はじめに

 2002年3月、産業構造の変化への対応と国際的な産業分類との整合性の観点から日本標準産業分類の改訂が行われた(第11回改訂)。これは、半世紀ぶりに大分類自体が新設されるなど非常に大きな改訂であったが、改訂の適用は2002年10月からとされており、国勢調査(次回調査2005年)や事業所・企業統計調査(次回本調査2006年)といった大規模なセンサス調査を経ていないこともあって、新分類に基づく分析や図表が出回っておらず、なお、それほど大きな関心は呼んでいないようである。また、詳細な対照表は総務省統計局のホームページなどでも公表されているが、簡便にして要を得た分かりやすい対照表はないようである。

 ここでは、産業分類の変更の主要な点をまとめた新旧対照表を作成し、この新旧対照表をもとに今回の改訂のポイントにふれるとともに、応用例として新分類で産業別の就業者を図示した。

(1)日本標準産業分類

 職業分類が個人を単位とする仕事の分類であるのに対して、産業分類は、事業所を単位とする経済活動の分類である。経済活動には教育、宗教、公務といった非営利の活動も含まれる。事業所とは財・サービスの提供が業として行われている個々の物理的な場所のことであり、1区画ごとに1事業所とカウントされる。工場、オフィス、店舗、学校、寺院、工事現場の直接管理事務所などがこれにあたる。産業分類は、企業など経済主体を単位とする分類ではないが、経済主体の分類にも準用される。

 日本標準産業分類が、各種統計の比較可能性を高めるために作成されているが、具体的には、各種統計の産業分類は、標準分類に準拠し、大分類以外で独自の区分を行うことはできるが、少なくとも足したり引いたりすると標準分類に一致するように区分けするものとされている。

(2)今回改訂の背景

 今回改訂が必要とされるに至った主な事情は次の2つである。

 1)情報通信の高度化、サービス経済化の進展等に伴う産業構造の変化への適合
 2)産業に関する国際的な分類との比較可能性の向上

 1)については情報化、IT革命、インターネットの普及、及び高齢化に伴う医療・福祉分野の拡大があげられる。2)については、グローバリゼーションの進展の中で、貿易や直接投資、経済援助など内外の産業交流の深まりに伴って、各国比較の重要性が高まっている点が重要である。

(3)主な改訂点

 今回の改訂では、何といっても大分類が新設された点が非常に大きな変化である。5つの大分類が新設され、分類数は13から18に増加した(分類不能の産業という1分類を除いて)。1949年の日本標準産業分類の作成以降、1957年に「運輸、通信及びその他の公益事業」から「電気・ガス・水道業」が分離独立して以来、大分類は変化していない(名称変更や順番の入れ替えは別にして)。しかも、複数の大分類から構成要素を集めて新しい大分類を作成するというような変化は、今回が、初めてである。新設された大分類を中心に主な改訂点は以下の通りである(「日本標準産業分類の新旧対照表」参照)。

1)大分類「情報通信業」の新設

 情報通信産業の拡大は世界共通の動きであり、米国もそれに準拠することとなった北米産業分類システム(NAICS)で情報産業(information sector)が大分類として設定され、国連の国際標準産業分類(ISIC)でも同じ分類名が補助分類とする動きとなっている。

 我が国でもインターネットや携帯電話の普及もあって、情報通信産業をひとかたまりにして議論されることが非常に増えており、新しい大分類として独立させる機は熟しているといえよう。

 情報の伝達、情報の処理、情報の創造に分けると、情報の伝達は通信・放送に該当するが、以前の分類では、双方向の「通信」(郵便を含めて)(2000年産業連関表速報の国内生産額22.8兆円)は「運輸通信業」に含まれており、片方向の通信である「放送」(同3.3兆円)は「サービス業」に含まれていた。ソフトウェアや調査など情報の処理や映画・ビデオ制作など情報の創造も基本的に「サービス業」に含まれていた。これらを合体して「情報通信業」が新設されたのである。

 なお、「製造業」からも「情報通信業」に属すると考えられる経済活動が移動させられた。すなわち、以前は製造業の1中分類であった「出版・印刷」(2001年工業統計で出荷額12.5兆円)から新聞・出版産業(同4.8兆円)が、また、こちらは小さいがレコード会社の企画・制作部門がこれまで情報記録物製造業に含まれていたのが「情報通信業」に移された。

 製造業は2001年工業統計で287兆円の出荷額があるが、そのうち1.7%にあたる分が2002年の結果からは失われることとなる。

 こうして新設された情報通信業は、労働力調査(2003年)によると、図のように、就業者規模では、164万人と金融・保険業161万人とほぼ同様の規模となっている。

2)大分類「医療、福祉」「教育、学習支援」の新設

 旧分類の「サービス業」は事業所数、就業者数のそれぞれについて全産業の約4分の1を占めており、かつ各種の経済活動が混在していた。サービス経済化の中で「サービス業」が経済全体に対する大きな影響を及ぼしているにもかかわらず、その内容が明確でない場合が多かった。そこで、サービス業を区分けした分類の必要性が高まっていた。

 サービス業の属する、医療、福祉に関わる分野については、高齢化の中でウエイトが拡大しており、また教育・学習支援も、人的投資の役割の高まりや余暇時間の増大などに伴って産業規模が拡大していることから、大分類の「医療、福祉」と「教育、学習支援業」を新設することとなった。

 「医療、福祉」の就業者数は労働力調査(2003年)によると図のように502万人と建設業の604万人に次ぐ大きな活動分野であることが分かる。「教育、学習支援業」も279万人と農業の260万人を上回る産業となっている。

3)大分類「飲食店、宿泊業」の新設

 卸・小売業と一緒にされていた飲食店は、サービス業としての側面が高まっていた。また宿泊業(ホテル・旅館)は、飲食の提供に係る収入のウエイトが高くなっていた。また、両者ともレジャー関連の側面を共有し、海外の産業分類でも1つにされている場合が多い。そこで、この2つを合わせた大分類「飲食店、宿泊業」が新設された。

4)大分類「複合サービス事業」の新設

 運輸通信業に含まれる郵便局は郵便事業のほか、郵便貯金、簡易保険といった大分類にまたがる複数の事業を行っており、また協同組合も中心を占める総合農協が経済事業、信用事業、共済事業などを兼業している場合が多く1つの大分類に収まりきらない。このため、便宜的に大分類「複合サービス業」を設けて、これらを含めることとしたものである。

5)中分類「電気機械」が3つの中分類に分解

 製造業の中分類「電気機械」のうち、テレビ、ラジオ、電話機、オーディオその他の通信機器とコンピューター、同付属装置などの情報機器を合わせた「情報通信機器」が中分類に昇格、また同じく中分類「電気機械」に属する小分類であったICやコネクタ、コンデンサなど「電子部品・デバイス」がやはり中分類へ昇格、その他が「電気機械」となった。製造業の場合、中分類もよく使用されるので、この改訂も大きな影響をもつと考えられる。

6)その他

 上記でふれた以外の大分類をこえた項目の移動としては、サービス業に含まれていた「駐車場業」が「不動産業」に移されているのが目立っている。
 中分類の新設としては、情報通信業に属する「インターネット付随サービス」がかつての中分類「通信業」や「情報サービス業・調査業」から独立した。プロバイダーやポータルサイト運営業、電子認証業などがこれにあたる。

(2004年6月2日収録)


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