「カラスは無実?」
 ここ二週ほど、用事がたて込んでウォーキングが出来なかった。 体のあちこちが凝り固まって、体自身が歩くことを要求しているのがわかる。
 今日は月曜日。砧公園はすっかり秋の風情を見せていた。
  平日の朝十時半という時間のせいか、さすがに人が少ない。
 お年寄りが、ぽつぽつ散歩していたり、幼稚園の野外授業だろうか、園児達が芝生に車座に 座って、ゲームをしている。まことにのどかな風景である。 ウォーキングコースも、ひっそりしていて出会ったのはたったの三人。 まるで貸し切り状態だ。森を一人占めしたような贅沢な気分である。
 約千七百メートのコースを一周すると、じわっと汗ばんでくる。 こつんと頭にぶつかったものがある。見るとどんぐりだ。秋を感じる瞬間である。
 五歳くらいの女の子が三人桜の枝にまたがって遊んでいる。 ここの桜は枝ぶりが低いので、危ないことはない。 「かーらあす、なぜ鳴くの…」 一人の女の子が歌い出だした。  いまどきの子も「七つの子」をくちずさむのかと、なんだか嬉しくなってしまった。 すると、別の子が「カラスは無実…」と続けて歌った。  えっ!思わず自分の耳を疑った。一体どういう意味なのだろう。  「カラスは山に…」ではなかったのか。女の子達は、きゃきゃと笑いながら、「カラスなぜ鳴く の、カラスは無実…」を繰り返し歌っている。
 その先が聞きたかったのだが、歌はいつもそこで終ってしまう。  罪を着せられたカラスが、悲しくて鳴いているとでもいうのだろうか。謎である。
 一昔前、「カラスの勝手ででしょう」という流行語があったが、最近は「カラスは無実…」が 流行っているのだろうか。それとも、女の子の即興の替え歌なのか、私には判断がつかなかった。  歩きながら勝手な想像をめぐらせた。  たぶんその子のお母さんは世間で悪者扱いされているからすに同情を寄せている人物に違いない。  「カラスは、ちっとも悪くないのに、人間が勝手に悪者扱いをするのはおかしいわ。 カラスから棲家や餌場を奪ったのは人間なのに、ゴミを漁り、ゴミ置場を汚すからって、 カラスを責めるのは間違っている。からすは無実なのよ」  常日頃子供たちに言って聞かせているに違いない。
 もしそうだとしたら、そのお母さんは地球規模で物事を考えられる素晴らしい人だ。 なんて愚にもつかないことを考えながら、いつの間にかコースを三周してしまった。 たっぷり汗をかき、気分は爽快である。
 帰り道に花屋に寄る。  マリーゴールドとカランコエ、それに観葉植物を少し買う。家に帰ると、さっそく寄せ植えを 二鉢造りあげた。  黄色いマリーゴールドのせいで、ベランダが一段と明るくなった。コーヒーを淹れ、CDを聞き ながら花を眺めるこんな何でもないひとときがたまらなくいとおしい。  母から宅急便が届いた。故郷の匂いがする。次から次と玉手箱のように色々なものが出てくる。 箱の隅に大好物のゆり根が入っていた。  今夜は卵とじを作ろう。