○私の授業に対する生徒の感想を幾つかご紹介します。最初に断っておきますが、決していい授業をやって
いるのを皆さんに知ってもらうためではありません。そもそも私の授業は、まだまだ自分でもいやになって
しまうくらい未熟なことは自覚しているつもりです。そうではなくて、これらの感想から、よりよい授業をする
ためのヒントや、歴史を学ぶことの意味を得たいと思っているのです。
<発言競争導入以前>〜プリント資料を配り、1対生徒全体の形で発言を促したりときには指名して進行
@授業づくりの姿勢
・世界史通信なども楽しく読ませてもらいました。先生はクラスをもっているのに、よくやるなぁと感心していま
した。
→これは担任していた生徒ではありません。生徒は意外と教師の仕事ぶりをよくみています。こちらがそれ
だけ努力すれば、その姿勢は彼らにも伝わるということを示しています。
A授業内容・方法
・先生の授業はただ「覚える」だけではなく、とても楽しくて、「覚えなきゃならない」って気にさせないで、でも
自然に頭に入る、わかりやすい授業でした。
→なぜ「自然に頭に入る」と書いてくれたのか?たぶんなるべく生徒たちに考えさせながら進めたことに
よるのではないかと思います。
・授業でマリー・アントワネットの話とかをしてくれるのかと少しばかり期待もしていたのですが、目の前を素通
りされてしまったような感じがします。
→私自身も生徒の時に似たような経験をしています。女子生徒が多く、この時「ヴェルサイユの薔薇」が
流行っていたことは知っていましたが、授業に生かすことができませんでした。すべての生徒のニーズ
に応えることは無理ですが、あらかじめ生徒の興味関心をリサーチしておき、それをなるべく生かそうと
することは大切だと思います。
・先生の授業で面白かったのは、テレビなどで放送された生の事件のこととか、すぐ授業の中で言ってコメント
するところです。やはりテレビとかちゃんと見ているんだなぁと親近感が持てました。
→生徒は授業の内容もそうですが、教師個人の人格とか姿勢によっても、その教科を好きになってくれる
可能性を持っています。
・私は高2の頃までは社会は嫌いでした。それを楽しく教えて好きにしてくれたのが先生でした。
→嫌いな生徒を好きにさせることができれば、正真正銘のプロです。たまにですがこういうことを書いてくれ
る生徒がいると正直嬉しくなります。好きな人をより好きにさせて半プロ、好きだったのに嫌いにさせたら
教師失格でしょう。
・はっきり言って世界史は大嫌いです。…これから生きていく上で、世界史が全くわからなくても十分生きてい
けると思います。
→クラスに少なくとも2〜3名はこういうことを書く生徒もいます。まだまだ至らないせいもあるでしょう。正直
がっかりしますが、全員を好きにさせることはまず無理です。こういう生徒がいてもめげないことにしてい
ます。もちろん、反省点があれば直さなければなりません。
B歴史のとらえ方・関心
・うまく言えませんが、とにかく今、こうして自分がこの世に立っていられるのも、幸せを夢見て戦った人たちの
おかげだと思っています。
・歴史上の大人物も、自分と同じで人間から生まれ、育ち、成功し、また失敗もする人間であるということが不
思議と理解でき、そして自分自身も今、刻々と過ぎていく歴史を構成する1人なのだと実感しました。
→私は高校生段階では、歴史を学ぶ意味は、こうしたことに気づいてくれること、稚拙さはあっても自分なり
に歴史をとらえようとする態度が育つことこそが最も大事だと考えています。
<発言競争導入以後>
@授業方法
・授業を受け身になって受けるのと違い、「参加」という形をとるのですごく楽しい。今まで知らなかった事柄も
「考える」ことを通して自分自身の中に吸収していけそうだ。「受験」の日本史と違い、とても学びやすい。素
直に事柄が頭の中に入っていってくれるのが嬉しい。
→発言競争導入以前の感想の中で「自然に頭に入る」ということが、参加型の授業でさらにスムースに
なった感じがします。こうしたやり方が決して受験にも不利ではない可能性を示しています。もちろん
このやり方に拒否反応を示す生徒もいますから万能ではありませんが。
・1つだけの答にとらわれるのではなく、意見があっていても間違っていても受け入れてくれるので、これから
だんだん自分の意見が言えそうです。
→この授業のやり方では、生徒が発言してくれることがポイントですから、どのような答でもあからさまに
否定はせず、何かヒントになることをつむぎだそうとしたのが評価されたのだと思います。
A授業内容
・今までの「この出来事があってこの人がいて」という歴史に関する知識が全てひっくり返されてしまったよう
で、驚きの1時間だった。中大兄皇子がわずかな時間でほんの脇役に変わってしまった。
・大化改新がなかったかもしれないとか、中大兄皇子が中心人物ではなかったとか、急にそんなこと言われ
ても困る。
→既有知識を揺さぶることの大切さがわかると同時に、混乱も引き起こしてしまっています。いかにそれま
での知識が「定着」しているかを示していますが、混乱させることがポイントなのではなく、歴史には多様
な見方があることを教えることが大切なので、その点配慮が必要でしょう。
・日本史と世界史は全く別の科目として学んでいたが、実はつながっていたなんて驚いた。でも、よく考えて
みるとつながっていないと歴史は成り立たないんですね。
→これは意外と盲点だと思います。私も生徒の時、別個のものとして学んでいました。しかし、お互いを生か
さない手はありません。
・今回も、前やったモンゴル襲来のように、日本とアメリカとの問題だけではなく、他の様々な国も関係してい
て、歴史は世界に目を向けないと考えられないことが多いのだな、と思いました。
→前にやった授業での考え方を生かしている点で、この生徒は歴史の見方が進化していると言えます。
こうした授業をなるべくたくさん仕組みたいものです。
B歴史のとらえ方
・歴史を学ぶのに固定観念はいらないことがよくわかったような気がする。自分が持っている固定観念を取り
払ってこそ、新しい歴史が見えてくるのではないだろうか。
・その時代その時代でいろんな立場の人がいてそれぞれの場所で生きている。歴史の表舞台に立つ人を裏
で支えてきている人たちがいる。私たちはこれから先の人生で「歴史」に対してどのような役回りをすること
になるのだろう。どんな人でも1人1人が歴史の担い手なんだ、と感じた。
→この2番目の感想は、今までの全てのものの中で最も考えさせられる内容です。この生徒は授業以前
から歴史と言うことに非常に関心がありました。
<メニューへ>