ジェシ・デイヴィスの来日

 

ジェシ・デイヴィス来日!だれもが目を疑った。

本当にジェシ・デイヴィスが日本の土を踏んだのだ!目の前で日本のステージに立っているのだ。

「やあ日本のみんな、ほんとに長い間待っててくれてありがとう。私も本当にずっと日本に来たかったんだ」

ことの真相はこうだ。 1988年6月22日にジェシは亡くなったと発表された。しかし当時ドラックに深く侵されていた彼は同じネイティブアメリカンである友人、親戚たちの手によってその場を連れ去られ失踪した形となっていたのだ。

これ以上彼をそのまま放っておくわけにはいかないとそう判断した人たちによって彼ら独自の方法でジェシを健康にさせるべく連れて行き治療に専念させたのだった。もとより治療したからといっても元へ戻すことはまたドラッグに手を染めかねないであろう。そう考え彼は死んだことにさせて葬式まで済ませてしまったというわけだった。

ジェシをもそれを理解していたのであろう、もう二度と人前でギターを持つこともないと考えていた。しかしあれから15年がたちジェシも60歳になった。すっかり老けて、しかも太ってしまい、顔には深い皺が何本も刻まれていたがそれが返ってネイティブアメリカンの長老たる深い威厳と貫禄に包まれた姿となった。

日本にだけは行ってみたい、そんな気持ちが周囲の人々の納得を呼びもう一度ギターを手にしたわけだった。

ファーザオンダウンザロードのイントロのギターアルペジオ、深いレスリースピーカーからのギターの音が聞こえてきた。

絞るような歌が聞こえてきた。おそらくその場にいる待ちこがれていたすべての聴衆が涙したに違いない。

Farther On Down The Road You Will Accompany Me ・・・

 

ここで目が覚めました。枕は涙で濡れていました。あぁ、やはり夢だったのか... でも私ははっきり見ました。ジェシ・デイヴィスの勇姿を。はっきり聞きました。あのギターの音を、そして歌を。この涙がまだ暖かくほんものであるように。

アルカディア通信 2005年9月版に掲載されました

戻る