比較文化史の試み 315


  ハート形土偶・山形土偶・屈折像土偶

  ハート形土偶は、名前どおり顔の輪郭がハート形になっていて、後期初頭の堀之内
 式土器と共伴する。前述の筒形土偶とおなじように顔が傾斜していて、おなじ神格をも
 つ。ただ、見てすぐにわかるように、手足が表現されていて、シャーマンの通り道であ
 るトンネル(筒)の神格をもたない。別の神と考えて問題ないだろう。目と鼻が強調され
 ていて、そこが何かの鍵になっていることがわかる。当時の共通理解をもつ人々が見
 れば、どんな神なのか、すぐにわかるのだろうが、現在のところ、それを知る術(すべ)
 はない。

伝群馬県吾妻町郷原

(土器の造形 106p 東京国立博物館)

  可能性としては、古事記にあるように鼻から生まれたとされる須佐之男命(すさのお
 のみこと)が考えられる。しかし、古事記は東日本の伝承を正確に伝えているとは思え
 ないし、土偶に神格をあらわす表現が明示されていないので、断定はできない。前述
 の筒形土偶のように、聞いたこともない神格をもつ神像が存在し、これと記紀にある神
 の名が一致するかどうかは、緻密に調べてみないとわからない。おそらく、安万侶たち
 が知り得なかった真実もあるはずで、安万侶が隠した真実とは、もう一段のズレが存
 在する。

  ちなみに、この土偶はハート形土偶に含まれる。

山梨県後田遺跡出土

(土器の造形 105p 東京国立博物館)

  関東地方で、このハート形土偶につづいて出現するのが山形土偶である。多くの土
 偶の頭が三角形ないし山形になっていて、顔が扁平であることに特徴がある。

千葉県江原台遺跡出土

(土器の造形 110p 東京国立博物館)

  一部の土偶には鋸歯文(きょしもん、三角形の連続)が表現されていて、弥生時代編

 で考察したように、この神像は、山の神と考えて問題ないだろう。

(土器の造形 110p 東京国立博物館)

  この土偶は千葉県余山貝塚から出土したものだが、全体が赤く塗彩されている。手
 に2段、足に3段の肉付きのような突起が表現されている。これは星形を中心で水平
 方向に区切ると、上が三つの三角形、下にふたつの三角形ができる。これを上下反
 転させたものと理解できる。地下世界の発見により、世界構造が3段になる。この神
 が世界構造より下にいては困るので、足を3段に表現する。

  この神像がおもしろいのは、目や鼻が表現されていないことと、頭頂部がテーブルの
 ように平らなことだろう。この土偶は山形土偶から、黒色磨研土器/亀ヶ岡式土器文
 化期のみみずく形土偶≠ノ移行するときに出現する。頭部に14本の放射線が描
 かれていて、太陽神だということがわかる。

(日本の美術 土偶 31p 原田昌幸著 至文堂)

  天照大御神は伊邪那伎命(いざなきのみこと)の左目からうまれる。つぎに月読命(
 つくよみのみこと)が右目から、須佐之男命(すさのおのみこと)は鼻からうまれる。つ
 まり鼻の前に生まれ、右目の前にうまれ、自身は左目だから、鼻と目がない。そういう
 風に考えると、古事記と符号があう。おそらく、記紀にあるようなものではないだろう
 が、断片的な神話が存在する。

  山の神信仰を経て太陽神が登場するプロセスは、九州地方を含む西日本の弥生時
 代と一致する。西日本は東日本での文化をなぞるようにして、縄文文化を再発見して
 いる。もちろん、西日本での価値観に従うから、細部では違いがあるが、大まかにいう
 と、そういっていい。

  一方、東北では、板状土偶が立体化されるようになる。

(日本の美術 土偶 32p 原田昌幸著 至文堂)

  やがてポーズをとる土偶へと収束していく。正式な名称ではないが、ポーズ土偶のな

(土器の造形 112p 東京国立博物館)

 かに屈折像土偶≠ニ呼ばれる一群がある。これは青森県風張遺跡から出土したも
 のだが、屈折像土偶の典型例を示している。側面からみればすぐにわかるように、J
 字型になっており、さらに座っていることから、地下に留まっていることを示す。地下の
 発見は関東から広まっており、つよい衝撃をもたらしたらしい。

  古事記で黄泉の国に留まっているのは、ふたりいる。ひとりは伊邪那美命(いざなみ
 のみこと)であり、もうひとりは須佐之男命(すさのおのみこと)である。この土偶の胸を
 見る限り、女性ではなく男性と判断できよう。

  つまり、天照大御神あるいは類似の神話は関東で、須佐之男命あるいは類似の神
 が黄泉の国にいく話は東北で成立している。

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考古学からみた古代 (縄文時代編) その89


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最終更新日2007年9月7日