比較文化史の試み 275


  双極文様と豊雲野神

  次に国稚(わか)く浮ける脂(あぶら)の如くして、海月(くらげ)なす漂へる時、葦牙(あ
 しかび)の如く萌(も)え騰(あが)る物によりて成りし神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅
 (うましあしかびひこじのかみ)、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)。この二柱
 の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。

  上(かみ)の件(くだり)の五柱の神は別天(ことあま)つ神。

  次に成りし神の名は、国之常立神(くにのとこたちのかみ)、次に豊雲野神(とよくもの
 のかみ)。この二柱の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。

  次に成りし神の名は、宇比地邇神(うひじにのかみ)、次に妹(いも)須比智邇神(すひ
 じにのかみ)。次に角杙神(つのぐひのかみ)、次に妹活杙神(いくぐひのかみ)。次に
 意富斗能地神(おほとのぢのかみ)、次に妹大斗乃弁神(おほとのべのかみ)。次に於
 母陀流神(おもだるのかみ)、次に妹阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)。次に伊
 邪那伎神(いざなきのかみ)、次に妹伊邪那美神(いざなみのかみ)

  上の件の国之常立神より下(しも)、伊邪那美神より前(さき)を、并(あわ)せて神世
 かみよ)七世(ななよ)といふ。

古事記 上 36p 次田真幸著 講談社学術文庫

  この双極文様を豊雲野神と呼んでいたらしい。双極文様は渦巻きをふたつ接続させ
 たものであり、ダブル宇摩志阿斯訶備比古遅神と名付けてもらった方がわかりやすか
 ったのだが、どうしたわけか、そうしなかった。まあ、言われてみれば、たしかに雲だろ
 う。雲のイメージはある。

  世界を上下に分割した場合、雲は上にある。横に流れるし。この文様の意味を雲に
 仮託する。雲とは何か、上にあり、渦巻くものである。当然、この反対は川にある渦や
 海の干満によって生じる渦潮(うずしお)になる。

  前述のように天之常立神と国之常立神が対の構造になっており、宇摩志阿斯訶備
 比古遅神と豊雲野神が対になっていることは、あらかじめ推測できたことでもある。豊
 雲野神にはいくつかのバリエーションがあり、向かいの巻きが反対になっていると同方
 向になっているものがあり、さらに渦巻きを複数個接合させたものもある。その意味
 で、ここでいう双極文様は理想型(モデル)である。どうも豊雲野神という名前のせいで
 雲というイメージに引きずられ、より雲らしく表現されることもあるようだが、基本は渦
 巻きである。

天之御中主神 あめのみなかぬしのかみ 太陽
高御産巣日神 たかみむすひのかみ
巣日神 かむむすひのかみ
宇摩志阿斯訶備比古遅神 うましあしかびひこじのかみ 渦巻き/世界構造
天之常立神 あめのとこたちのかみ 北極星
国之常立神 くにのとこたちのかみ 中心点
豊雲野神 とよくもののかみ 双極文様/世界構造

  つまり月と鼈(すっぽん)とおなじである。月は丸いし、スッポンも丸い。連想ゲームの
 ようでもあるが、類型としてパターン認識される。ここがわかれば、縄文を組み合わせ
 た装飾が何と呼ばれていたかおおよそ見当がつく。

  木の葉、葉っぱだろう。波から葉っぱに移行した。この合成によって安定する。安定
 した葉っぱの世界から、波をみれば、ひじょうに不安定に思える。波に漂う。

  ちなみに、この双極文様は世界中に分布していて、ブラジルの少数民族や古代ギリ
 シアでもみられる。左はニケ神殿の柱頭部分だが、北白川下層式とおなじ渦巻き装飾
 をもつ。イオニア式という。コリント式では、切断されているように思えるが、はっきりし
 たことはわからない。おなじアテネにあるオリュンピエイオンの柱頭にある葉形装飾と
 呼ばれるもの。

(図解世界史 28p 東京書籍 一部改変)

  古事記には伊邪那伎命(いざなきのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)が淤
 能碁呂島(おのごろしま)に降り立ち島生みをする話がある。伊邪那伎命が伊邪那美
 命に体がどうなっているか尋ねると「成り合わざるところ一処(ひとところ)あり」と答え
 る。伊邪那伎命は「成り余れるところ一処(ひとところ)あり」といい、塞(ふさ)いで、国
 土(くに)を生もうと思うがどうだろうか、と尋ねる。伊邪那美命は「然(しか)善けむ」と
 答える。

  冒頭につづく物語りであり、性の発見がおきたことを告げる。

  次に成りし神の名は、宇比地邇神(うひじにのかみ)、次に妹(いも)須比智邇神(すひ
 じにのかみ)。次に角杙神(つのぐひのかみ)、次に妹活杙神(いくぐひのかみ)。次に
 意富斗能地神(おほとのぢのかみ)、次に妹大斗乃弁神(おほとのべのかみ)。次に於
 母陀流神(おもだるのかみ)、次に妹阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)。次に伊
 邪那伎神(いざなきのかみ)、次に妹伊邪那美神(いざなみのかみ)

  この部分をよく読むと、系譜になっていないことがわかる。於母陀流神(おもだるの
 かみ)と妹阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)が、伊邪那伎命と伊邪那美命を生
 んだとは、いっていない。系譜がはじまるのは、伊邪那伎命と伊邪那美命以降なので
 

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その49


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最終更新日2007年7月20日