新治市民の森とは?
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 新治は、横浜の原風景とも呼べる貴重な場所で、幾つもの素晴らしい谷戸と田畑、雑木林で構成された典型的な里山で約100ヘクタール程の広さがあります。しかし、最近そのすぐ側まで開発の魔の手が伸びてきています。空から見下ろすと灰色の海に浮かぶ緑の島の様に見える筈です。自然写真家を夢見る私ですが、新治に出会う迄は何時間も車で無駄に移動して、撮影時間は僅かというのが常でした。

私を惹きつけ放さない、この新治の四季をご紹介しましよう。

・・・春から夏は・・・

◇3月末、新治は冬の永い眠りから目覚め、山は萌木色に輝き白や黄色の可憐な花たちのファッションショーがいよいよ開幕するのです。雑木林の中で一番早く咲き出すのが、ピンクの小さな花を沢山つけるウグイスカグラです。初夏熟した実は食用になります。

◇4月の声を聞くと春は駆け足です。今まで静まり返っていた雑木林が急に騒がしくなり、新芽が開く音が聞こえてくる様な気がします。ウグイスは地鳴きから春の訪れを告げる「ホーホケキョ」に変わり甲高いキジの「ケンケーン」という声も聞こえてきます。野草はスミレ、リンドウ、ヒトリスズカ、シュンランなどの花たちが競って花を広げます。林床の植物を総称しスプリングエフェメラル(春植物)と言います。

この花の中で、一見何の変哲も無いようなスミレについてお話をしましょう。スミレは日本に約50種類あると言われています。スミレが咲くのは早春!花期以外の夏、秋にじっくり観察すると全く花弁の無い変わった葉穴をつける事に気付くでしょう。この花を「閉鎖花」と言います。この不思議な花は熟すと小さなサヤが三つに開き出しその中に沢山の種が詰まっているのが見えます。開いたサヤはやがて乾燥して縮まり始めると、種が勢い良く飛び、そこで新たな命が目覚め分布を広げます。

 芽吹きで特に芽を引く木はコナラ(ドングリの木)で、みなさんがお馴染みの木です。子供の頃、秋ドングリ拾いをしたのを思い出しませんか?コナラはあ新芽が白く短い毛で覆われ白銀に輝き、触ると赤ちゃんの耳たぶの様な柔らかさで遠目には白い花が満開の様に見えます。コナラは約10年おきに伐採し、炭やシイタケ栽培のホダ木などに生まれ変わりますが、最近は家庭エネルギーが電気やガスに変わり手入れをしなくなった雑木林は笹がはびこり、カブトムシも樹液の出ているコナラ、クヌギの木まで飛んで行けず被害を受けます。藪の状態になると林床に陽が届かなくなり貴重な春植物は壊滅的な被害を受けますが、野ウサギやウグイスなどは藪を隠れ家にして暮らしているので、全て刈り取るのも問題が残ります。

里山全ての生き物たちの事を考え里山保全をする事が大事だと思います。

コナラは伐採後、数ヶ月経つと見た目は枯れてしまった様に見える切株の脇から沢山の新芽が出て来ます。これを「ひこばえ」と言い2、3年後に2本位までに間引いて、10年後には大人の男性の腕の太さ位までに成長し、また利用可能になり、この作業を繰り返します。なお、この様な木を「台場のコナラ、クヌギ」と言います。

シイタケが収穫出来なくなったホダ木は一箇所にまとめて捨てられます。その後、クワガタの幼虫が利用し、ボロボロに砕け土状になると昆虫の王者「カブトムシ」の幼虫が住み始めるのです。この様にコナラは伐採されても最後まで無駄になりません。

 トンボたちは田植えが終わった頃から本格的に羽化(発生)が始まります。4月の春まだ浅き頃、イトトンボを大きくした様な姿のカワトンボが出現し、小川をひらひらと気持よさそうに飛んでいます。体色は同種でも色々ありますが、特にエメラルドグリーンの固体は、光を浴びるとキラキラ輝きとても美しいです。このトンボは水質汚染に大変弱く、残念ですが新治でも年々数を減らしていて何らかの保護が必要です。

◇5月も半ばを過ぎて木々の葉が生い茂る頃、スプリングエフェメラルは春まで長い眠りにつきます。日陰になった雑木林ではヘビが頭を持ち上げた様な形の不気味なウラシマソウ、マムシグサがあちらこちらで咲き出します。信用して頂けないかもしれませんが、実はこの花は、可憐なミズバショウの仲間なのです。

 この頃、ノアザミが満開となり草原を彩ります。この場所は年間を通して色々な草花や昆虫たち、そしてノウサギも観察出来ます。ノアザミの前に座り込み入れ替わり立ち代り訪れる昆虫を観察するのも実に楽しいものです。

・・・たとえばどんな昆虫たち・・・

◇6月に入ると栗の花の青臭い香りが谷戸全体を包み、水辺では毎晩、源氏蛍の舞踏会が開催されます。草原では昔子供たちがホタルを入れて遊んだと言うホタルブクロが釣鐘状の花を咲かせます。

 新治は湧き水が豊富で、水生昆虫(ゲンゴロウ、コオイムシ、ミズカマキリなど)が観察できます。
みなさん、「ミズカマキリ」をご存知ですか?姿形は三角頭にスマートな体と陸上のカマキリにそっくりですが、実はまったくの別種で、セミやカメムシに近い仲間なのです。鎌は獲物を捕まえる時に使い陸のカマキリと同じですが、口の構造は違い、陸のカマキリは噛む口ですが、ミズカマキリは吸う形状で、獲物に口を刺し血を吸い取る「昆虫の吸血鬼」なのです。あと、呼吸法も面白く陸上のカマキリはお腹の横の穴(気門)で呼吸をしますが、ミズカマキリはお尻の先から長く伸びるストロー状の管を水面上に出して呼吸をします。

◇7月、梅雨明けが近づく頃、いよいよ子供達の人気者が姿を現します。そう!カブトムシです。
カブトムシの幼虫は、腐葉土、堆肥、朽ちたホダ木などをエサとして1年で親になります。
クワガタの幼虫は、朽木の中で成長しますが、朽木は栄養分が少ないからか、それとも冬季に直接朽木の中まで寒さが伝わるからか?2年がかりで親になる場合が多い様です。
カブトムシの幼虫は発酵熱で暖かい腐葉土のなかで暮らしているので冬眠はしません。種類によって違いますが、クワガタの幼虫は冬眠をします。全ての糞を出してお腹を空にして体の中を車のラジエターの不凍液と同じ様な液で満たし凍結を防ぎ冬を越します。

 毎年、私は夏に昆虫採集(カブト、クワ)をしますが、残念ながら子供たちの姿は殆ど見られません。塾通いやファミコン、パソコンなどの普及が拍車をかけている様です。現代の子供たちは自然との触れ合い方や遊び方を知らない様で、これはとても悲しい事です。私は危機感を強く感じます。
あと、最近のオオクワガタ飼育ブーム?のお陰か最近、新治の雑木林の中でも鉈の入った痕跡がある朽木が目立ちます。私もオオクワガタの累代飼育を趣味としていますが、発生元の朽木破壊は大きなダメージを与えます。クワガタが欲しい気持も分かりますが控えて頂きたいと思います。似たような例で、花の盗掘も同じです。「1本位もらってもいいや」とみんな考えます。するとやがて貴重な野草も絶滅してしまうでしょう。野草は自宅ではなかなか上手く育ちません。もし、どうしても欲しいなら種を少し分けてもらうと良いでしょう。

昆虫酒場の常連客は、昼間はスズメバチ、カナブン、ハナムグリ、蝶などが訪れ、夜にはカブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシ、蛾などが訪れメンバーが代わります。食いしん坊のカブトムシは、日が昇っても餌場を離れない事もあります。あと、面白いのは「オシッコ」をする時で、必ず後ろ足を犬の様に高々と持ち上げてようをたします。

「昆虫酒場とは?」
クヌギ、コナラの樹液は夏の猛烈な陽射しを受けて発酵を始めます。すると甘酸っぱい香りが雑木林を漂い、樹液が出ている木は蜂、カナブン、蝶が飛んでいるので発見は容易です。しかし、最近は木に傷を付けて樹液を出すシロスジカミキリやボクトウガが減っているので、良い樹液が出る木は減っています。樹液の成分には実際にアルコールの成分が含まれ「お酒」に近いそうです。この為か?長い時間樹液を舐めたカブトムシの方が元気で喧嘩も強い様に思えます。

「シロスジカミキリの名前の由来」
この虫の「シロスジ」ですが生きている時は、実はスジは黄色で白くありません。死ぬと「シロスジ」になります。

命名した人は、死んだ虫を見て名付けたのでしょうか?とても不思議です。

夏の新治の代表的な花は山百合ですが、盗掘や動物たちの食害によって年々数を減らしています。



・・・秋から冬には・・・

◇9月に入るとアキアカネ(赤トンボ)が遠く離れた高原から生まれ育った田や池に戻ってきます。
アキアカネは夏の間、避暑をする贅沢?な昆虫なのです。

 雑木林ではドングリ(堅果)が目立つ様になります。代表的なドングリの木は、クヌギ、コナラです。
クヌギのドングリは熟して落下するまで2年。コナラのドングリは春に咲いた花が実を結び秋には熟し落下します。

みなさん、拾い集めたドングリから丸々太った芋虫が沢山出て来た事がありませんか?この芋虫は、実はコナラシギゾウムシの幼虫なのです。ゾウは鼻が長いけど昆虫のゾウムシは、口が長い変わった姿の虫で、この口で左右に頭をひねりながらドングリに穴を開け産卵します。日本では約800種類ほどいると言われています。

 お彼岸の頃、数少なくなった田んぼの畦で彼岸花(マンジュシャゲ)が満開になります。普通花は、暖かい地方から同じ種類でも咲き始めますが、体内時計があるのか?彼岸花は全国的に一斉に咲くそうです。

◇10月に入ると朝晩はめっきり冷え込んできて早朝、夜露の付いたアカトンボが観察出来ます。
この頃、稲刈りが始まりリンドウ、山ラッキョウ、ユウガギクなどの花が咲き、秋の終わりを告げます。

◇12月の終わり頃に雑木林の中を散策すると、ビツクリするほど真っ赤な実を付けたマムシグサを見る事が出来ます。冬の雑木林は視界が大変良いので野鳥観察に最適です。コゲラ(キツツキの仲間)が「コンコンコン」と木に穴を開けている音が聞こえます。あと、群れで行動するシジュウカラ、メジロなどを見る事が出来ます。

◇1、2月は霜の世界で、落ち葉や紅葉したノイバラが砂糖をまぶしたお菓子の様に変身します。日が昇るまでの一時ですが・・・。

◇2月も終わりに近づくと、水田脇の小さな池でアカガエルが産卵を始めます。カエルでは一番の早起きです。他のカエルは夢を見ながら土の中で冬眠中です。

・・・どんな夢を見ているのかな?・・・

 春の香りを微かに感じる頃、関東南岸を低気圧が通ると雪が降り、一面白銀の世界になってまるで雪国に来た様な錯覚に陥ります。

こうしてまた春が訪れます。


「あとがき」
 新治に永年通っていて「よく飽きないね」と言われますが、飽きる事なんて絶対にあり得ません。
毎年、新たな発見があり、繰り返して通う事によって本当の自然が見えてくるのです。

最近農家の人が「横浜市が地主さんから土地を買って新治が自然公園になるよ」と教えてくれました。詳しい情報を知りたくなり、電子メールで横浜市市役所緑政局に問い合わせて回答を頂き、私が役所の方を案内する事になりました。

当日は担当者から「石井さんは、どのような公園にしたいですか?」と聞かれ私は、「まず、荒れ放題の雑木林の手入れから始めたら如何ですか?」と提案しました。笹や下草を刈り取ることで、貴重なスプリングエフェメラルたちが蘇るのです。次に常緑樹を間引く事で雑木林が明るくなり林床まで光が届く様になります。雑木林は人が手入れをしなくなると日陰で育つ木や草の天下になります。この様な森を「極相林」と言い、代表的なのがブナの原生林です。試しに藪の一角を刈ったのですが効果覿面で春に色々な植物たちが芽を出しました。

最後にビックニュースがあるのですが、新治市民の森開園後に愛護会が発足される事が決定しました。

私は里山保全に大変興味があり実際に自宅で新治のコナラ、クヌギをドングリから育てています。
発芽してから約4年で木の高さが2メートルを越えました。時間が出来たら愛護会に入会して里山保全をしたいと考えています。

平成12年3月26日、新治小学校で「新治市民の森公園」の開園式が開かれました。自然公園化は貴重な自然が残るので嬉しいのですが、沢山の人が訪れる様になると残念ですが「花盗人」が増える事です。野草は自宅ではなかなか上手く育ちません。

さあ、みなさんも自然と触れ合い自然写真を始めませんか?

2000 5月27日 石井 孝親 












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