比較文化史の試み 302


  土製仮面と仮面儀礼

  中期後半になると土面(正式には土製仮面)が出土するようになる。これは長野県中

(土器の造形 123p 東京国立博物館)

 下原遺跡から発見された。鼻と口が極端に離れており、まるでひょっとこ≠フような
 ユニークな表情をみせる。ただ、冷静に考えてみると、一種の異形であることは間違
 いなく、左右非対称でもある。どうも、この時代の日本人は、色素の抜けた動植物のア
 ルビノや奇形などにつよい畏怖の念をもっていたらしい。

  この土面の位置づけをどうしたらいいのかわからないが、仮面としては重いし、顔に
 つける穴が側面にないことから実用品ではないだろう。土面はやがて眼や口に開口の
 ない、デスマスクのようなものに変化していく。それが大勢であり、一部に紐通しの穴を
 もったものが存在するが、基本的には例外といっていい。

  おそらく土面の成立前に、木や皮などでつくった仮面があったのだろう。

  仮面儀礼は精霊の存在を前提にする。なぜなら仮面をつけることによって別の存在
 になるということであり、人間に霊的存在が入ってくるという約束事があるからである。
 これは肉(空間)と霊(時間)が分離し、死者が死後の世界に行くと考えられるようにな
 ってから派生する。神々が天にいて、死者は死後の世界にいる。精霊は、生きた人間
 と同時空間に存在するものであり、人間と関わり合いながら存在しつづける。この土面
 は、やまびこ(こだま)のようなものなのだろうが、断定はできない。

  仮面儀礼をおこなっていたとすると秘密結社が結成されている可能性がある。秘密
 結社とはいっても、非合法な犯罪者集団などではなく、儀礼などを秘密裡に伝える社
 会的な組織のことである。この秘密結社が仮面や衣裳などを準備し、霊能者が仮面を
 つけた人間に精霊を呼び込む。霊能者自身が仮面をつけることもあるが、それでは、
 霊的な解説ができないので別人であることが多い。仮面儀礼の主体たる霊的存在が
 どのようなものにもかかわらず、霊的存在による託宣は、社会的な拘束力をもつ。個
 人を罰したり、仲裁あるいは調停などができる。

  いずれにしろ、精霊や神といった神学装置が誕生することによって、複雑な社会を形
 成していることが伺える。アニミズムをもう少し積極的に評価する必要はあるだろう。

  この人形装飾付有孔鍔付土器は、前出の太鼓とおなじようなものだが、装飾にそれま

(同上 187p)

山梨県鋳物師屋遺跡出土

 でとは違ったキャラクターが登場する。涙を流す神あるいは精霊であり、おそらく雨乞
 いをするためにつかわれたものだろう。気になるのは、頭部の大きさと身長の比率で
 ある。土偶の場合、人間とおなじようにほぼ7〜8頭身を保っているが、土器の装飾で

 では、2〜3頭身の子供キャラになっている。土偶と土器とで何らかの使い分けがおこ
 なわれているのか、時代の違いなのか判然としない。精霊とか神という装置ができた
 のはいいが、何となく不合理に感じていたらしい。精霊や神は、子供とおなじように訳
 がわからない、ということだろう。

  ちなみに、子供を神に近い存在と捉えることを王子(おうじ)信仰という。王子とか八
 王子の地名は、かつて王子権現(ごんげん)を祀っていた場所であることが多いよう
 だ。聖徳太子を祀る太子講(たいしこう)も、王子信仰と関係が深いとされている。

  もうひとつ興味深いのは、神を中心にして区画されていることで、銅鐸絵画にもおな
 じようなものがあったことを覚えているだろうか。ただ、こういった区画をもつ装飾土器
 は、他に無いようなので、例外事項と考えて問題ない。

(同上 191p)

  山梨県にある中原遺跡の深鉢では、奇妙なことに循環思想が三段重ねになった装飾

 をもつものが発掘されている。羽状縄文によって空間を上下に分けるようになったこと
 は、これまでみてきた通りだが、変化が起き始めているようだ。

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その76


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最終更新日2007年8月23日