交通手段の発達により人々の地域間移動は全般的に活発となっているという印象があるが、都道府県間で移住する人口については、むしろ減っている。高度成長期末期の1970年代前半には400万人を超えていた県間総移動者数は、その後、一貫して減少を続け、近年は、250万人を下回っている。純移動者数(流入超過地域への流入超過数合計)はやはり高度成長期と比較すると大きく減少したが、総移動者数と異なり一貫して減少することはなく、1990年代後半以降のこの20年間では増減を繰り返している。なお、総人口に占める移動者数を移動率として計算すると総移動率は1990年の2.56%から2016年の1.79%へと低下している。

 なお、参考に東京圏への流入超過数の動きを併載したが、人口流入地域が1990年代後半以降、東京圏に限定されてきている状況が明らかである(図録7675参照)。

 全国的に人口移動が低下する傾向は米国ではもっと顕著である。

 米国における人口移動率の推移についての研究の成果を英国のエコノミスト誌が要約している(The Economist, "Free Exchange: Move over", July 7th 2012)。


 米国人は引っ越し好きであり、米国の州間移動率はカナダの州間移動率の2倍となっているとのことである。ところが米国の総移動率はこの20年間に3%から1.5%へと驚くような勢いで低下している。

 その理由としては、まず想定されるのは、@移動率がそもそも低い高齢者の比率の増加、そしてA専業主婦世帯ほど新たな職を求めた地理的移動が容易ではない共稼ぎ夫婦の増加である。しかし、移動人口の属性分析から移動率の高い若年層自体の移動率も低下しており、また共稼ぎ世帯か専業主婦世帯かで移動率に差がないことから、これらの理由は当てはまらないことが分かっている。

 そこで、総移動率の低下は次の2つの要因によるものと結論づけられている。第1に、地理的な生産の集中が可能な物的生産から医療や教育のように地域ごとの立地が不可欠のサービス生産に経済の中心がシフトしたことによって、地域的な職業構造の均質化が進展し、人口移動自体が余り必要でなくなったためである。第2に、WEBなどによる情報流通が著しく発展し、土地土地の生活や仕事に関して転居してみないと分からないようなことが減っていて、人口移動の効率が上昇しているためである。

 なお、総移動率の低下とは対照的に、純移動率がほぼ横ばいなのは、米国の南部諸州やロッキー諸州への移動などが所得格差や生計費格差の存在によって、なお、必要となっているためだとされる。

 日本の場合は高齢化の進展度が大であり、移動率の低い高齢者の増加という高齢化要因が働いている可能性も大きいので10年おきに行われる国勢調査の移動人口調査から年齢別の移動率を1990年、2000年、2010年、2015年について算出してみると(2015年は東日本大震災の影響を見るため特別に人口移動調査実施)、米国同様、若年層など移動率の高い層ほど移動率が大きく低下している(下図参照)。従って、高齢化だけが総移動数の低下の要因ではなく、米国と同じように、サービス経済化による職業構造の地域的な均質化や転居効率の上昇(無駄な転居の減少)によって総移動率が低下している可能性は大きいといえよう。同じ理由によってだと思われるが、地域別の失業率や就職内定率の格差・バラツキが縮小傾向にある点については図録3161参照。

 なお、30代〜50代の移動率が低まっていないのは、単身赴任が増加しているからだと考えられる。もし子どもも連れての移住ならば、5〜19歳の移動率と同じ動きを示すはずであるが、そうはなっていない点から、単身赴任の影響だと判断できるのである。また、2015年の値については、2011年の東日本大震災による他県避難の影響が5年前他県居住率を上昇させる方向に作用しているはずであるが、2010年と比較してもその影響が見られないということは、それだけ移動率低下の一般傾向がそれを上回っていたからと考えられよう。


(2014年6月20日収録、2016年4月22日更新、図に東京圏流入超過数追加、4月26日5年前他県居住率1990年値追加、2017年5月21日更新)


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