比較文化史の試み 260


  上下運動と繊維土器

  4.1 立体装飾土器文化前期 

  尖底土器文化期の思想を引き継いで、いわゆる縄文的要素が確立する時期にあた
 る。前葉に縄文海進がピークに達し、気温も海水面も低下傾向をみせはじめ、やがて
 現在とおなじような環境になって安定する。

  土器様式は、北からシュブノツナイ式、道南部と東北北部の円筒下層式、東北南部
 の大木式、関東東部の浮島式、関東甲信越の諸磯式、九州を除く西日本では北白川
 下層式、九州では曽畑式が成立する。器形は平底あるいは丸底となり、尖底土器文
 化期から一転する。尖底土器は、まったく顧(かえり)みられなくなる。

  また、胎土中に植物繊維を混入させる繊維(せんい)土器は、尖底土器文化期後半
 ごろにはじまり、立体装飾文化期前期前半ごろに終焉する。この繊維が何を意味する
 か明白だろう。棒(比古遅)に他ならない。尖底土器という器形だけでなく、材質まで影
 響を与えた。尖底土器文化と立体装飾文化の橋渡しをして終わったのである。しかし
 実際は、単純な茎や小枝などの棒ではなく、叩いて細かく加工してある。そうしないと、
 焼成したときに土器に亀裂が入ってつかいものにならなくなる。

(発掘 上野原遺跡 32p 南日本新聞社)

  植物を繊維状にするとき、石皿に置いて磨石(すりいし)でコツコツと叩く。この方法
 は、ドングリやトチノミなどの堅果類を加工するものとおなじだろう。だとすれば、繊維
 土器が出土した地域では、堅果類を食べはじめた可能性が高い。ただ、繊維土器が
 先か、堅果類を食料としたのが先なのかは、わからない。

  前述の円筒石斧や磨製石器の場合、砥石(といし)にあてて、向こうに押して、手前
 に引くことを繰り返す。前後運動と呼んでいいだろう。これは洞窟に出たり入ったりす
 ることや、前隆起線文土器文化期の窩文とおなじ思想である。コツコツと叩くのは、上
 下運動であり、前後運動の延長線上にあることは間違いない。以降併用されるが、何
 らかの転換があったと考えていい。

  北極星が折り返し点ならば、ぐるぐると上に昇っていったあと、逆走してぐるぐると降
 りてくる。これを単純化させれば、上下運動になるはずで、ひとつの候補にはなるだろ
 う。同時に、この世界観はドングリやトチノミ、クリなどの形とおなじでもある。

  もうひとつ考えられるのは死後の世界観が成立したことで、北極星が空にあることで
 上下反転した世界観の組み合わせになることだろう。ぐるぐると世界はまわって北極
 星へと向かい、やがて穴を抜けて裏の世界に出てくる。裏の世界でぐるぐるとまわっ
 て、裏の北極星からこちらの世界へもどってくる。これを繰り返すのだから、大まかに
 みれば、上下運動といっていい。

  このことは繊維土器が出現した時点で、死後の世界観が先に成立していることを示
 唆する。この世界観が成立することで、堅果類を加工することが可能となったというこ
 とであり、堅果類を食すことは前の段階でおきており、クリはそのまま焼いて食べても
 いいのである。そして繊維への加工と、堅果類の加工は、同時期であってかまわな
 い。ともにおなじ思想を起点にした帰結だからである。

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その34


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最終更新日2007年6月28日