国際共同調査として毎年行われているISSP調査の1996年調査は「政府の役割」をテーマとしており、その中で、治安や防衛といった当然のように政府の責任が大きいと考えられる事項ではない経済社会関係の事項について、それらが政府の責任かどうかをきいている。

 ここでは、日本人がそれらを政府の責任と考えている程度を項目間で比較し、また他国と比較したデータを掲げた。比較は評価点(政府の責任と考える程度が高いほど高い点数)とその26国・地域中の順位で行っている。20年前のかなり古いデータであるが、そうそうは変化しない基本的な考え方であるし、こんな形で多くの項目について同時に調べた例はないので取り上げる意味はあろう。

 まず、項目の中で、「物価安定」と「対企業環境規制」の評価点がその他の項目より高く、また、海外と比べてもこの2つだけが調査国平均を上回っている点で目立っている。日本人は過去にインフレや公害問題において非常に痛い目にあったことがあるために、この2項目についてはこのように政府に期待することろが大になっているのだと考えられる。なお、この2つのうちでは、平均との評価点の差や対象国中の順位において、「物価安定」の方が「対企業環境規制」より政府の役割と考える程度は高くなっている。

 このデータのもう一つの特徴は、この2項目以外の経済社会対策では、いずれも対象国平均を下回っている点である。もちろん、すべて値は0以上なので、どちらかというと政府の責任だと考える傾向にはあるが、それでも他国と比較すると、日本人は概して政府の責任を低く見る傾向があるといってよい。その中でも特に政府の責任と考える程度が低いのは「大学奨学金」と「困窮者向け住宅供給」である。前者は対象地域中最下位、後者は下から2番目となっている。高等教育や住宅については政府に頼らず個々人が努力すべきだという考えが日本では特に根強いことがうかがわれる。

 主要先進国であるG7諸国では、米国とカナダは日本より政府の責任を低く見る傾向にある。英国は同じアングロサクソン系ではあるが、米国とは異なり、フランスやイタリアなどと同様にどちらかというと日本より政府の責任を強く考える傾向にある。

 ISSP調査ではこの調査の後も所得格差是正と社会保障については、それぞれが政府の責任かどうかをきいた調査を行っている。所得格差是正については図録4679、社会保障については図録2799を参照。いずれでも日本人は他国と比較するとそれらを政府の責任と考える程度が非常に低いことが分かる。

 なお、参考のために、以下に、各項目の調査票における表現と各国・地域の評価点順位を掲げる。

調査票における各項目についての表現
項目名 調査票の表現
所得格差是正 収入の多い人と少ない人の間にある所得の格差を縮めること
職業安定 A.働く意志のあるすべての人に仕事を提供すること
物価安定 B.物価を安定させること
医療供給 C.病気の人々に必要な医療を施すこと
高齢者生活維持 D.高齢者がそれなりの生活水準を維持できるようにすること
産業振興 E.産業が成長するように援助すること
失業者生活維持 F.失業者がそれなりの生活水準を維持できるようにすること
貧富格差是正 G.富む者と貧しい者とのあいだの所得の格差を少なくすること
大学奨学金 H.収入の少ない家庭の大学生に経済的な援助を与えること
困窮者向け住宅供給 I.家を持てない人にそれなりの住宅を提供すること
対企業環境規制 J.産業が環境を破壊しないように法で厳しく規制すること

どんな経済社会対策が政府の責任か(評価点順位)
順位 所得格差是正 職業安定 物価安定 医療供給 高齢者生活維持 産業振興 失業者生活維持 貧富格差是正 大学奨学金 困窮者向け住宅供給 対企業環境規制
1 スロベニア イスラエル・ア 日本 ノルウェー ロシア スペイン スペイン イスラエル・ア スペイン スペイン 東ドイツ
2 ポーランド ロシア ロシア ラトビア ノルウェー ラトビア ノルウェー スペイン スロベニア イスラエル・ア ブルガリア
3 ロシア ラトビア イスラエル・ア スペイン ラトビア ブルガリア アイルランド スロベニア ラトビア ロシア ロシア
4 東ドイツ スペイン イタリア 英国 スペイン イスラエル・ア 東ドイツ 東ドイツ ロシア アイルランド スペイン
5 スペイン 東ドイツ スペイン イタリア アイルランド スロベニア イスラエル・ア ポーランド アイルランド イスラエル・ユ アイルランド
6 イスラエル・ユ スロベニア スロベニア ロシア イタリア アイルランド ブルガリア イスラエル・ユ イタリア スロベニア イタリア
7 イスラエル・ア ポーランド フィリピン スロベニア 英国 イスラエル・ユ スウェーデン ロシア イスラエル・ア ポーランド チェコ
8 ハンガリー フィリピン アイルランド アイルランド スロベニア ロシア スロベニア ハンガリー フランス 東ドイツ スロベニア
9 フランス ハンガリー ノルウェー ハンガリー ポーランド 英国 ラトビア アイルランド ポーランド イタリア フランス
10 ブルガリア ノルウェー ブルガリア ニュージーランド スウェーデン ポーランド ロシア キプロス イスラエル・ユ フランス ニュージーランド
11 イタリア ブルガリア イスラエル・ユ ポーランド 東ドイツ ハンガリー フランス ブルガリア チェコ 英国 英国
12 アイルランド チェコ キプロス チェコ ブルガリア キプロス ポーランド フランス 東ドイツ ラトビア ポーランド
13 スウェーデン イタリア 東ドイツ 東ドイツ ハンガリー フィリピン キプロス イタリア ブルガリア キプロス ハンガリー
14 チェコ イスラエル・ユ スウェーデン ブルガリア イスラエル・ユ フランス 英国 ノルウェー キプロス ブルガリア 日本
15 キプロス 西ドイツ 英国 スウェーデン チェコ ニュージーランド 西ドイツ スウェーデン フィリピン スウェーデン 西ドイツ
16 ノルウェー キプロス ハンガリー イスラエル・ユ ニュージーランド オーストラリア イタリア ラトビア ハンガリー チェコ ラトビア
17 英国 フランス ポーランド カナダ 西ドイツ チェコ フィリピン 英国 英国 フィリピン イスラエル・ア
18 スイス アイルランド ラトビア 西ドイツ イスラエル・ア スウェーデン 日本 日本 ニュージーランド ニュージーランド スウェーデン
19 日本 英国 チェコ イスラエル・ア フランス イタリア スイス 西ドイツ 米国 西ドイツ オーストラリア
20 ラトビア スウェーデン フランス フィリピン 日本 ノルウェー カナダ スイス カナダ ハンガリー カナダ
21 西ドイツ 日本 オーストラリア キプロス カナダ 日本 イスラエル・ユ チェコ オーストラリア ノルウェー ノルウェー
22 オーストラリア スイス スイス オーストラリア オーストラリア 東ドイツ オーストラリア フィリピン 西ドイツ オーストラリア イスラエル・ユ
23 フィリピン ニュージーランド ニュージーランド 日本 キプロス カナダ ハンガリー オーストラリア スイス カナダ キプロス
24 カナダ オーストラリア 西ドイツ フランス フィリピン 米国 ニュージーランド カナダ スウェーデン 米国 米国
25 ニュージーランド 米国 米国 スイス 米国 西ドイツ 米国 ニュージーランド ノルウェー 日本 スイス
26 米国 カナダ カナダ 米国 スイス スイス チェコ 米国 日本 スイス フィリピン
(注)ピンクは日本、ピーチはその他G7諸国(ただしドイツは西ドイツのみ)。「イスラエル・ユ」は「イスラエル・ユダヤ地域」、「イスラエル・ア」は「イスラエル・アラブ地域」

(2015年12月11日収録、2016年2月25日評価点順位表でG7諸国にカラー)


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