時事トピックスとして、通常の図録とは異なり、その時々の話題のデータのうち将来更新を予定しないものを新たに図録化することとした。掲載頻度はまったく不定期と考えている。

 参議院選のさなかであるが消費税10%値上げの方向性を民主党菅首相が提起したため、争点となった(末尾「参考」参照)。これに関する有権者意向を世論調査(1都6県対象)で調べた結果を掲げた。

 意外であったのは、「賛成」と「やむを得ない」をあわせて62%と約6割にもなっている点である。明確に消費税反対を打ち出している共産党の支持者すら何と3割以上が賛成・容認している。

 社会保障の維持と財政再建のため消費税値上げは容認せざるを得ないが、その前に政府はやることがあるだろう、という意見が少数派に転じたのである。民主党政権が取り組んでいる政策展開について満足したわけではないが、政権交代をさせてもこの程度のものだったのだから、自民党や民主党とは異なる別の政党なら、満足すべき結果を実現してから消費税を値上げしてくれるだろうと今更期待をかけても仕様がないだろうと有権者が半ばあきらめた結果だと思われる。

 この点は「やむを得ない」という選択肢を含まない他のマスコミの世論調査では数字の印象は異なる。

 毎日新聞が7月7〜8日行った全国世論調査では「消費税引き上げへの反対が53%(前回比3ポイント増)と半数を超え、賛成の44%(同3ポイント減)に9ポイントの差を付けた。」(毎日新聞7月9日、ここで前回とは6月27〜28日の同調査)

 NHKが参議院選(投票日7月11日)のさなか、及び直後に行った世論調査の結果は以下である。



 一貫して「反対」が「賛成」を上回っている。特に「支持なし」の無党派層で「反対」は根強かった。しかし、注目されるのは、参議院選のさなか、菅代表の主張への「反対」は全体としてむしろ減少傾向にあった点である。民主党敗北という国民の審判が下った参院選直後には「反対」が「賛成」とほぼ拮抗する状態となった。

 そして、参議院直後の世論調査で、民主党が負けた理由を聞いた結果は以下である。



民主党の敗因についての意見(支持政党別)           単位:%
  合計 民主党
支持
自民党
支持
支持政党
なし
1.菅総理大臣の消費税をめぐる発言への批判 31 47 21 25
2.民主党の政権運営への不満 48 42 55 51
3.自民党など野党への期待 6 2 14 6
4.候補者の問題 7 5 7 10
(資料)同上

 選択肢の1番目に菅総理の発言を持ってきているのは、設問を考えたNHKの人間もこれが一番大きかったのではないかと思っていたからであろう。ところが、国民の意見としては、民主党の政権運営(鳩山前首相がこじらせた普天間基地移設問題など)をあげる者が48%と最も多く、菅総理が主張した消費税議論をあげる者は31%とこれよりかなり少なかった。先の消費税引き上げに対する意識調査結果で選挙が近づき、過ぎ去る時の流れに沿って、反対が減っていった事実にもこの点は裏付けられよう。

 興味深いのは、民主党支持層では、民主党の政権運営というより、菅総理が主張した消費税論議を一番にあげている点である。これは民主党の政治家自身の抱いた感覚でもあろう。自分たちが悪かったのではなく、菅総理が唐突に消費税引き上げ論議を持ち出したのが悪いと思いたかったのだろうと推測できる。

 だから菅首相は、民主党政治家を襲った感情に押されて、選挙後、消費税引き上げに向けたリーダーシップを発揮するのを止めてしまったのは、国民への二重の裏切りとなったのだといえる。せっかく国民がその気になって来たのに、それを主張した当人が自党の内輪グループを襲った感情に押されて、その主張を取り下げるとは何たることかと思ったとしても不思議はない。ここいらは自党の内輪グループの感情にむしろ逆らって国民の感情に訴え国民の支持を集め、結果として、自党をリードすることが出来た小泉首相と大きく異なるところである。菅総理は断固消費税の引き上げを主張し続ければよかったのである。

 同様の意見は、加藤紘一元自民党幹事長も抱いている。「菅首相は世論の動向に非常に鋭いところもあるが、逆に大きく見誤ることもある。一例が参院選での「消費税10%」発言だ。菅首相による消費税増税の提起自体が、参院選での民主党の敗因となったとは思わない。そうであれば、同じ10%を掲げた自民党がなぜ勝てたのか、説明がつかないからだ。むしろ敗因は、菅首相が10%と提起した際に「自民党の提言を参考にする」と発言したことに尽きると思う。民主政治は税からはじまる。消費増税という大きな政策課題を掲げながら、菅首相は「自民党も10%というから、わが党も10%で」と受け取れる言い方をした。難しい政策課題に対し、全身全霊をかけて国民と真剣に対峙しようとする気構えのなさに、国民はがっかりした。結果として、消費増税に賛成だった国民まで反対に回ったのではないか。例えば、「首相の座をかけて10%への引き上げを目指す」と言えば、状況は違っていたかもしれない。」(毎日新聞2010年12月17日11面)

 加藤氏は自民党のマネをした点を国民をがっかりさせた理由としているが、上記では、参院選で負けたからといって引っ込めた点を重視している。参議院戦の間に反対が多くなった訳ではないからだ。しかし、こんな大事なことを貫き通せない点に国民ががっかりしたという見立ては一緒である。

(参考)何故菅首相は参院選の争点として消費税税率アップを取り上げたか

 菅政権発足から10日目の6月17日、参院選マニフェスト発表会見において、菅首相は「2010年度内に、消費税の改革案をまとめたい。自民党が提起している10%を一つの参考としたい」と高揚した気分の中で言明した(東京新聞2010年12月24日高山昌一「2010年たられば回顧録@」)。

 どうして「党内議論なきまま、玄葉光一郎政調会長らごくわずかの幹部との調整で、首相は消費税率10%に言及することを決断」(同上、以下同様)したのか、について、東京新聞は、「持論の「強い財政」実現へ、自民党が消費税率10%を掲げたのは好機だ。同じ公約を掲げれば、争点にならない。何より自分には国民的人気がある。成功すれば、歴史に名を残すこともできる−」と考えたからだとしている。

 鳩山内閣(2009年9月16日発足)において、2010年1月6日に藤井裕久前財務大臣が体調不良を理由に財務大臣を辞任。後任に菅直人副総理が就任した。

 菅首相が参院選において、消費税率アップを打ち出したとき、私がどう感じたかを思い出すと、@財務大臣をしていて財務省からの説明で消費税率アップが国家の最大課題という確信をもった。A鳩山前政権崩壊の理由となった普天間基地移設問題や鳩山首相や小沢一郎幹事長の政治とカネをめぐる問題が参院選で最大争点化するのを避けるためには、それより大きなビッグイシューである消費税問題を取り上げるしかないと考えたに違いない。そう感じた。

 東京新聞は、菅首相の「過信」に基づく消費税発言がなかったら参院選で与党過半数を確保し、ねじれ国会もなく、現在のような政権末期状態も出来していなかった可能性があるとしている(「たられば回顧録」であるゆえん)。これは消費税アップ発言が支持率の急降下に結びついたとする常識に基づく説である。それでは、何を打ち出して参院選を戦ったら過半数を維持できていたのだろうか。逆に、消費税を持ち出さなかったら、2010年いっぱいもたずに民主党政権が崩壊していたという可能性もあるのではないだろうか。少なくとも消費税10%への「反対」が圧倒的ではなかったことを思い出すべきである。

(2010年7月7日収録、7月9日更新、12月20日NHK世論調査などを追加、12月24日「参考」追加)


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