世界の主要国の低地居住人口、具体的には標高10m未満に居住している人口と人口割合を図に掲げた。高地も含んだ日本の標高別の土地面積・居住人口については図録7231参照。

 10m未満の低地に居住している人口が最も多いのは中国の1.5億人であり、これにインドの7,400万人、ベトナムの4,500万人、インドネシアの4,300万人と続き、日本は3,100万人と世界第5位である。そして第6位にはじめてアジア以外の国として米国の2,600万人が登場する。ヨーロッパではオランダが1,100万人と最多である。

 河川の下流域に開けた水田地帯を背景にした稠密な人口分布というアジアの地理的な特徴がこうしたランキングにあらわれているといえよう。

 全人口に占める10m未満居住人口割合ではオランダが73.4%と最も高くなっており、俗に「世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った」と言われるように干拓で出来上がった国としての特徴を如実に示している。ただし、オランダやオランダと似たような特徴を示すデンマークなどはアジア以外では例外的な国である。

 10m未満居住人口割合の第2位は南北に細長い国土の中に広大なデルタ地帯を有するベトナムの58.1%である。アジアには、この他、タイの26.0%、シンガポールの24.6%、日本の24.1%、マレーシアの23.4%と20%台の国が多い。

 一方、低地居住の人口規模では世界1〜2位の中国、インドであるが、比率では、それぞれ、11.8%、7.3%それほど高くはない。この両国は、大河川の中流域にも水田地帯を有し、また水田地帯とともに畑作地帯を大規模に抱えている点に農業上の特徴があり、河川下流域以外にも国内に大きな人口集積を抱えているため10m未満居住人口割合は必ずしも高くないのだと考えられる(図録0431参照)。

 欧米諸国と比較して日本の低地居住が多いという点については、山がちの細長い島国なので海岸沿いの低地に人口分布が集中している非常に特殊な国だと考えるより、むしろ、水田農業の歴史を共有しているために低地居住の人口が基本的に多いというアジア共通の特徴をもっていると考えた方がよいといえる。高人口密度低地地帯の洪水被害対策、あるいは津波による地震被害への対策はアジア共通の重要課題だといえよう。

 江戸時代の日本は沿岸及び河川を和船でつなぐ水運ネットワークで結ばれており、江戸は運河がめぐらされた水の都であった。海港とともに河川の港である河岸が重要な役割を果たしていた。明治以降の近代化は国内運輸の側面では水上交通から陸上交通への転換として特徴づけられる。こうした転換を鈴木理生(1978)は次のような国土づくりの基本方針の転換として整理している。

「和船の系譜が根絶した根本的な理由は、政府の国営鉄道優先政策と、治水技術の切りかえ、つまり低水工法から高水工法への移行にあった。低水工法の思想は、やたらに森林を荒らさず水源地を大切にし、流出する土砂を最少限におさえる「治山・砂防」を基本とする技術であった。高水工法には水源地を護るという思想はなく、水源森から大量の木材を切り出した結果、降雨が一挙に洪水化する現象に対して、”力には力で”という技術の思想である。堤防の嵩上げ−洪水による破壊−堤防の嵩上げという悪循環をきたすこの技術への転換は、堤防構築による河岸の消滅をもたらした。」(p.213)

 これは、アジア・モンスーンの影響や水田農業の伝統のない欧米の風土では合理的なインフラ思想がアジアでは必ずしも合理的ではない場合があることを示しているのではないかと思われる。堤防で防ぎきれない洪水に対して計画的に溢水させる部分を作り込む信玄提(霞提)のことを学校の地理の授業で習って驚いたことを思い出す。福島第一原発の設計・管理思想には、低地で暮らすアジア的な合理性が考慮されていなかったために、「想定外の」津波被害で放射能事故が起こり、いままた、地下水の影響による汚染水対策の困難に逢着しているのではないだろうか。かつての日本においては上流からの水流・土砂対策として河川の流路変更や放水路の開削は下流部インフラ管理の基本であった。この点を思い出し、原発事故直後に上流からの地下水流を迂回させる対策をはじめていれば、いま(2013年夏)、こんなに汚染水対策に困ることもなかったのではなかろうか。

(参考文献)
・鈴木理生(1978)「江戸の川・東京の川 」NHK放送ライブラリー16

(2013年9月24日収録、25日補訂)


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