比較文化史の試み 248


  撚糸文と押型文

  撚糸文は撚紐(よりひも)を棒に巻き付けてから、回転押圧させて描きだす。また、土
 器群としての器形は、丸底あるいは尖底を主とするが、時期があたらしくなるにつれて
 尖底を極端に表現するものが出現する。これについては後述しよう。

神奈川県大丸遺跡出土
撚糸文土器

新潟県卯ノ木遺跡出土
押型文土器

(土器の造形 22p 東京国立博物館)

  一方の押型文は、棒に山形や楕円形、あるいは格子目を彫刻し、これを回転押圧さ
 せて文様をつくる。器形は、ほぼ尖底深鉢となる。

  これらのことから撚糸文と押型文には、いくつかの相違があることがわかる。

撚糸文

押型文

(同上)

写真では、撚糸文の識別はむずかしい
だろうが、よく見るとわずかに文様がある。

(縄文時代研究事典 40p 戸沢充編 東京堂出版)

施文具と文様の関係

上左・楕円押型文、上中・格子目押型文、上右・複合山形押型文

下左・山形押型文、下中・綾杉状押型文、下右・ネガティブな押型文模式図

  まず、棒をつかう。これはおなじである。つぎに撚糸文は紐を巻き付けるのに対し、
 押型文は棒そのものを加工する。棒を主眼においた場合、撚糸文は凸を付属させる。
 反対に押型文は彫刻するのだから、凹になることがわかる。撚糸文の波及を受けて、
 押型文を成立させるプロセスが明白だろう。向こうが凸だから、自分たちは凹でいく。
 そう理解して問題ない。

  いずれにしろ棒がきわめて重要な役割を担っていることがわかる。もちろん、盟神探
 湯から弓矢、さらに前隆起線文土器文化期の窩文を経て、撚糸文・押型文へとつなが
 る系譜にあることは指摘するまでもない。余談になるかも知れないが、古事記にある
 高御産巣日神(たかみむすひのかみ)とは、この棒のことをいう。施文具といういい方
 がつかわれるが、まず、道具という考え方が存在しない上に、どちらかといえば土器よ
 り棒の方が大切だといっていい。棒が祭祀対象であり、棒をつかって文様をつけるの
 は宗教的行為に他ならない。

  それから回転押圧させ器面に文様をうみだすことも同様である。回転は時間の経過
 を意味し、同時に施文具の凹凸が反転する。そして跡が残る。凸の施文具なら凹の跡
 が残り、凹なら凸状になる。また、回転が時間の経過(といってもリアルタイムに体感
 する時間だが)をもち、文様は土器として焼き上げられることにより保存される。これら
 は静止した北極星と、運動する太陽・星々という構図のなかで再解釈される。棒が運
 動であり、土器の文様は静止である。

  違いの方は、押型文が棒を直接加工していることにある。もちろん棒を加工すること
 自体が宗教的行為ではあるが、そのことを宗教的行為として捉えていた可能性はな
 い。これは世俗的行為の対概念になるもので、聖俗の分離を前提にする。ただ、静止
 と運動という概念は存在し、その枠組みのなかで理解されていた可能性はある。いわ
 ば狩りが運動であり、土器製作を含めた祭祀が静止に位置づけられたと思われる。

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その22


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最終更新日2007年6月4日