□アフリカにおける国境を越えた河川利用

 国連開発計画(UNDP)は毎年「人間開発報告書」を作成、公表している。人間開発指数など定常的にフォローしている項目の他、消費、技術、人権、文化、国際協力など、毎年、テーマを変えて、人間開発の状況を分析し、提案を行っている。

 2006年の人間開発報告書のテーマは、「水」である。水利用についての大きなテーマの1つは、国を越えた流域と水利用の共同性である。

 図録9417では、世界の主要な国際河川の流域国数と構成国のグラフを示したが、ここでは、流域と国境のズレが目立っているアフリカ大陸の状況を地図上に図示した。

 ある川の流域を多数の国が共有する、あるいは、ある国が複数の流域をもつというのならまだしも、流域と国境域が相互に食い違っているのがアフリカの特徴といえよう。ナイル川などは、まだ、ひとつの大河の流域を複数の国で共有しているという傾向がみられ、ドナウ川のようなパターンに近いが、他の河川では流域を複数国で共有すると同時に構成国が他の大河の流域にもなっているという状況である。

 アフリカ分割という名の1880年代に本格化した西欧列強による植民地獲得競争がこうした状況の淵源となっており、今日のアフリカ諸国の低開発のひとつの大きな要因となっていると考えられる(アフリカ諸国の発展が他大陸とことなる推移を辿っている点については図録1125参照)。

□ナイル流域の状況

 全長約6650qの世界最長の河川の1つナイル川は、図のようにアフリカ11カ国に流域が及んでいる。当然、下図のように下流国ほど水源の国外依存度が高いが、歴史的経緯から、下流国の水利用に関して有利となっている取り決めに上流国が反発する構図が続いている(毎日新聞2009.10.5より。以下同様)。


 2009年7月にエジプトのアレキサンドリアで開かれた「ナイル流域イニシアチブ(NBI)」(99年発足、9カ国)の閣僚会議では、水利権拡大を目指す上流・水源国と最下流エジプトとの対立が解けなかったため、新協定案の合意が先延ばしとなった。

 NBIの構成国はエジプト、スーダン、エチオピア、ウガンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、ルワンダ、プルンジ、タンザニアの9カ国、エリトリアがオブザーバー参加となっている(流域11カ国のなかで中央アフリカのみ不参加)。

 ナイル川の水配分は基本的に以下の2つの協定によっている。

1.1929年のエジプトと英国(支配下4カ国を代表)との協定
2.1959年のエジプトとスーダンの協定

 これら協定によれば、ナイル川年間水量推定840億トンのうち蒸発喪失分約100億トンを除き、エジプトが555億トン(約75%)、スーダンが185億トン(約25%)の取水権をもっている。他の流域国に関しては「要求があれば両国が共同対処する」(59年協定)となっているのみだという。エジプトは取水に影響が出る上流国での開発に事実上の拒否権も保持している(29年協定)。

 従来からの権利を主張するエジプトと食料問題や貧困撲滅に取り組むためには既存協定が植民地時代の悪しき残滓と考える上流・水源国(エチオピア、ケニアなど)との対立は解決の困難な課題となっている。

 途上国開発のためNBIを支援する世界銀行や水利用における開発援助を積極化して世界でのプレゼンスを高めたい日本にとって、ますます深まるこうした国境を越えた水争いにどのように対処していくかが問われている。

□南スーダン独立をめぐるナイル川水利権の状況

 毎日新聞(2011.7.8)によれば、エジプトとスーダンの59年協定に対して「水需要の高まりを背景に、ケニアやウガンダなど上流国は反発。新協定を作り、今春までに6カ国が署名した。「他の国に悪影響を与えない範囲なら自由に取水できる」と規定し、エジプトとスーダンの「既得権」を否定した形で、両国は新協定への参加を拒んでいる。

 独立する南スーダンが今後、どのような立場を取るのかは分かっていない。それだけに、上・下流域国はそれぞれのグループに取り込もうと躍起だ。下流域のエジプトは南スーダンを巻き込み、従来の取水権を維持したい考えだ。南スーダン内の湿地帯の水をナイル川につなぐ運河の共同建設工事を提案。「年40億トンもの水を節約できる。それを両国で配分しよう」と持ちかけ、南部スーダンに新たな取水権確保のメリットをアピールしている。

 一方、キリスト教主流のケニアやウガンダなど上流域のグループも南スーダンを仲間に加え、エジプト、スーダン2国による独占態勢を切り崩そうと模索している。南スーダンへの積極的な経済支援を進めるケニア政府は「エジプトとの運河建設に異論はないが、南スーダンは(キリスト教が主流の)東アフリカとの関係が深い。すでに(新協定にも)同調の意思を示している」(ニャオロ水利担当責任者)と良好な関係を強調している。

 南スーダンの「本音」はどうか。暫定政府の幹部は取材に対し「周辺国との関係を考慮しバランスを取りながらも、水利権を最大限に生かしたい」と語った。エジプトやケニアなど「大国」を相手に駆け引きを巡らせ、自国の利益につなげようと策をこらす。新興国のしたたかさとたくましさを見た思いがした。」


(2007年5月23日収録、2009年10月5日ナイル川流域の状況を追加、2011年7月8日南スーダン独立にともなうナイル川流域の状況を追加)


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