比較文化史の試み 284


  円筒下層式と宇宙樹(ユッグドラシル)

  前期に、北海道西南部および東北北部で盛行していた円筒下層式は、円筒上層式
 に移行する。円筒下層式と上層式の違いは、口縁部にしばしば四個の弁状突起があ
 ることと、口頸部に明確な文様帯が存在することである。

(縄文時代研究事典 228p 戸沢充則編 東京堂出版 一部改変)

(同上 一部改変)

  要素としては、丸や半円、三角形などを組み合わせる。これは前述の循環思想や陰
 陽の木の葉などを継承したものと理解できる。文様帯は天の世界を表現したものであ
 り、AのU字状のものは、上下世界を区分する水平線と双極文様を合成させたものら
 しい。

(同上 一部改変)

  これもおなじ円筒上層式だが、中央の土器には木の葉をモチーフにした装飾がつく
 られている。右側は、これを直線化しただけと考えていい。曲線の反対は直線だから

 である。同時に、四角形は三角形の陰と陽を組み合わせたものでもある。口縁部にあ
 四個の弁状突起は、3より4の方がより神聖と理解されたということを示している。

  中央の土器にある十字は、現在の世界と、裏の世界、天の世界をそれぞれ結ぶこと

 を象徴させ、統合させたものである。平面での四角と、上下の四角が組み合わされ
 ば、立体としての正方形になる。この時期の装飾が、過剰に立体装飾化されるのは、
 この発見によるものと考えていい。

(同上 一部改変)

  丸が木の葉ならば、十字が何と呼ばれたか。おそらく木あるいは幹だろう。あわせて
 樹木というふうに理解され、木に仮託される。大きな樹木は世界を実現するものであ
 り、世界構造そのものでもある。

  この基本的な考えは、北欧神話にある宇宙樹(ユッグドラシル)とおなじと理解してい
 い。ユッグドラシルの枝は天空をささえ、根は冥界へとつづく。もちろん北欧神話のよう
 に整備されたものではなかったろうし、円筒上層式では葉が冥界に接続され、幹が天
 空へとつづくという、いわば反転した構造をもつ。ユッグドラシルの神話は地下に冥界
 があるという前提になっており、90度の回転を起こしている。神話として再構築された
 のが、円筒上層式の時期よりあたらしいのだろう。別のいい方をすれば、人間、考える
 ことが似通っている、ということであり、自然環境が似ていれば、似たようなところに到
 達するということだろうか。

  いずれにしろ、北海道南部・東北北部では、樹木は特殊な意味をもっている。そうい
 っていい。ただし、円筒上層式がもつ装飾の一部であり、思想の主力でもないし、すべ
 てでもない。木を祀るということでは、誰もが納得しただろうというだけである。

*************************************

考古学からみた古代 (縄文時代編) その58


前ページへ          次ページへ


最終更新日2007年8月3日