宝の山か悪魔の谷か
 インターネットや携帯電話は、使い方次第で宝の山にもなれば、悪魔の谷にもなる。  「出会い系サイト」や「ツーショットダイヤル」を媒介とした犯罪が多発し、悪魔の誘惑 に負け殺人事件にまで発展するのを目にするたびに、紙一重の恐ろしさを感じてしまう。
 幸い私にとっては今のところ、インターネットは宝の山である。
 六年前、本紙の創刊百周年記念企画として連載した「今よみがえる明治の旅日記」が とうとう単行本になることになった。本の刊行に当って、インターネットには本当にお世話 になった。
   新聞連載中は一回につき写真二枚という制約があったので、今度はふんだんに写真 を入れることにした。 八十二日間の旅で立ち寄った先々の写真をピックアップしていくうちに、二七七枚という 膨大な数になってしまった。その内半分は私の撮ったものだが、残りの半分は横浜開港 資料館からお借りした明治期に映された貴重な写真と、インターネット上で探した写真で ある。
 場面に相応しい一枚の写真を選び出すために、少なくとも三十のホームページを開け て見た。これぞという写真を見つけると、依頼の趣旨をメールで送り、掲載許可をお願い した。この作業で、私の夏休みは終わってしまったと言ってもいい。
 祈るような気持で回答を待ったが、ほとんどの方が「そういうことであれば、どうぞお使 い下さい」と快く承諾して下さった。本当にありがたかった。
 五十人近い方々とのメールのやり取りは、全部で百五十回を超えただろうか。というわ けで、いまは電話代の請求書に怯えている。一体いくらになるやら空恐ろしい。  それにしても、旅のホームページの多いのには本当にびっくりした。これだけ旅に興味 を持っている人が多いのなら、もしかしたらこの本も売れるかもしれないと、内心ひそかな 期待を抱いている。
 東京の褐ケ流社から「明治十八年旅は道連れ」―ひいじいさんの旅を追いかけて―と いうタイトルで、十月中に発刊の予定である。旅に興味のある方はぜひ手にとってみてく ださい。
 世田谷区でも、無料の「初心者IT講習会」が始まっている。かなりの競争率で、私の友 人は三回目でようやく参加することが出来た。  一クラス二五名。先生が一人とアシスタントが三名で、三日間の講習会が始まったのだが…。  参加者の多くは高齢者なので、あっちでもこっちでもパニックが起り、アシスタントが駆けずり回って、ようやく次に進むという状況だったらしい。パソコンは、決して難しいものではない。要は慣れである。毎日触っていれば何とかなるものだ。でも、みなさん悪魔の谷にだけは落ちないように気をつけて。