【恋におちて】
製作年 1984年、米
監督  ウール・グロスバード
出演  ロバート・デ・ニーロ メリル・ストリープ
【あらすじ】
 クリスマスを前に混雑するニューヨークの書店で、建築技師のフランク(ロバート・デ・ニーロ)と父親の見舞いに訪れていたモリー(メリル・ストリープ)はふとしたはずみで身体がぶつかってしまった。2人とも家族へのプレゼントをたくさん抱えていたため気が付かなかったが、家に帰ると書店で買った本がお互いの本にすり替わっていた。
 それからしばらくして、フランクとモリーは朝の通勤電車の中で偶然出会う。その場は少し話しただけで別れたが、帰宅時心残りなフランクはモリーを駅で待ち受け、これからはいっしょの電車で通勤しないかと提案し、モリーはためらいながらも同意する。それから、2人は昼食もいっしょに取ったりするが、会うのは常に昼間で深い関係には踏み込めないでいた。
 ある日フランクは友人から借りたアパートにモリーを誘うがやはり一線を越えることは出来きなかった。モリーが帰宅すると夫から父親が亡くなったと告げられる。モリーは葬式を済ませるが精神的に参ってしまい入院する。2人はしばらく会わないことにしたが、フランクのよそよそしい態度に妻は気づきモリーとの関係を告白させられた。怒った妻は子供を連れて実家に帰ってしまい、フランクも前々から誘われていたヒューストンでの仕事を引き受けることにする。モリーはフランクが出発する前に一度会いたいと車に飛び乗るが故障してしまい結局会うことは出来なった。 
 それから一年後。クリスマスを前に初めて出会った書店には、お互いを探す2人の姿があった。
【解説】
 この映画は明らかにデビッド・リーン監督の「逢びき」(45年)が下地になっているが、ラストの違いは時代の流れであろう。ビッグスター2人の共演ということもありアメリカよりも日本でヒットした作品で、TVドラマ化(金曜日の妻たちへV 恋におちて)されるなど一種の社会現象となった。
 ロバート・デ・ニーロもリー・ストラスバーグの「ニューヨーク・アクターズ・スタジオ」の出身で、「ゴッドファーザーpartU」(74年)では先輩にあたるマーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネの若き頃を演じ、みごとアカデミー助演男優賞を受賞し、スターダムにのし上がった。役柄に合わせて太ったり痩せたりと自在に体型を変える演技法は”デ・ニーロ・アプローチ”と呼ばれており、体を張ったこのメソッド技法を用いて「レイジング・ブル」(80年)ではアカデミー主演男優賞を受賞している。エキセントリックな役柄が多いが、この映画では不倫に苦悩するごく平凡な建築技師を好演している。また、友人役には私生活でも交友があるハーヴェイ・カイテルがこれまた普通のビジネスマンとして出演している。
 アカデミー賞ノミネートの常連であるメリル・ストリープは、デ・ニーロも出演していた「ディア・ハンター」(78年)で認められると、「クレイマー・クレイマー」(79年)のダスティン・ホフマンの妻役で、はやくもアカデミー助演女優賞を受賞している。最近は母親役も多くなり、デ・ニーロとの3度目の共演となった「マイ・ルーム」(96年)では、レオナルド・ディカプリオの母親を演じている。
 映画に登場するのはメトロノース鉄道で、ニューヨーク・グランド・セントラル駅を起点にハドソン線、ハーレム線、ニューヘブン線の3路線がある。撮影に使われたのはハドソン川沿いを走るハドソン線で、集電方式は地上を走る電車ながら地下鉄銀座線や丸の内線と同じ第3軌条になっていて珍しい。沿線は緑に恵まれた一戸建てを中心とした閑静な住宅街が続いており、比較的裕福なファミリー層が住んでいる。パーク&ライド方式の通勤風景やほとんど混んでいない車内の様子などは、満員電車が当たり前の日本の通勤者からは見ていてうらやましい限りである。
 終点のグランド・セントラル駅はかつてニューヨーク・セントラル鉄道の中心駅であり、ニューヨーク〜シカゴ間の速達時間をペンシルバニア鉄道と激しく争ったことで知られている。ハワード・ホークス監督の「特急二十世紀」(34年)はこの鉄道の看板列車を舞台にしたものだが、1930年代にスピードアップを図るために登場させた蒸気機関車の車軸配置が4−6−4(先輪2軸、動輪3軸、従輪2軸)とこれまでにないものだったのでハドソン川にちなみ、ハドソン型SLと呼ばれるようになった。
 一方のペンシルバニア鉄道は、ラッキーストライクやピースのデザイン、シェル石油のロゴなどで知られるレイモンド・ローウィーがデザインした流線形SLで対抗した。ローウィーは「アメリカを形作った男」の異名を持っており当ホームページでもたびたび取り上げている。