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青銅の仮面 〜 雨が降りしきる日々。窓を開けていても新鮮な空気ではなく、生暖かく陰気臭い空気が入ってくる。 氷室良介。彼は書斎で片付けをしてコーヒーの一服をしていたところだ。 その手元には神事や伝統芸能のために奉納された能面がある。 普通の木製で出来ている能面とは違い、材質は青銅で出来ている。 鉛や銅で出来た物はお土産品の大量生産で作られた物が多い。 腐食が進むために現存している物は少ない。 大抵は景観の為の美術品なのだが、これだけは非常に珍しい品物なので手元に残してある。 所々欠けており、額の部分にはぽっかりと穴も開いている。飾るために直接釘を打ちつけたものだろう。 骨董品の中でも値打ち物とは言えない感じで粗末な扱いにされていたと思える。そうした品物には銘も入ってない。 女中は遠くまで買いだしに行っていた。今は飯炊きをして汁物と煮物を作っているので良い香りが漂ってくる。 大根と麩の味噌汁と南瓜と鶏肉の煮物。鰹節を振りかけた冷奴。べったら、奈良漬、茄子の水漬。 夜遅く、ゆっくり過ごしたいと思った場合は自分で芋汁や、なめこ汁を作る事もある。 香りが強いので女中が気になって起き出してしまい自分の夜食を作り出してしまう。 その後は下の方が近くなるらしく騒々しい。夜中に小便の補給をしてどうする。 この時間に自分1人だけが起きている物静かな一時が良いのだが、そういう事はあまりない。 ここは市外の長閑な片田舎で付近には纏まった建物は無い。代々から見晴らしが良い土地を選ぶ結果。 少々不便だが他所に住まいを変える理由も無い。暇を持て余す毎日ではまだ贅沢なほうだ。 春を過ぎ蒸し風呂の様なうだる暑さの真夏を迎えた季節。そのような折に1つの事件が起きる。 いつものように毬で遊んでいた着物姿の少女が忽然と姿を消した。 ここ2年ばかり見かけていたがどこの家の子か分からない。 当初は騒ぎになるどころか誰もが他所の家の事など大して気にも留めていない。 警察署の車が行き交い周辺の目撃情報を求めているだけで捜索は進まなかった。 どこでも些細な物事から大事に至るまでありとあらゆる事件が多発している世の中。 その中にあって未解決の事件が多かった。 少女の身に何かが起きた事だけは確かである。 後々に新聞で発表されて分かる事になるのだろう。 そんなことも忘れ、この蒸し暑い季節をどう過ごすか考える日々。 季節外れだが茶碗蒸しを茶店から取り寄せて冷やして食べるのが唯一の楽しみとなっている。 たまに白髪が入っている事がある。最初はいぶかしむが自分の物と気付き表情を強張らせてしまう。 |
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※この物語はフィクションです。 ミステリー 橘 陽介シリーズ 死者からの声〜夜に鳴く人食い魔は3000キロを歩く。少年が見たものとは一体・・・。 第一部 釣り人は日の出てない時間から早くに出かける。渓谷、湖、海と日本各地どこへでも。 そのため奇怪な現象に遭遇するのも珍しくないという。 これはある釣り人から聞いた話である。 休暇を得て遠出をする。早めに現地に着いた後、下準備を終え車の中で少し眠ることにした。 コンコンと叩く音が聞こえる。虫がぶつかっているのだろう。 半日かけても釣果は芳しくなく場所を変え奥まったところに移動し野営することにした。 大雨が降ってきたため湿った空気が増す。日も暮れているため徐々に寒さが強まってくる。 体を温めるのと疲れを取るためにコーヒーで喉を潤す。 こうこうと月が浮かび、光に引き寄せられた羽虫が付近に飛び交う。 しばらく川の流れる音を聞きながらまどろむ。 水が跳ねる音が聞こえ近づいてくる。魚が跳ねている音だろうか。 いや、音はテントの前まで近づいて止まった・・・。そう感じた後は翌朝起きるまで記憶が途切れている。 旅の疲労が取れないため帰路に着いた。 どうにも具合が悪い。医者に見てもらうが原因が分からない。 顔は青ざめ頬は扱けた様だ。息苦しい。寝床に横たわるも寝苦しく汗びっしょりになる。 川の水に有毒な物でも混じっていたのだろうか。知り合いに河川の水質調査を依頼し結果を待つ事にした。 聞いた話はここまで。 釣り人から調査を頼まれた私は指定された場所に向かったが、そこには川など流れておらず枯れ果てたダムの残骸しかなかった。 連絡を取ろうとしたが相手は一週間の間出ないままだった。 たまたま上京する機会があったので自宅に寄ってみたが誰も出ない。 病院名を思い出したので病院に立ち寄り尋ねてみるがそのような人物は訪れていないと言う。 改めて翌日訪れるがまるで留守。その折に管理人が尋ねてきて事情を説明する。 かなりの間留守にしているらしいという事だったが、体調が思わしくない事を考え管理人に部屋を開けてもらった。 扉を開けたとたん数匹の蝿が横切った。部屋には黴臭い異臭が漂っている。 釣り道具は放置され埃を被っている。長い間使った形跡が無い。 他にも釣り道具があったのだろうか。しかしつい最近までここにいたという形跡が何1つ無い。 テレビのニュースには山奥の中から死後1年は経過しているだろうとされる半分白骨した遺体を発見した話が出ていた。 所持品から身元が出ていたが、あの釣り人の名前だ。すると私に連絡を入れてきたのは誰なのだろうか。 私は仕事を終え故郷に戻った。 数日後、地元紙を読んだ際にあの釣り人の家の床下から数人の遺体が発見されたという記事を見た。 その遺体はかなり古いものから最近のものまで。頭や指先だけを残し殆どは骨だけらしい。 それ以上詳しく書かれていなかった。 これはどういうことなのだろうか。 次回、釣りバカ刑事シリーズ・堤 多門〜5000キロの旅 白い霧の中に消えた女〜にご期待ください。 |