比較文化史の試み 244


  世界構造と葦牙

  ここで古事記の冒頭を引用しよう。

  天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成りし神の名は、
 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ
 、次に神産巣日神(かむむすひのかみ)。この三柱の神は、みな独神(ひとりがみ)
 成りまして、身を隠したまひき。

  次に国稚(わか)く浮ける脂(あぶら)の如くして、海月(くらげ)なす漂へる時、葦牙(あ
 しかび)の如く萌(も)え騰(あが)る物によりて成りし神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅
 (うましあしかびひこじのかみ)、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)。この二柱
 の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。

  上(かみ)の件(くだり)の五柱の神は別天(ことあま)つ神。

  次に成りし神の名は、国之常立神(くにのとこたちのかみ)、次に豊雲野神(とよくもの
 のかみ)。この二柱の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。

  次に成りし神の名は、宇比地邇神(うひじにのかみ)、次に妹(いも)須比智邇神(すひ
 じにのかみ)。次に角杙神(つのぐひのかみ)、次に妹活杙神(いくぐひのかみ)。次に
 意富斗能地神(おほとのぢのかみ)、次に妹大斗乃弁神(おほとのべのかみ)。次に於
 母陀流神(おもだるのかみ)、次に妹阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)。次に伊
 邪那伎神(いざなきのかみ)、次に妹伊邪那美神(いざなみのかみ)

  上の件の国之常立神より下(しも)、伊邪那美神より前(さき)を、并(あわ)せて神世
 かみよ)七世(ななよ)といふ。

古事記 上 36p 次田真幸著 講談社学術文庫

  天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成りし神の名は、
 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ
 、次に神産巣日神(かむむすひのかみ)。この三柱の神は、みな独神(ひとりがみ)
 成りまして、身を隠したまひき。

  旧石器時代編で考察したように、それぞれ天之御中主神が太陽、高御産巣日神が
 木、神生巣日神が石を指す。独神というのは、性別がないということであり、ペアにな
 る対象をもっていないということである。身を隠すというのは、信仰されなくなったと理
 解すべきだろう。逆にいえば、ふたたび信仰されるようになるかも知れないということで
 あり、弥生時代の太陽神祭祀を思い出せば、不思議でも何でもないだろう。

  次に国稚(わか)く浮ける脂(あぶら)の如くして、海月(くらげ)なす漂へる時、葦牙(あ
 しかび)の如く萌(も)え騰(あが)る物によりて成りし神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅
 (うましあしかびひこじのかみ)、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)。この二柱
 の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。

  クラゲなす漂える時は、氷河期が終わり海面が上昇したとき、ということであり、ほぼ
 縄文時代のはじまりと一致する。つぎの葦牙(あしかび)だが、これは葦(アシ・ヨシ)の
 芽のことをいう。ヨシは早春に芽を出し、最大3メートルぐらいまで急速に成長する。な
 ぜこれほど成長が早いのかというと、タケノコとおなじように節と節のあいだに成長点
 があり、それらが一斉に育つからである。

  タケノコの構造をイメージしてもらいたい。

  タケノコは、どうなっているだろうか。先端に行くにつれて細くなった円錐形では、ない
 だろうか。いくつもの節が丸く横切っていないだろうか。

  もう、わかっただろう。

  葦牙とは、この構造をもったものである。となれば、天之常立神(あめのとこたちの
 かみ)が何を意味するか明白だろう。北極星以外にあり得ない。

  ところで、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)のうち、葦牙は中
 央に位置する。すぐに宇摩志(うまし)と阿斯訶備(あしかび)と比古遅(ひこじ)が合成
 されていることに気づくだろう。

  もともと葦牙は円が切断されて産みだされたものだから、円とは違い、始まりと終わ
 りが存在する。となれば、宇摩志が始まり、比古遅が終わりを意味するだろうことは推
 測できる。話はこれほど単純ではないが、このことはつぎの尖底土器文化期で説明し
 よう。

  おもしろいことに、葦牙は北極星の発見によって成立する。ところが古事記では、
 摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)が先に成立したように記述す
 る。この点では、古事記は正しいことを伝えているとはいえない。しかし、螺旋そのもの
 は、北極星の発見に先行して成立するのだから、あながち誤りともいえない。

  まとめると、

天之御中主神 あめのみなかぬしのかみ 太陽
高御産巣日神 たかみむすひのかみ
巣日神 かむむすひのかみ
宇摩志阿斯訶備比古遅神 うましあしかびひこじのかみ 渦巻き/世界構造
天之常立神 あめのとこたちのかみ 北極星

 となる。

  いずれにしろ膨大な手続きを踏まないと古事記は解読できないということであり、生
 きているうちにすべてを読み解くことはできないだろう。

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その18


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最終更新日2007年5月20日