INTRODUCTION〜解説〜

【はじめに】

 「アリサ!」は、1979年3月から11月まで週刊少年チャンピオンで連載されていた

SFアクション漫画。原作は平野仁。

 とある高校に通う少女・アリサは、16歳の誕生日前日の夜、黒い背広の男たちに襲わ

れたことをきっかけに自らの出生の秘密を知った。彼女はパラレルワールド(多元世界)

のひとつ、「Aレベルワールド」の第一執政官・アウラの娘で、複雑に入り組んだパラ

レルワールドを統治することができるただ一人の人間だった。黒い背広の男たちは征服

者・ソロンの追っ手で、アリサに秘められた特殊なの能力が目覚めることを恐れ、彼女

を捕らえようとしていた。大型拳銃・モーゼルミリタリーを手に、アリサはソロンの追

跡を逃れつつ、パラレルワールドを放浪する。

【「アリサ!」連載当時の週刊少年チャンピオン】

 1970年代後半の週刊少年チャンピオンは「ドカベン」「マカロニほうれん荘」「ブラ

ックジャック」などの人気作品を抱え、隆盛を誇っていた。そんな中に「アリサ!」が

登場したわけだが、「拳銃を手にする女の子」「裏社会の恐ろしさ」「銃火器の正確な

描写」、そして「劇画的な作画」は少年誌に載る作品としては、異色だったといえる。

しかし、好意的に解釈すれば、当時のチャンピオン編集部は、「ドカベン」などのヒッ

トに甘んじることなく、新たなヒット作の創出を模索していたと思われる。だからこそ、

「アリサ!」も少年誌に新境地を開拓する作品として受け入れることができたし、その

ような土壌が当時のチャンピオンにはあったといえる。

【展開】

 さて、ストーリーの方はパラレルワールドを放浪するアリサが、行く先々で会うさま

ざまな人たちとの交流を軸に進む反面、敵であるソロンの存在感が欠けてしまうという

弊害を出してしまう。そこで、第10話からは追撃隊隊長としてハーディ・ベスターが、

第14話からはアリサのパートナー役である竜也が新レギュラーとして加わることになる。

しかし、それらの新機軸もストーリーを活性化するには至らず、第22話でアリサと竜也

は離れ離れとなり、「第1部」が終了。続く第23話から「第2部」が始まることとなっ

た。

 「第2部」では、アリサの髪が金髪になったほか、外見上も成長し、「大人の女性」

として登場。ストーリーも第1部のフォーマットを踏襲しつつ、ソロンが各々のワール

ドで進めている侵略計画をアリサが阻止する、という展開となり、ややハードな内容に

変更された。また、第1話からの謎であったアリサに秘められた能力についてもわずか

ではあるが明らかにされた。だが、パワーダウンは否めず、わずか9ヵ月、第38話を以

って終了した。

【「アリサ!」の魅力】

 このように、「アリサ!」は一般の人たちにはあまり知られていない、いわば「マイ

ナー」の部類に入るであろう。しかし、コミック関係を扱っているHPやBBSなどで

はしばしば話題に上がっていることから、コミックファンの間では高い評価を得ている

と見ていい。では、本作の魅力とは何か。以下、思いつくままにあげてみた。

@「等身大の少女」としてのアリサ

 主人公のアリサはいわゆる「戦う女の子」である。しかし、「戦う女」はアリサが初

めてではない。アリサが登場する以前から、漫画、アニメ、映画などで何人のも「戦う

女」が存在している。これらの「戦う女」に共通する要素としてあげるとすれば、男勝

りで、どんな敵でもなぎ倒す点だろう。それこそが「戦う女」、すなわち「無敵のスー

パーヒロイン」の魅力でもある。一方、アリサは追っ手の恐怖に怯え、時には凶弾に撃

たれて深い傷を負うこともある。そう、彼女は決して「無敵のスーパーヒロイン」では

ないのだ。アリサが持つスーパーヒロインにはない魅力、それは「等身大の少女」、つ

まりは「どこにでもいるちょっとおてんばな普通の女の子」として描かれている点であ

る。そして、そうすることで深みのあるドラマが展開されることとなった。

A初期エピソードに見るストーリーの巧さ

 「アリサ!」は、普通の女子高生であるアリサがソロンの追っ手に突如襲われるとこ

ろから始まるが、このプロローグ編にあたる第1話から3話までは実に無駄のないスト

ーリー展開となっている。追われる恐怖から言われるがままに移送空間へと突入するア

リサ。次に彼女が見たのは自分が住んでいた町と同じ町だった。しかし、周囲の人たち

と話が合わないことから、自分が違う世界に来たことを知る。そんなアリサに再び追っ

手が襲う。アリサはモーゼルで射殺するも、恐怖で怯えてしまう‥‥‥。

 訳が分からないまま、周りの出来事に翻弄されるアリサの姿が描かれる一方、物語の

基本設定もきっちりと説明している。アリサ自身の秘密、パラレルワールド、そして、

アリサの戦いが「誰も助けることができない孤独の戦い」であること。これだけの要素

を第1話から3話でしっかりと織り込んだ後、続く第4話と5話でアリサは初老の男に

助けられ、銃の腕を仕込まれることになる。

 この第1話から5話までに見られる起伏のあるストーリー展開の巧みさは、アリサを

「無敵のスーパーヒロイン」ではなく、「等身大の少女」として描いたことが大きく影

響している。そして、アリサの戦いが「正義」のためではなく、「生きるため」、「自

分の世界に帰る」ためであることが語られている。女の子が戦うには明確な理由が必要

と考えるが、「生きるため」に戦い続けるアリサの姿は、20年以上が経った今でも色褪

せていない。

B銃火器の正確な描写

 原作の平野仁は、モデルガンのコレクターとしても有名であるが、「アリサ!」でも

銃火器への精通ぶりが遺憾なく発揮されている。初老の男がアリサに銃の腕を仕込む第

5話では、モーゼルミリタリーの性能を語る場面は作者の面目躍如といったところだろ

う。また、作者は漫画家になる前はアニメーターをやっていたらしく、独特のアクショ

ン描写も本作の見所のひとつといえる。

【総論〜早すぎた傑作】

 主人公・アリサの設定、アクション重視の展開などは今でも十分に通用するように思

える。それに、連載当時は馴染みのなかった「パラレルワールド」もゴジラや一作品ご

とに独自の世界観を持たせている近作のウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムによっ

て認知されるようになった。女の子が主役のSF、アクションものが現在において数多

く作られている現状を考えれば、「アリサ!」はそうしたジャンルに先鞭をつけた作品

だったのかもしれない。時代をあまりに先取りしたために、かえって人気があまり出な

かった作品、すなわち「早すぎた傑作」と呼ばれる作品がいくつもある。「アリサ!」

もそういった「早すぎた傑作」のひとつに数えていいだろう。それ故に、「一般には知

られていないが、熱狂的なファンがついている作品」、つまりはいい意味での「カルト

な作品」として、コミックファンの間で読み継がれているのだ。

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