ミミズク土偶・遮光器土偶
須佐之男命あるいは類似の神が、黄泉の国にいくのは、おそらくペアで考えられて
いるためだろう。墓が女性格であることは前に指摘したが、伊邪那美命(いざなみのみ
こと)を割り当てるにしろ、そのままでは偏りが生じる。これを是正するために、須佐之
男命が黄泉の国に行くことになるのだろう。逆にいえば、天上界でもペアであることが
望ましい。前述のように、天照大御神とペアになっているのは、伊邪那伎命(いざなき
のみこと)ではなく、高木の神である高御産巣日神(たかみむすひのかみ)に他ならな
い。高御産巣日神は空にそびえ立つ大木であり、世界をむすぶ。これは男性器を連
想させるだろう。高御産巣日神が男神であるならば、天照大御神は女神でなければな
らない。ところが、この土偶は、乳首はあるものの、女性としての胸をもたない。

どうかんがえても男だろう。土偶が出土した千葉県余山貝塚は、銚子市にある。銚
子市は関東のもっとも東に位置し、太平洋に面する。漁業民にとって太陽神を祀るの
は、太陽神が雷雨や台風などに勝利し、時化(しけ)が終わって、墓地と同じように海
が浄化されたことを体現するからである。世界に満ちている有象無象の気と闘い、勝
利する男でなければならない。これは山で猟をする人々でもおなじになる。太陽神を女
神と考えるのは、植物の育成が問題になった農耕民である。穀物は太陽光をあびて
光合成をおこなう。農耕をするようになれば、やがて気づく。
別のいい方をすれば、天照大御神といっても、女神をいう場合と、男性神を指す場
合がある。そうすると稲荷山貝塚から出土した土偶は、高御産巣日神である可能性が
ある。

高御産巣日神がトンネル(穴)としての女性格をもっていれば、太陽神としての天照
大御神が男性である方が望ましい。ペアが成り立つからである。また、太陽神が植物
を育む女性格であるならば、高御産巣日神は世界構造を体現する大木でなければな
らない。それは男性格を示すからである。
ちょっと先走りになるが、ここで黒色磨研土器/亀ヶ岡式土器文化期までの土偶を
検証しておこう。ミミズク土偶は、後期後半から晩期前半に関東地方を中心につくられ
(日本の美術 土偶 39p 原田昌幸著 至文堂)
る。右は埼玉県滝馬室(たきまむろ)遺跡、左は群馬県千網谷戸(ちあみがいと、と読
むらしい。読めないけど)遺跡から出土したもので、安行(あんぎょう)式土器に共伴す
る。ここで注目すべきは頭の形で、弥生・古墳時代編で見たように、太陽神が3、山の
神が2のトレードマークをもつ。千網谷戸遺跡出土の土偶は、シカやイノシシが偶蹄目

奈良県清水風遺跡
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広島県新迫南遺跡
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であり、足跡に二本の指をもつ。滝馬室遺跡出土の土偶を太陽神と確定できるのは、
いままでの考察の延長線上にある。それだけでなく、東北との文化比較も検討の余地
がある。それは東北が、中部・関東が発した情報に対して、受け取りつつ、再構築した
あとで、ふたたび情報発信するという機能をもっているからに他ならない。中部・関東
で生まれた事柄が、やや時間をおいて東北に出現する。しかも、自分たちの価値観に
合わないところを補正する。
黒色磨研土器/亀ヶ岡式土器文化期に入ると東北では遮光器(しゃこうき)土偶がつ

(日本の美術 土偶 40p 原田昌幸著 至文堂)
くられるようになる。遮光器土偶は、名前どおり、眼部を覆うものが、エキスモー雪メガ
ネに似ていることから名付けられた。これはサングラスのようなもので、雪の反射光を
防ぐ目的がある。それはともかく、遮光器土偶には胸の表現があり、女性格をもってい

(日本の美術 土偶 41p 原田昌幸著 至文堂)
ることがわかる。眼部の表現を比較してみるとよくわかるが、ミミズク土偶は目や口から
放射線状に装飾を入れている。さすがに先祖に動物神をもつ関東というべきか。なぜ
太陽神は光り輝くのかという、問いにたいする回答は、狐や大神などがそうであるよう
に、実際は反射なのだが目から光を放つ≠セったのである。これに真っ向から反対
したのが東北人で、もともと先祖を動物に仮託するようなことさえ、問題外と考えていた
フシさえある。関東説を受けつつ、火が自身で輝くように、太陽神も自身で光を放って
いるに違いない、と考えたようだ。それなら、自分がいちばん眩しい。眩しいから、目を
細める。そういう思考のプロセスである。
ちなみに、この目の表現は、木の葉と、横にした8字形付点文の合成である。

おなじ遮光器土偶でも、頭部の表現が異なっていて、ふつう1と考えるだろう。これは
太陽がひとつだからでもある。いずれにしろ、現在からみれば、どうでもいいような論
争のように思えるが、当時は重要な問題だったようだ。太陽神に対する関心が異常に
高まっているということであり、農耕の発生を示唆する。これは別のアプローチでも検
討してみよう。
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