アジア諸国の年齢別自殺率をOECD資料によって比較した。

 基本的には、高年層(65歳以上)の自殺率が他の年齢層と比較して高くなっている。多くの国でそうであるし、OECD平均でもアジア太平洋平均でもそうである。一般的に、病気や体力、そして所得等の生活力や将来への希望などにおいて高齢者は不利な立場にあるからだと考えられる。

 ところが、日本は中年層(35〜64歳)が最も自殺率の高い年齢層となっている。中年層の自殺率が最も高いのは、図中では日本だけの特徴である(図録2770参照)。もっとも以前は(1990年代以前は)、長い間、日本も高年層の自殺率が他の年代より大きく上回っていた(図録2760)のであり、中年層が最も高いのは近年の特徴である点には留意が必要である。

 日本の自殺率が国際的に高い点はしばしば指摘されるところである。確かに、日本の場合、若年層(15〜34歳)、および中年層(35〜64歳)の自殺率は図に掲げた国の中で最も高い。ところが、65歳以上の高齢者については図中の第4位であり、特別高い値にはなっていない。

 若年層(15〜34歳)の自殺率が最も高い国がある。タイとニュージーランドがそうである。

 韓国、中国、香港の特徴は、高年層の自殺率が特段高い点にある。高年層の自殺率の対中年層比を求めると、それぞれ、2.6倍、3.0倍、2.0倍となっている。

 高年層の自殺率が最も高い韓国では、その背景として、高齢者の孤独と貧困が指摘されている。韓国では急速な経済発展の中でソウルへの人口流入が続き、農村部に残された高齢者が孤立している。都市部でも、核家族化のなかで、儒教精神に支えれらた、かつてのような親子関係は見られなくなった。「子どもが老親を扶助すべきだと考える韓国人は、国立統計局によれば、1998年には90%だったのが、現在では3分の1に減ってしまっている。にもかかわらず、1988年に導入された国民年金を給付されている高齢者は3分の1に過ぎない。低所得70%階層に月20万ウォン(2万円)を支給する基礎老齢年金プランが昨月通ったが、これは65歳からの支給である。働ける者は、駐車場の管理人、街路の掃除人、警備員などとして働くことになる。」(The Economist December 7th 2013)

 韓国の高齢者の主な所得源として年金に依存する割合は少なく、勤労所得や子への依存が多い点については図録1320参照。

 韓国における全体の貧困者の増加は図録4653、高齢者の貧困度とその推移は図録1305参照。

 日本の場合は韓国との対比では、社会保障の普及、特に高齢者の医療・年金の充実が、かつては高かった高齢者の自殺率の低下に結びついたことが明らかである(図録2760、図録2796)。

 子どもに主として経済的に依存する老人の割合は2010年に、韓国では30%であり、日本の2%と比較して非常に高くなっている。しかし、日本も1970年前後には同水準の状況だった(図録1320)。その後、年金制度や健康保険制度における国民皆保険の進展が子どもに経済的に依存しないで済む現在の日本社会を生んだのである(図録2796)。日本も、かつては、老親の面倒を見る子どもがいれば良いが、そういう状況にはない老人も多く、そういう場合に蓄えのない老人が生活の困窮に陥る可能性は非常に高かったのである。1970年と2010年の日本の年齢別自殺率を下図に示した。1970年当時には、日本も韓国と同様に高齢者の自殺率が際立って高かったことが分かる。社会保障が充分機能していないとこうした状況を避けることは難しいのであり、だからこそ親や高齢者を大切にするべきだという儒教道徳が重要だったのだ。


 高齢者の自殺率の日韓格差には、民主主義国では票数の力がものをいうことも影響している。日韓の人口ピラミッド(図録8900)を見れば、高齢者が多い日本では、高齢者に優しい政策(つまり高齢者以外には優しくない政策)が選択され、高齢者が少ない韓国では高齢者に優しくない政策が選択される傾向があるのである。かつて私は、韓国の高齢者2人(片方は在日、片方は在韓)が「日本では老害といわれるが、韓国はむしろ若害ですな」とお互いに嘆きあう会話をしていたのを思い出す。儒教国にもかかわらず、韓国人においては「年長者を敬う」という徳目は余り重視されていない点については、図録8068参照。

 アジアでは福祉国家思想より自力救済の考え方の方が根強く、その分、社会保障は広くても手薄いのが特徴となっている(図録8034)。その中で日本は欧米に倣った福祉国家を実現しており例外的に社会保障が手厚くなっている。そして、このことが、高齢者が相対的に低いという自殺率の年齢構造にも反映していると理解することができる。自民党の保守政治家は「アジアのおっさん達」特有のとも言うべき自力救済思想を抱いており、たまたま2大政党制へ向かう政治対立の中で、高齢者に優しい社会保障政策に傾斜して来ていたが、最近は、また1大政党制が復活しているので(図録j011参照)、中年層の自殺率が高いというある意味でいびつな構造は今後通常パターンに復帰していく可能性もある。

(2014年1月21日収録、24日コメント文改訂、25日日本の年齢別自殺率の図を追加)


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