on GDP and other macro-economic indicators?")。OECD.Statにおける2010年の一般政府の総固定資本形成の対GDP比は、改定前の2.5%が改定後に4.1%へと1.6%ポイント上昇しており、この上昇には、兵器システムと政府機関によるR&Dの両方が寄与しているのではと思われる。

 米国以外のEU各国や韓国も同時期にOECDデータが2008SNAベースに切り替わっており、日本だけは、切り替えが平成17 年(2005 年)基準改定が行われる2016年と遅れているので、その間は、同じ基準では比較できていないことになる。ただし、日本の場合、政府によるR&Dや戦艦等の兵器システムへの支出額は、欧米、特に米国ほどの規模ではないので、改定幅もそれほど大きくないと見込まれる。

SNAにおける資本概念の変遷
68SNA 93SNA 2008SNA
軍事耐久財 中間消費扱い 非軍事目的にも使用されるもの(軍用の道路、橋、軍用飛行場、ドッグ、病院等)は固定資本、兵器システムは政府消費 軍事目的の兵器システム(兵器及び兵器を運搬する車輌、船舶、航空機等)も固定資本
知的財産 有形物のみ固定資本 無形資産のうち鉱物探査、コンピュータ・ソフトウェア(データベースは大規模のもののみ)、娯楽・芸術作品は固定資本 大規模以外のデータベースも固定資本
研究開発(R&D) 中間消費または要素費用扱い 固定資本扱いは見送られ、不変 固定資本
固定資本減耗 道路、橋、トンネル、ダム、空港などの公共資本は計上しない 公共資本を含めてすべての耐久生産財を計上する  
(資料)藤岡文七、渡辺源次郎(2004)「テキスト国民経済計算」、奥本佳伸(2012)「新しい国民経済計算体系2008SNAについて」

(2010年5月31日収録、12月25日更新、2011年12月27日更新、2012年12月27日更新、2013年12月26・27日更新、2015年1月16日更新、2月18日コラム追加、2016年3月16日更新)


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