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                           ス   ト  −  リ   ィ

 かきちゃんSTORY U

                                                  このおはなしは フィクションです.

U 横浜にて……  衝撃の告白 

             

  「ふぇぇぇえっくしょん!!」
柿澤は風邪をひいていた。
「ズズズ……。やっぱ、あんときのアレが原因だろ〜な……。やっぱし……」
柿澤は昨日の出来事を思い起こした。
  柿澤に泣きついてきたさくら
  先輩にフラれたことを柿澤に語るさくら
  さくらに想いを告げようとしながら何も言えなかった自分
  さくらの父の登場
  父に叩かれたさくら
  父に寄り添って帰途につくさくら
  そして取り残された自分。
 多量の雨風……

  天井を見上げている柿澤。
「ふあああ、バカらしい! 寝よ寝よ!!」
大きなため息をついてから、柿澤は布団をかぶった。
 しばらくして、柿澤は布団から頭を出して考えた。
「さくらさん… 見舞い来ないかな……」
 そんなコトを思いながら柿澤が天井を見上げた時、玄関のチャイムの音がした。
  柿澤は怒涛のごとく階段を駆け下り、玄関に向かった。すると、そこには妹のみちこが
いた。
「おにいちゃん、どうしたの? そんなに息切らして……」
不思議そうな顔で柿澤を見ている妹に対し、食い入るように聞いた。
「いま…今来たの、誰だ!?」
「し…、新聞の勧誘だけど……」
みちこは少し後ずさりして、答えた。
 「あ、そう……ごほっごほっ」
柿澤はがっかりした表情を見せると、咳きこみながら、階段をまた上がっていった。

 鶴が台団地五街区  ここにさくらの実家はあった。
  さくらは電話の前でうろうろしている。さくらの父はそれを新聞の陰からみていた。
「さくら、どうしたんだ?」
父が遠慮気に聞いた。
「あ、なんでもないよ……」
さくらは父の声に戸惑いを見せながらも、なんでもないようなそぶりを見せさせた。
 「ちょっと、タバコでも買ってくるかな……」
父は椅子から立ち上がると、新聞をかたずけ、玄関へと向かった。
  玄関で靴を履き、扉をあけると、
「ついでにパチンコでもしてくるか……」
と、呟き、扉の外へと姿を消した。

 「え……、なんだよ……」
柿澤はぶっきらぼうに応えた。電話の発信先は加鋸の家らしいが、受話器から亜
瀬の声が響く。
「いいモンがあるんだって!! ちょっと加鋸ちゃんに代わるね……」
 受話器の向こうで亜瀬が加鋸を呼んでいるのが聞える。どうやら加鋸の家に何人か集
まっているようだ。
「あ、もしもし…… かきちゃん?」
「それで、なによ!?そのいいモンって」
柿澤が不仕付けに訊くと、加鋸の脇から堰の声が割り込む。
「来れば、わかるぅ〜」
「だからオレは、今、風邪ひいてんの!!」
柿澤は自分の状態を先刻(さっき)から言っているのに、解ってくれようとしない彼らにため息を
ついた。

  一方、さくらの自宅  
『ツー ツー ツー ツー』
さくらは虚しく響く受話器を置いた。
「アイツ……何処に長電話してんだろ?」
 さくらは天井を見上げた。
「ま、いっか。夜、またかけよっと……」

  またまた柿澤の自宅……
「じゃっ! もう切るぞ!!」
「かきちゃんゴメンね」
柿澤のぷっつん切れそうな声に、加鋸は苦笑しながら電話を切った。
 柿澤は乱暴に受話器を置いた。が、その直後。柿澤の鼻の下がのびていった。
「そうか……。フフフフフ……、ハハハハ…ハ……ハっ………  ごほっごほっ」

 そしてその夜  
「もしもし、柿澤ですけれど……」
みちこは受話器を取って応対した。
「はい、兄ですか? ちょっとお待ちください」
受話器をその場に置き、みちこは二階へと上がった。
 「おにいちゃん。山本さんって人から電話だよ!」
みちこは柿澤の部屋に顔をのぞかせて兄を呼んだ。しかし柿澤は気持ち良さそうに寝てい
た。
 みちこがすこしためらっていると、柿澤は大きく寝返りをうった。
「うんんんん…… むにゃ……」
みちこはこの時とばかりに大声で柿澤を呼んだ。
「おにいちゃんっ!!」
 が……、
ぐおおおおぉぉぉ」
「………………」
 みちこはため息をついた。
「ダメだな……」

 みちこは階段を降りてきて受話器を再び取った。
「あ、もしもし…… すみませんが、今、風邪で寝込んじゃってて……」
その場しのぎの対応だが、相手もそれが解ったらしく伝言を言ってきた。みちこはメモを
用意した。
 「あ、はい、はい、わかりました……
はい…、おやすみなさい」
みちこはメモを確認すると、受話器を置いた。

 翌朝  
 柿澤は二階の自分の部屋から、ネクタイを締めながら降りてきた。
「ふあああああー かったりぃな……。会社、サボろうかな」
柿澤は一人で文句を言いながら、ダイニングを迂回していた。ふとテーブルのメモが
柿澤の視線に止まった。
 柿澤の顔がみるみるほころんでいった。