この夏の暑さは、何だかヘン。梅雨なんかあったんだか、なかったんだかわからぬままに、
猛暑に突入してしまった。 通勤地獄という言葉はこの夏の為にあったのだ。街を歩けば、まるでオーブンの中に放り こまれたような灼熱地獄である。身体が溶け出すのではないかと心配になるくらいだ。 ようやくたどり着いたオフィスで、ひと息ついたかと思ったら、今度は冷房地獄。この温度差 が身体の調節機能を狂わせてしまうのだ。 薄着の女性はその影響をもろに受けやすい。夕方になっても、一向に気温は下がらず、 帰宅するとただでさえ太い足が、浮腫んで一回りも太く見える。 ああ、いやだ。 そして夜は、恐怖の熱帯夜。この暑さいつまで続くのやら…。 こんな私でも、子供の頃は暑い夏が大好きだった。我が家では中庭の池の水温が25℃に ならなければ、水泳のお許しが出なかった。寒暖計を、祈るような気持で池の中に差し入れた ものである。泳ぐと言っても、プールがあったわけじゃなく、小学校低学年の子が泳ぐ場所と いったら、通称「堤」と呼んでいた用水池しかなかった。 母の許可が出ると、大喜びで堤まで走った。子供の脚で二十分はかかっただろうか。 もうすでに、友達がいっぱい集まっていた。池の真中に杭が立っていて、その辺りが一番 深いところである。みんながその杭を目指して一斉に泳ぎ出す。 私は自慢じゃないが犬掻きが得意だった。というより、それしか出来なかったのだが…。 楽しい夏であった。いま、あの池はどうなっているのだろう。 今から考えると、とても清潔な環境とは言えない所だった。 夕方になると、農耕馬が身体を洗いに来るような池である。誰も病気にならなかったのが、 不思議なくらいだ。 あの頃は、ハエも蚊もいるのが当たり前の時代。それなりに、子供達の身体も、ばい菌には 強かったのだろう。 それに引き換え現代はどうだろう。一億総潔癖症かと思うほど、誰もが汚れに神経質に なっている。抗菌グッズは、売れに売れていると言うではないか。 私の知り合いに、消毒用のアルコールを持ち歩いている人がいる。飲み屋のコップの縁や 割り箸をアルコール綿で拭いてからでないと、口を付けられないという。 かなりヘンである。 こういう人は、絶対に中国旅行には行けないだろうな。 アルコールのボトルが何本あっても足りやしない。 中国に生で食べる料理がほとんどないのは、加熱しないと危険という背景があったからな のだ。 私が中国に抵抗がないのは、もしかしたら、あの「堤」の洗礼を受けていたからかもしれない。 今日も我慢しきれず、クーラーをつける。クーラーの排気によって外気温が上がる。 更にクーラーの温度を下げる。 まるでいたちごっこ。やっぱり、何だかヘン。 |