霊的な存在を信じているかについて統計数理研究所が行ったアジア・太平洋11カ国・地域比較調査の結果を見てみよう。霊的な存在として、3つ、すなわち、「神や仏」(Buddha, God, or gods)、「霊魂」(たましい、A soul or a spirit)、「死後の世界」(Life after death)をあげて、存在すると思うかどうかをきいた結果である。

 各国ともに「ある・存在する」の回答率は、「神や仏」、「霊魂」、「死後の世界」の順である。唯一の例外はオーストラリアで「神や仏」と「霊魂」が逆転している。

 また、3つの霊的な存在に対する「ある・存在する」の回答率は、いずれも、ほぼ図の国の順番に値が下がっていく。大きな例外はインドであり、「神や仏」を信じる者が多い割には「霊魂」や「死後の世界」を信じる者が少ない。インドは、輪廻思想、すなわち、生命が、人間、動物あるいは場合によっては植物などに次々に生まれ変わる(転生する)という考え方で知られているが、今でも、そういう考え方をする者が多いため、霊魂や死後の世界が存在すると信じる根拠がないと感じる人が多いのであろう。

 米国は、3つの霊的な存在のいずれも「ある・存在する」と信じる者が11カ国・地域の中で最高値となっており、アジア・太平洋諸国の中では最も霊的な国であることが分かる。米国はいわばスピリチュアル大国なのである。図録9520に掲げた「死後の世界」の存在を信じるかに関する55カ国を対象とした世界価値観調査の結果でも米国は先進国の中では信じる者が多い国であったことからもこの点は裏づけられる。なお、欧州各国と比較しても米国の値が高い点については図録9522参照。図録9492の通り、進化論を否定する米国人が多いのもうなづける。

 しかし、米国における霊的存在を信ずる者の高さがアジア太平洋諸国の中で目立っているのは、この地域には儒教国としての伝統を有する国が多く、もともと、論語の言葉「怪力乱神を語らず」「鬼神を敬して之れを遠ざく」(注)に見られるような霊的な存在に距離を置く合理主義的な考え方の影響によって、神仏、霊魂、死後の世界に対して敢えて気にかける者が少ないからでもあろう。特に韓国の霊的な存在の軽視は儒教が大きく影響していると考えられる。ベトナム、北京、上海での低さも目立っているが、これら共産主義国では、「宗教はアヘンだ」という唯物論的な考え方の影響が儒教の影響に加わっているためだと考えられる。実際、儒教圏に分類されるが、共産主義から距離を置いていたシンガポールや台湾では、霊的な存在を信じる者も結構いるのである。

(注)論語からもうひとつ。「季路、鬼神につかうるを問う。子曰く、未だ人に事うる能わず、焉んぞ能く鬼に事えん。曰く、敢て死を問う。曰く、未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん」。ここで鬼神とは「先祖の霊」。現世の人に係わることも難しいのに来世の先祖に係わることができるのだろうか。生を知らないのに死を知ることができるのだろうか、というわけである。孔子は無神論者ではないが、朱子学は無神論となった。これを荻生徂徠は次のように批判した。「宋儒の見る所は、鬼神無きに帰す、凡そ鬼神無しと言う者は、聖人の道を知らざるなり」(吉川幸次郎「論語〈上〉―中国古典選 (朝日選書)」、p.188〜189)。

 日本は、霊性の高いシンガポール、台湾のグループと霊性の低いベトナム、韓国、北京、上海のグループとの中間に位置している。神仏、霊魂では前者に近く、死後の世界では後者に近い。

 なお、日本人が神に関して、ここでふれたような位置づけをこえて、極めて特殊な考え方をもっていることについては図録9528参照。

(2015年8月17日収録)


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