「ご冥福を祈る」
 故郷を離れて暮らす者は、わが町の名にはとても敏感なものである。
 何気なくつけたテレビから、「猪苗代中学校…」と言うアナウンサーの声が耳に飛び込んできた。  「何だろう?」慌ててテレビの前に座る。
 オーストリアで起きた、ケーブルカーの火災事故のニュースだった。
 何ということだろう。  こんなことがあっていいのだろうか。  第一報では、猪苗代中学校の生徒たちが事故に巻き込まれたかどうかまだわからないと伝えて いた。
 それからというもの、どうか母校の子供たちがあの中にいないようにと、ずっと祈っていた。  しかし、詳細がわかるにつれ希望は絶望へと変わっていき、皆の祈りも虚しく結果は最悪となって しまった。
 しかも、犠牲者の中に、実家の知り合いの名前を見つけたときは、胸がつまる思いであった。  実家の母などは、電話口で、なんとお慰めしてよいやら言葉が見つからないと、おろおろして いた。  異国の地でのあまりにも早すぎる子供達の死。悲しすぎる。理不尽だ。  ご家族は、まだ信じられない気持でいらっしゃるに違いない。どんな思いでDNA鑑定の結果を 待っていらっしゃるのだろうか。  辛く長い時間をじっと耐えて待つしかないのだろうが、 もし、自分がその立場だったら気が 狂いそうだ。
 埼玉にいる中学の同級生からメールが入った。  「こんな形で猪苗代中学校が全国的に知れ渡るとは考えてもいませんでした。想像するだけでも 痛ましくて、とても画面を見ていられません。それからというもの事故に関するテレビや新聞の ニュースはできるだけ見ないようにしています」と書いてあった。
 故郷を離れ遠くに暮らす者にとって、ある意味で故郷は心のよりどころである。  その故郷の町は、いま悲しみで押しつぶされそうになっているに違いない。
 今ごろ、磐梯山は雪だろうか。白く覆われた磐梯山の姿がまぶたによみがえる。  そして何時の間にか、中学校の校歌を口ずさんでいた。  「雲行き通う磐梯の、高嶺を仰ぐ瞳には、希望に満ちた乙女子の…」  スキーに情熱を燃やした彼らには、前途洋々たる未来が待っていただろうに。こんな形で絶たれ てしまうとは酷すぎる。
 一言で運命と片付けるには、余りにも辛くて重い現実。  子供達を育んできた磐梯山も猪苗代湖も、きっと泣いていることだろう。  猪苗代中学校を卒業し、全国に散らばった同窓生たちも、同じように後輩の死を悼み、冥福を 祈っているにちがいない。
 ここまで書いたとき、DNA鑑定の結果、数人の身元が判明したというニュースが流れてきた。  これから成田へ向かうという、ご家族のお体が心配だ。  この哀しみが、何時の日か癒されんことを祈るばかりである。  故郷の山は、子供たちの帰りを待っています。
 心よりご冥福をお祈り申し上げます。      合掌