屋内祭祀と堀立柱建物
漢字を導入したのは他でもない大和朝廷だが、アルファベットには致命的な欠陥が
ある。アルファベットは、発音をそのまま文字に置き換える。そうすると、おなじアルフ
ァベットをつかっていても、方言が表記に反映されてしまう。このことによってヨーロッパ
のような分裂した文化圏が成立することになる。
ところが、漢文だと方言が反映されない。言語そのものが違っていても意味はおなじ
になるから、文章を介して共通理解を得ることができる。中国人にとって、本が致命的
に重要なことがわかるだろう。いわば漢字のもっている理想的社会が、漢字導入によ
って日本に現出する。ちなみに、古代の漢文は現代中国人でもむずかしいらしく、専門
家でないと読めない。機能的には一時的なものにすぎないが、日本はここからスタート
する。前提条件として、最初から組み込まれる。
結果的にそうなったとはいえ、タイミングが絶妙である。極端に早いと漢字そのもの
が整備されていないから、中国のように効果がない。かといってあまり遅いと、地方で
それぞれにアルファベットに近い文字をつくりだしてしまう可能性があった。時期的に、
ギリギリのところで導入する。
もどろう。
中期の関東・甲信地方では、炉に石棒を立てたり、入口からもっとも奥に複数の石を
組んだ石壇(いしだん)と呼ばれる祭壇のようなものが見られるようになる。これを屋内
祭祀(おくないさいし)という。

(縄文時代研究事典 戸沢充則編 39p 東京堂出版 一部改変)
棚畑遺跡では、炉のそばに石棒(せきぼう)が、立てられる。図でいえば下が入口に
なり、訪問者は作業場になっている空間の向こう側に炉を見ることになる。複数の遺
跡調査から、炉の奥が神座、右に男の間、左が女の間になっていたと推定されてい
る。左が重要という意味では、訪問者にとって左手に位置する妻になり、家側から見れ
ば夫ということになるが、この位置関係がどんな場面でも成立していたかどうかはハッ
キリしない。ちなみにアイヌでは、訪問するとき咳払い(シムシシカ)して知らせたという
から、おなじようなことをしていた可能性はある。

(同上 115p)
長野県曽利遺跡
大まかにいえば、前期ごろは集落構成の中心点であった石柱(せきちゅう)が、家族
の中心に変化したものと考えていい。このことは共同体としての祖霊が、動物から人
間へと、重点が移行したことを示唆する。漠然とした先祖共有から、代を重ねるにつれ
て意識化された先祖へと移り変わり、共同体の求心力を失わせていく。社会的な解体
がはじまりつつある。

(同上 115p)
石棒は、性が発見された前期ごろに出現し、棒状の石の両端あるいは一端を男根
状に整形したものか、ただの棒状のものが存在する。棒状のものは尖底土器の底部
とおなじ理屈であり、男根状の石棒もおなじだが、より性を強調する。地上の男性と、
北極星を中心にした天空の女性原理の対構造である。中期ごろの屋内祭祀から、後
期の屋外祭祀への大まかな流れが存在するが、地域性もあり、確実なものとはいえな
い。
また、石棒は素材となる長い石を粗めに打ち欠いたあと、細かな打撃で全体形状を
整えてから、さらに丁寧に磨研する。製作に信じられないほどの労力と時間を費やして
おり、彼らの生活において重要な位置づけにあることは間違いない。中期の土器装飾
もそうだが、異常なまでに情熱を傾けて製作される。部族制の成立による集約型労働
の経験が波及して、労働時間が長くなっていることが推測される。
通常、狩猟採集民は食えればいいのであって、食糧の確保ができれば、日がな一日
ぶらぶらと遊んだり寝たりして暮らす。冬期に食糧の確保がむずかしい日本では不可
能という面もあるが、実質腹の足しにならない石棒や装飾に時間をかけることができる
のは、背後に社会の成熟を想定して問題ない。
アダム・スミスにおける分業は、完成品までの一連のプロセスを専門家がそれぞれ
分担することが生産力向上につながることを主張した。この定義での分業とは異なる
が、中期以降になると特化した遺跡が出現するようになる。たとえば、富山県の境A遺
跡は石器や玉類の製作遺跡だと考えられているし、巨大貝塚のなかには集落の人口
比べ極端に貝殻が多く、干し貝などの加工品をつくっていたとされる遺跡もある。他に
首飾りが多数出土したり、磨製石斧や石棒の生産遺跡も見つかっている。これらは広
域の交易ネットワークが形成されていることを前提にし、社会が開かれたものだったこ
とを教えてくれる。それとともに、社会的な一種の分業を形成していて、非常に高度で
あったことがわかる。逆にいえば、作業単位が集落であり個人にはない、ということで
もある。
それから住居跡でいえば、前期の方形から、中期の円形に変化する。といっても、中
期の場合、堀立柱建物が長方形の平面形をもっており、長方形と円形のつかいわけを

している。直線は神聖という意味だから、堀立柱建物には集落の財産のようなものを
備蓄していたのかも知れない。
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