かつて米国社会は「人種のるつぼ」といわれたが、現在では「人種のサラダボール」と言われるようになった。これは異なる人種が支配的な文化に同化していくことはなく、異なる文化を抱えたまま同居している状況となったことを意味している。

 さらに、目指すべき社会の方向性として、様々な人種、民族、集団がそれぞれの独自性を保ちながら、他者のそれも積極的に容認し共存していこうという考え方が生まれ、同化主義に対して、多文化主義(Multiculturalism)、あるいはイズムを嫌ってダイバーシティ(Diversity)と呼ばれるようになった。

 ヨーロッパ諸国で移民を受け入れていこうとする姿勢の背景には多文化主義の考え方が存在している。

 2016年のピューリサーチセンターが毎年春に行っているPew Global Attitudes Surveyでは、前年からのシリア・イラク難民の急増や各国における移民問題の深刻化を踏まえて、2016年には、ヨーロッパ主要国で多文化主義が是か非かの設問を設けた。図はこの設問の回答結果をグラフにしたものである。「住みよさにつながる」と「住みにくさにつながる」との回答差(%ポイント)をDIとして算出し、この順番で国を並べた。

 英国は2016年6月にEU離脱かどうかを決める国民投票が行われることになっていたので国内で移民問題についても議論が沸騰したため、ここでの「住みよさにつながる」もその反対の「住みにくさにつながる」もともに値が増えていると考えられる。この点についてはダイヤモンド・オンラインの連載「英国以外にEU離脱しそうな国をデータであぶり出す」(2016.6.29)も参照。

 それでもDIとしては、大きなプラスで多文化主義の考えが多数派となっているスウェーデン、スペインに次いでフランスとともにややプラスの位置に立っており、ドイツやオランダで、むしろ、多文化主義と反対の考え方が多数派となっているのとは対照的である。

 ちなみに参考までにそもそも移民国家として成立した米国の値と比較すると、欧州の多文化主義は最も普及している国でも米国にはかなわないことが分かる。

 さらに、東欧のハンガリー、ポーランド、そして南欧のイタリア、ギリシャでは、難民の流入も多く、多文化主義とは反対の意見が圧倒的となっている。

 参考に掲げた国内のイスラム教徒に対する感情としては、スペインを除いてスウェーデンからオランダまでの国民はほぼ6割以上が「親イスラム」だと回答しており、民族差別的な感情からは遠くなっている。ドイツ、オランダは、多文化主義は間違いという考えだが、ナチスの負の教訓からか具体的な他民族の存在には寛容さを示しているといえよう。多文化主義で反差別的のスウェーデンやフランス、あるいは反多文化主義で民族差別的なイタリアやギリシャから見れば、ドイツ、オランダは偽善的だと見られないこともなかろう。

 2番目の図にはイデオロギー別の多文化主義傾斜度をあらわした。いずれの国でも左派は多文化主義への傾斜度が高いことが分かる。

 英国の左右両派の傾斜度の差が大きいのは上述と同じ理由であろう。英国に次いでドイツ、フランスの差が大きくなっており、主要国では、国内意見の違いが大きいことがうかがわれる。米国は、全体に多文化主義的な意見が強いが、リベラルと保守の差は、欧州以上に大きくなっている。

 なお、スペインと米国を除くと、中道派の意見が右派に近いものとなっている点も目立っている。左派の多文化主義への傾斜がやや国内で浮いている状況のようにもとれる。美しい偽善はかえって危険ともいえようか。

 ここで、対象となった欧州諸国は、10カ国であり、図の順に、スウェーデン、スペイン、英国、フランス、ドイツ、オランダ、ハンガリー、ポーランド、イタリア、ギリシャである。参考に米国も付け加わっている。

(2016年7月19日収録)


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