キューバへの黒人奴隷の移入過程については、図録8826で示したが、ここでは奴隷貿易で連れてこられた黒人奴隷の出身部族の地図を掲げた。

 ヨルーバ族(ルクミー)、カラバリー族、コンゴ族がキューバの3大部族とされるが、西アフリカから中部アフリカへかけての地域からの奴隷貿易が多かったことがうかがえる。

キューバ黒人奴隷の出身部族
部族名 コメント
ヨルーバ族(ルクミー) 現在も奴隷海岸に住む部族であるがキューバではルクミーと呼ばれる。カラバリー、コンゴとともにキューバの3大部族のひとつ。ヨルーバと同じグループの部族もルクミーをつけて、ルクミー・エグバード、ルクミー・オヨ、ルクミー・エキティなどと呼ばれる。
カラバリー族 2つのグループからなる。すなわち、エコイ、エフィク、イビビオ、メベンベ、エコなどのベヌエ・コンゴ語族と、イボ、イジョなどのクワ語族である。
コンゴ族 モンドンゴ、バンゲラ、マヨンベ、ムカーヨ、ビソンゴ、キ・コンゴなどを総称してコンゴ族と呼ばれている。ヨルーバ族と並んでアフリカ文化遺産のもとになっている。
マンディンガ族 アラビア語圏に近いため、キューバに到達した当初からイスラム文化をもたらした。
ミナ族 同じ地域のポポ族やフォン族とともにクワ語族のエウェ語を話している。キューバのみならずハイチなどカリブ海地域へ輸出され、そこでヴードゥ教を広めたことで知られる。
マクア族 奴隷貿易が最終段階となってモザンビークから連れてこられた。人数は少ないが短期間に大量輸入されたため存在が注目された。
ガンガ族 TとUの2地域に分布する部族。ガンガ族Tはみずからをガンガ・ゴラ、ガンガ・ファイ、ガンガ・コノ、ガンガ・クラモ、ガンガ・トムなどと呼んでいた。ガンガ族Uはシエラ・レオーネを占領した英国が1808年に奴隷貿易を中止したためガンガ族Tやマンディンガ族が輸入できなくなって19世紀前半以降にキューバに連れてこられた。
(資料)神代修(2010)

 キューバでは奴隷貿易の終焉や奴隷制の廃止が英国植民地や米国よりずっと遅れたことにより、また彼らが出身部族ごとにカビルド会を形成していたことにより、アフリカの伝統を色濃く保っていた点については、図録8826参照。

 この結果、例えば、ヨルーバ族の宗教儀式では、主たる楽器(太鼓)としてバタが使われ、コンゴ族の音楽ではコンガが使われるというように、音楽の形式や伝統も出身部族により異なっている。そして打楽器の位置づけの違いにより、キューバのポピュラー音楽ではバタは使用されず、もっぱらコンガが多用されるに至り、その結果、世界的にも普及していくという差異が生じた(韓国伝統音楽では起源の異なるカヤグム(伽耶琴)とコムンゴ(玄琴)という音色もかなり異質な2種類の琴が使われるが、カヤグムはコンガ、コムンゴはバタに位置づけが似ている)。

 米国では、黒人は、キューバと異なり、アフリカ伝来の楽器を失い(ジャズの楽器のなかにはアフリカ伝来の打楽器がなく、すべてヨーロッパ起源の楽器で音楽が演奏される)、宗教も白人のキリスト教を信仰するに至った。キューバでは、むしろ、白人が黒人のアフリカ伝来の宗教を信仰するに至っている(見かけはカソリックであるが、キリスト教の聖者はアフリカの神様たちなのである)。

 キューバにおけるこうした宗教のシンクレティズムについては図録8820参照。私見では、こうした宗教現象と同様に、キューバ音楽では、ギターやティンバーレス、フルートなど白人の楽器でも黒人の魂で演奏し、米国におけるジャズなどの黒人音楽では、アフリカ由来の音楽を演奏しているようでも、それは白人の魂を借りて演奏しているのである。

【コラム】 黒人奴隷のアフリカ出身地(Robin Moore 2010による)

 大西洋の奴隷貿易で目立っているのは、以下の3つの主要な西アフリカの文化グループである。

(1)ギニア、スーダン、北ナイジェリア、ガンビア、シエラレオーネ地域のアシャンティ族、マンディンガ族、ウォロフ族といったイスラムの影響を受けたサバンナ地域、

(2)現在のアンゴラ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国といった地域のバンツー・コンゴ諸部族、

(3)現在のカメルーン、ナイジェリア、ベナンの地域の特にヨルバ族、アシャンテ族、フォン族、イボ族といった熱帯雨林あるいは沿岸地域のグループ

 中南米の各国の植民地政府は異なる地域から奴隷を購入した。

 アフリカの黄金海岸地域を支配していた旧英国植民地では(1)のグループの奴隷が多かった。

 ポルトガルの奴隷商人によって支配されていた(2)のバンツー族グループは、ポルトガルやスペインの植民地で特に目立っていた。全体として、新世界に捕虜として連れてこられ、奴隷に売られた者が最も多かったのは、この地域の奴隷商人からであった。

 最後に、(3)のヨルバ族起源の伝統は、キューバやブラジルなど奴隷廃止前の最後の数十年間に奴隷貿易がピークを迎えた国々で最も目立っている。19世紀半ばに現在のナイジェリアやベナンといった地域でおこった政争により、これら地域から、非常に多くの囚人が奴隷として売られる結果となったのである。(p.53〜54)

(参考資料)
・神代修(2010)「キューバ史研究―先住民社会から社会主義社会まで」文理閣
・Robin Moore(2010), Music in the Hispanic Caribbean: Experiencing Music, Expressing Culture, Oxford Univ Pr

(2010年12月6日収録)


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