炎

                   知れざる炎、空にゆき!
                      ---中也---

あれは、確かに炎だった
冷たい胸からぬけ出して
空へ昇った炎は
太陽の真近で凍りついた

小さな氷塊になった炎は
下界へ落ちるにしたがって
ひとひらの雪になった
暖かな陽射しの中で
誰も気付くはずもなかった

しぶとく漂っていた、ひとひらの雪は
やがて、乳母車の赤ン坊の眼にとまった
仰向けの赤ン坊は
白いひとひらに無心に手を伸べた

小さな温かい掌にすくわれて
ひとひらの雪は
たあいなく消えた

………………………………………

不思議そうに掌を眺めていた赤ン坊は
百人の天使を集めたような笑顔で
きゃっ、と笑った
それを見て
母親も笑った