東アジア諸国で重視される精神態度について、親が子に教えたい徳目を調査した国際意識調査(アジアバロメーター調査)の結果から探ってみよう。すでに世界各国については世界価値観調査の結果から同じ質問の仕方の調査結果(選択肢は少し異なるが)を掲げたので、これと見比べると興味深い(図録9463参照)。ただし、世界価値観調査で重要な徳目だった「寛容性」と「責任感」が選択肢になかったので比較の際は注意が必要である(これらが欠けていること自体、アジアの調査らしいと欧米人には見なされるかもしれない)。また総務庁(現内閣府)が行った日韓米の比較については図録9464に掲げた。

 なお、シンガポールとベトナムは普通は東南アジアに区分されるが、広い意味で中国文化圏に入るという意味でここでは東アジアの一部としている。

 親が教えたい徳目として回答率が高かったものから上位3位を見ると日本と韓国を除く各国で、「独立心」、「勤勉」、「正直」の3項目が上位3位を占めており、東アジアの国民の精神態度の共通性が見て取れる。

 これらの国の1位項目は、中国は「独立心」、香港、シンガポールは「正直」、台湾、ベトナムは「勤勉」である。

 原資料となったアジアバロメーター調査を実施した政治学者の猪口孝らは、こうした上位3位までの結果(ただしベトナムを除く)から、各国は、儒教的な徳目を上位にあげているばかりでなく、「信仰心」や「競争心」といった非儒教的な徳目を避けている点にも共通点があることから儒教に源をもつ文化的に似通った圏域に属すると結論づけている(猪口孝、ドー・チュル・シン編(2011)p.6〜7)。

 韓国と日本は、トップ項目が、これらの国の3位までの項目でない点で目立っている。すなわち、韓国は「誠実」が1位、日本は「思いやり」が1位である。しかも日本の「思いやり」は66%と他の国の1位の回答率の高さを大きく上回る比率となっている点でも目立っている。

 長い間、中国文明の影響下にありながら、韓国と日本は独自な展開を図ってきた歴史が反映しているともいえる。特に日本は違いが大きくなっており、この点に独自性の大きさを見て取ることもできよう。

 さらに、グラフをヨコにもタテにも見て、各国ごとの特徴をさらに見ていこう。すなわち、順位の高い徳目が何かということに加えて、7か国中で回答率の高さや低さが目立っているかにも注目してみよう。

(中国)

 中国では、7か国中、もっとも回答率が高いのは、「独立心」のほかに「競争心」がある。子どもに「ほかの子に負けちゃダメよ」と教えることが多い訳であるが、これが中国の発展の原動力となると同時に対内的・対外的な各種の弊害の源ともなっていると感じられる。

 なお、中国では、「年長者を敬う」がベトナムに次いで高い値となっている。これについても良い面と悪い面とがあるだろう。

(香港)

 香港はベトナムとともに、余り突出した徳目がなく、良くいえばバランスが取れている、悪く言えば特徴の余りない中間的性格の国民と見なされよう。

(日本)

 日本は何といっても「思いやり」という回答の突出が目立っている。また、「忍耐」が7か国中もっとも多い点も目立っている。これは、島国のため、相互に角を突き合わせることをなるべく回避する精神性が育っているからだとも考えられる。現代は人の移動や情報流通が過去と比べ非常に発達し、世界中がひとつの島国のようになってきているので、日本人の精神的態度は他国民の参考になるのではないかと思われる。この点については、図録9520のコラム「中間的回答の多い日本人 〜あいまいな日本人〜」や国際シンポにおける私の発言を参照されたい。また同様の結果が別調査でも見られる点については図録9464参照。

 なお、この点と関連して、日本人の集団主義は「思いやり」による機能的な集団主義であり、中国のような「上意下達」による規範的な集団主義ではないことを本川裕(2014)でふれた。図録8062参照。また、猪口孝らは、日本の特殊性を示すこうした回答が「文明化についてのサミュエル・ハンチントンの8分類において、日本の文明化が中国の文明化と異なっていることの理由を説明してくれるかもしれない」と言っている(同上、p.7)。

 日本の回答については、こうした特徴がある反面、複数回答が2つまでということもあって、回答率が低い徳目もある。特に、「勤勉」と「謙虚さ」については7か国中もっとも回答率が低くなっており、この点は、他の東アジア国民からは、日本人の好ましからぬ態度と見なされる原因となっている可能性もあろう。

(韓国)

 韓国は「誠実」へのこだわりが半端ではない。この点を配慮して韓国人とは交流する必要があろう。また、韓国は意外なことに「競争心」の回答率が最も小さい。「競争心」を望ましい精神的態度としては、余り重視していないにも関わらず、過酷な競争社会で生きていかねばならないことから、韓国人のストレスは頂点に達しているのだと理解できる。自殺率の急上昇(図録2774)や貧困の拡大(図録4653)にそうした厳しい状況があらわれているといえよう。

 これら以外の韓国の特徴として「教師を従う」への回答率が儒教国らしく、2位のベトナムや3位の中国を上回って7か国中もっとも高い点が目立っている。それと同時に儒教国にもかかわらずといってよいだろうが。「年長者を敬う」は、7か国中、もっとも低い回答率となっている。韓国では「老害」ではなく「若害」が問題だと言われることがあるが、これでは、そうならざるを得ないだろう(図録1320、図録8031参照)。

(シンガポール)

 シンガポールは7か国中「正直」がもっとも多いほか、「信仰心」ももっとも多い点が特徴である。

(台湾)

 台湾は「勤勉」が1位徳目であると同時に、2位の中国を上回って7か国中もっとも高い値である点が最大の特徴である。私の台湾訪問の印象では、世界から国として認められていないだけに、ともかく働いて何とか生きていかねばという感覚があるのではないかと感じられる。台湾の商店の売り方では、2つでなく3つ買ってくれればもう1つおまけするよ、という風習が根付いており、国民全体が売るのに熱心な商業民であるという印象がある。

(ベトナム)

 ベトナムは上位4位までが3割台と突出した徳目がないのが特徴であるが、4位の「年長者を敬う」が4か国中もっとも高い値である点と「信仰心」が7か国中もっとも低い点も目立っている。「信仰心」の値が低いのは中国と共通であり、共産主義の浸透の影響が大きいと考えられる。ベトナム人が神や死後の世界をまるで信じていない点は図録9520参照。

【参考文献】
・猪口孝、ドー・チュル・シン編(2011)「東アジアのクオリティ・オブ・ライフ」東洋書林
・本川裕(2014)「似ているようで似ていない東アジア人」((公財)統計情報研究開発センター「エストレーラ」12月号)

(2015年3月11日収録)


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