ヒ ト リ ゴ ト

第56話 汚職事件
第57話 花火大会
第58話 精霊流し
第59話 天使の微笑み
第60話 クラーク博士

第56話 汚職事件

JR常磐線取手駅西口の4番乗り場から無料送迎バスに乗り競輪場に向った
ここは茨城県
利根川をはさんで千葉県と隣接する

東京都や千葉県などは
中央競馬開催日は申し合わせたかのように他場でのレースを実施してないことが多い
ま、お互いお客の奪い合いをしても仕方ないし
今のJRAには勝てっこない

しかし茨城県ではその掟は通用しない

都心からのアクセスも便利なこの場は土日開催も多く
私にとって
週末の心のキズを癒す憩いの場の一つである


バスに乗って5分もあれば着く入場門をくぐり
レースプログラムを手にしたとき
後ろから声をかけられた

そういえば職場の仲間から「週末は何処行くの・・・」と質問され
「土曜は取手に朝から入っているよ」
と答えていたことを思い出した


ギャンブルをしないその彼に
「人間として本当に大切なこととはなにか」を教え続け
取手、松戸、平和島、船橋オートと指導を重ね
そろそろ一人立ちの頃かと思っていたが

ひとりでの旅立ちにはまだ不安も残るのか
私の到着をその入り口で待っていたようだ

「へへへ、来たよ♪」
この言葉で全てがわかった

”ギャンブルは孤独との戦い”と考える私にとって
共にいてもさほど苦にならない程の言葉数少ないその彼が
めずらしく立続けに話しかけてきた

マークカードの書き方やレースプログラムの見かた
それは以前に教えた
狙い目、勝ち目などの事なら仮に判ったとしても
ヒトには教えない


どうやら自慢話と失敗談を話ししたかったようだ

その一つ自慢話は
入り口でもらった早出賞の”スピードくじ”で『場内500円分のお食事券』が当ったとの事
早速、私の券も開いてみた
そして
「こんなもんで今日の運をつかっちゃダメだ」とつい言ってしまった
どうしてそんな言葉になるのか
その未熟さにあとで反省した

失敗談とは
缶ビールを買ってきたらしいが
”場内酒類持込禁止”との理由で帰りまで預かるとの事で没収されたとの事
よくよく話を聞くと
自分が飲む1缶と私の分まで気をきかし
2缶入っている
そのビニール袋を没収されたとの事ではないか
そうと聞けばなんとかせねばなるまい

まず私が持参した発泡酒3缶入りの黒い袋の中身を出し
その空袋を彼に渡した
そして
入り口で”没収物”と”再入場券”を受取り




マークシートの裏に描いた通りの動きをとってくれ
作戦は成功に終わった

それが起運となったのか
ギャンブルという苦悩をさまよっている私の隣で
ビギナーズラックの連続
競輪というスポーツを楽しんでいた

小腹すいた頃
なんと羽振りの良いことか
早出賞で当ったその『お食事券』をくれたではないか
官僚でもないし『お食事券』をもらったところで『汚職事件』まで発展はしないであろう
食堂に行きその券で500円のカレーを食べた

彼は・・・
700円を払い
おかず取り放題の『大当たり弁当』を食べていた

”発泡酒”3缶、”ビール”1缶飲み干した頃
ポッケの中の”札”はすっかり”玉”に変わっていた


取手競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く






第57話 花火大会

今日から待望の夏休み
遠くに旅したいが、資金が必要である
その準備の為、JR常磐線北松戸駅から競輪場に向った
近場で稼いで遠くで増やす
これが私のマニフェスト

世間一般、盆休みの土曜日
今日は混むかと思った

予想に反しひと数もまばらであった
まだまだ競輪はマイナーなスポーツか

人様の動きはどうでも良いことだ

スタートラインから左上を見上げるとそこにカメラが設置されている
その後ろのゾーン
そこが私のお気に入りの場所である
駅前のコンビニで買ってきた発泡酒
いつもなら500mlを景気付けに飲むところではあるが、今日は真剣モード

まずは350mlにした

今日のテーマは
”絶対に負けられない試合がここにある”
その為
心に”スキ”を作ってはならない

その意志の強さに神々も応えてくれ
1Rは3連複でまずまずの配当を取ることが出来た

ゆとりを持った私に
もう怖いものはない
500mlの発泡酒にも手をつけ
2Rは中穴から流してみた


そのゴール寸前で神々は私に背を向けた

パン、パン、パン

まだ昼前
近くの花火大会の音では決してない

ゴール手前4〜5mの場所で5番野村がイン勝負をかけ落車
つられ9番池田、7番藤田すこし後方で6番塩谷の落車
実際4車落車でパンク3車
パッパ〜ン・・・・・パン
このような音であった
7番、9番、6番は落車滑り込みである


花火のスターマインじゃあるまいし
そして
何故、私の狙った順番に落車したのか
謎が残る


タンカー3台が運ばれ選手達が乗せられた

観客からは
”たま〜屋””かぎ〜屋”の声はもちろんあがらず

”バカヤロー””かえれー””金返せー”


しばらくたち
マイク放送では
審議の結果をお知らせします〜♪
『5番選手、9番選手は3着までには達してません、勝者と関係ありませんので決定を先に行います』
ケッテイ、イッチャクニバン、、ニチャクサンバン、、サンチャクナナバン・・・・・
ワクバンレンショウフクシキ・・・・・


ただいまから第3レース発売中でございます♪


ギャンブル場では”後悔や余韻ひたるヒマは無い”ことは百も承知である

そこまで早く気持ちの切り替えも出来ない


その後4Rでも花火一本”パン”

8Rでは2本”パン・・パン”

今年の夏は近場で我慢しよう
”花火の音も聞いたし”

涙ながらそう考え

競輪場を後にした


松戸競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く






第58話 精霊流し

盂蘭盆会(うらぼんえ)を略してお盆とよぶらしい
十五日を中心に十三日が迎え盆、十六日が送り盆

先祖や亡くなった人たちの精霊(しょうりょう)が灯かりを頼りに帰ってくるといわれ
各地で精霊を川面に流している画がテレビで放映されていた
灯された灯篭がいくつも流れていく
流れ急なコースのそれは前をも抜くことがある


その映像を観ながら、今日はここしかないと心に決め
朝早くJR大森駅に着いた

バスターミナルには既に数台の迎えのバスが並び
その一台に乗り競艇場に向った


練習艇が爆音を響かせ
マイク放送では”ただいまマイクのテスト中”
そんな早い時間である

人生いろいろ振り返り
未来をも夢見れる素敵な時の流れをすごせた

レースが始まるまでは



”私のご先祖様は賭け事が好きではないようだ”
それに気付き

最終レース待たずして
さだまさしの”精霊流し”を口ずさみながら
その場を後にした


約束通りに♪あなたの嫌いな♪

 涙は見せずに過ごしましょう♪


そして黙って舟のあとを♪ついてゆきましょう♪
人ごみの中を縫う様に♪静かに時間が通り過ぎます♪


あなたと私の人生を♪

かばうみたいに♪




平和島競艇場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く





第59話 天使の微笑み

平和島競艇場から歩いてみた

高速道路に沿った陸橋を渡り
左に品川水族館を見ながらゆっくり歩いて20分位であろう

ナイター開催の大井競馬場には既に多くのファンが集まっていた


先ほどまでいた競艇場からひん死状態で抜け出した為
財布は軽く、足取り重く

これからの挑戦は一発逆転の3連単狙いしかないだろう
そう心に決めた


高配当が続いた

そんな人気薄には手を出す資金がない


これで人生も終わりか
意識も遠のきかけたころ
なんと二人の天使が隣に座っているのに気付いた

ひとりは自宅近くからいてくれたらしい
もうひとりは東京駅6番ホームからついて来てくれたらしい
そして
なんと
微笑みかけてくれたでは

それからのレースというもの



やはり取れない

なぜ、天使達は微笑んでいるのであろう
疑問におもいそっと覗き込んで観たところ

ひとりの天使は
複勝券を
もうひとりの天使は
ワイド券を

その手に握り締めていた


大井競馬場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く






第60話 クラーク博士

仕事にメドをつけ、愛する人に別れを告げ
第43回衆議院議員総選挙の期日前投票をも済ませ
この戦に挑んだ

ほぼ到着予定通りの10時に千歳空港に降り立ち
新千歳10時19分発のエアポート103にて
戦いの場に向かった

札幌駅にて函館本線に乗り換えひとつ先の桑園駅
その西口で待機していた”札幌競馬場行き無料バス”にかけ乗り
4レース発売締切直前にはすでに売り場に立っていた

JRAのマークカードは全国共通であり
15時間もかけ研究しつくした既にマーク済み投票カードと現金を売り場窓口に差し出した

なんと用意周到な事か
勝負にかける意気込みが違う

その後一目散に馬場に向かい
そのレースを待った


そして

外れた


鮮やかな緑の芝、周りは木立に囲まれているきれいな競馬場である
予想していたより小さく感じた

第4コーナーからゴールまでの直線が異様に長い

このコース特性を考えずに予想した私が愚かであった
そして
赤ペン片手に15時間もかけマークした出走表を再度見直し
描いた印を根底から修正した

そして
次の5レース



これも外れた




休日でもあり場内は多くのファンで賑わっていた
そんなファンのためのサービスのひとつとして
”安田大サーカス”のライブが行われるとの場内アナウンスが鳴り響いた

メインステージに向かってみたが
既に多くの群集に囲まれ
その姿さえ見ることが出来なかった

ダンダンダン、、ダッダッダ ダン
そのリズムに合わせ群衆の後ろで
ハズレ馬券を紙ふぶきのようにばら撒くおやじを観て
それで満足し、その場を離れた


パドックの左に石碑が奉られていた
”馬頭観世音菩薩”と刻まれている
何か判らないが
そっと手を合わせてみた

それからのレースというもの



やはり

また



外れた




どうしても長い直線で私の描く筋書き通りに馬が走ってくれない


早めに切り上げ、桑園駅までバスに乗り
発寒通りを歩き大通公園に向かった
30分も歩いただろうか
”札幌市資料館”にたどり着いた
公園の片方の端からもう片方の端の時計台がくっきり見えた
時刻は4時10分
その距離どの位あろうか
馬が直線思い通り動かない腹いせもあってか
ちょうど30分で時計台まで行ってみようと強く心に決意し
スタートを切った

バラに飾られた一画
次は噴水を楽しめる一画
想像を上回る以上にきれいな公園である
立ち止まると肌寒い位の気温ではあるが、うっすら汗ばんだ体にそよ風が心地よい

そして
もうひとつの端、時計台に付くころには既に6時をまわり薄暗くなりかけていた

実は
途中”フードランド北海道”という催しを偶然やっており
8丁目広場でとうきび、焼きさんま、札幌コロッケ、サッポロビール
7丁目広場でかに汁、シュウマイ、サッポロビール
6丁目広場でミニいくら丼、サッポロビール
5丁目広場で海鮮春巻、サッポロビール
そして
4丁目広場で休んでいたら
すっかり薄暗くなっていた

直線、何がおきるか判らないものである


徳川埋蔵金の発掘かゴールドラッシュか
大志をいだき北の台地に降り立ったが
あらぬ方向の結末となった

仮にクラーク博士がこの姿を観ていたら
”BOYS BE AMBITIOUS”
とは言わず
おそらくこう言ったであろう

”中年よ堅実に歩め”



札幌競馬場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く