人面装飾付き深鉢その2
胴部には、臍(へそ)のような突起を中心にして、同心円状に円を描く。さらに三角形
を合成させる。三角形は上にあるものという意味だろう。

さらにV字型に縦棒がつく。この装飾が成立するプロセスは、太陽が多重空間をどの
ようにして移動するか、という問いを継承している。

上下に分割された世界を、斜めにあるいは垂直に移動できるものは何だろうか。チ
ョウやトンボなどの昆虫もいるが、やはり鳥だろう。鳥は森や山より高く、雲のなかまで
飛ぶことができる。下の世界と上の世界を自由に行き来できる存在である。煙が願い
を神々に伝える役割をもつのなら、さらに不思議な生き物だろう。
ところで、この装飾どこかで見たことがないだろうか。

(日本の美術3 弥生時代の装身具 37p 岩永省三著 至文堂)
この土器片は岡山県新庄尾上遺跡から出土したもので、広げた両手の指が3本に
なっている。弥生・古墳時代編で考察したように、鳥(サギ)の足跡でもあり、太陽神の
トレードマークでもある。
もちろん、長野県月見松遺跡出土の土器の方が、2千年ほど古い。しかも、実際は
多重空間の移動方法を合成させた装飾なのであり、短絡的な理解により背後の思想
は失われている。
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細石刃期の長野県上ノ原遺跡では、太陽を祀る伝統があったことは、前述の通り。

この伝統の上に、隆起線文土器文化や尖底土器文化が成立する。焼畑や栽培農法
で植物を育てるようになると、陽当たりや気温が問題になるのは、あたりまえかも知れ
ない。長雨がつづけば病気になりやすく、植物は光合成をおこなえないから実も小さく
ならざるを得ない。ただ、旧石器時代の太陽祭祀とおなじかどうか問われれば、まった
く違うと答えるしかない。旧石器時代のそれは物理的に存在する太陽であり、この時
代の太陽神は人格化された抽象概念だからである。
左右と上部の三箇所に切れ込みは、日の出、昼、日の入りということなのだろう。

もうひとつ。人面装飾をもつ深鉢も土偶も、顔がすべてイノシシ風になっていて、顔だ
けでは必ずしも神格を判別できない。むしろ、イノシシ・先祖・太陽が合成された、とし
か説明ができない代物である。1に集約するといった意識が存在するのか、断定はで
きない。

(土器の造形 186p 東京国立博物館)
この人形装飾付有孔鍔付土器は、神奈川県の林王子遺跡から出土した。相変わらず

左右の表情に極端な違いがあるが、どうも意図的なものらしい。残念ながら、理由は
わからないが、シンメトリー(左右相称)を崩すことに目的があるように思えてならな
い。帽子あるいは頭飾りのようなものの先端は、イノシシの足跡を変形させた4であ
り、手の先は3となっている。複合化されているとはいえるだろう。いずれにしろ、神格
化された存在であることは間違いないようだ。
全体を傍観すると、何となく左右対称のようにも思える。両側にある装飾をよくみる
と耳をモチーフにしたデザインになっており、しかも両側とも左耳である。左を重視して
いることは何度か述べているが、おそらく眼や耳だけでなく、左手や左足もそうなのだ
ろう。耳は聞くということであり、装飾から考えても、太鼓としてつかわれた壺だと考えら
れる。

また頭部の装飾に横方向の穴があり、先祖や死者と交霊するために、世界をつな
げる役割をもった神なのかもしれない。この場合は、太鼓をつかってシャーマンをトラ
ンス状態にして、超自然的存在と交流し、予言や祭儀などをおこなうことになる。
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