第7話を冒頭での銃撃戦以降、表舞台から遠ざかっていたソロンが、
ようやく動き始めた。しかも、ハーディ・ベスターという男を指揮官
に据えて‥‥。
この第10話から13話は新たにアリサ追撃の指揮を執ることになったベ
スターとの攻防戦を軸にストーリーが進められている。まず、新登場
のベスターであるが、本編では第34話で明かされるが、ソロン親衛隊
の隊長という要職に就いていたことから、相当の実力者であることは
確かだ。アリサとの初戦でも冷静に彼女を追いつめたことからも、そ
れをうかがうことができる。また、続く2戦目では子供のテツヤを人
質にアリサに投降を迫っていることから、目的を達成するには手段を
選ばない性格であることが語られている。このように、ベスターはそ
の役割、性格などからアリサのライバルとして位置づけられているこ
とは容易に想像できる。しかし、実際にはその位置を確立できずに、
半ば中途半端にストーリーに関わってしまうことになるが、この点に
ついては別の機会に考察してみたい。
では、ストーリーを追ってみよう。まず、10話と11話はベスター率い
るソロンの追っ手とアリサとの銃撃戦を実にストレートに描いている
が、アリサとソロンの追っ手との本格的な銃撃戦は、実は今回が初め
てと言っていい。ソロンはここまで、第1話から4話、6話、7話に
登場しており、アリサとまともに銃撃戦を展開したのは6話のラスト
辺りから7話の冒頭のみである。しかし、前述したように1話から6
話まではプロローグとしてアリサの逃亡の始まりから銃の撃ち方を覚
えるまで、そして7話から9話はアリサが迷い込んだ世界に住むの人
々との交流を軸に描いていた。9話までの展開は、「アリサ!」とい
う作品を形成していく上で重要な要素となっているため、どうしても
外すわけにはいかない、いわば下地づくりといった面があった。その
下地づくりをようやく終えて、本当の意味でのアリサとソロンとの戦
いが始まったと考えれば、この10話と11話の展開がストレートな銃撃
戦になったのも納得がいくだろう。
そうしたこともあってか、ここでの銃撃戦は全エピソード中、もっと
も長いものになっている。10話と11話の総ページ数は43ページ、その
うち、銃撃戦には26ページ(11話の扉ページは除く)と、全体の6割
を充てている。特に11話は扉を除いた正味21ページ中、18ページにわ
たって繰り広げており、銃撃戦で1エピソードを形成していると言っ
ていい。「アリサ!」の見所は銃撃戦にあることは言うまでもないが、
それが存分に味わえるのと同時に、アリサが銃撃戦で徹底的に追い詰
められるのも、このエピソードだけである。前にも触れたが、アリサ
の戦いは「誰も助けることができない、孤独の戦い」ではある。しか
し、ソロンがしばらく出てこなかったため、その部分が薄れてしまっ
たように思える。一方で、第10話の前半から中盤までのストーリーの
進め方は第1話とほぼ同じであることに注目してもらいたい。第1話
はアリサの日常の高校生活と家族との生活を描いた後、ソロンの追っ
手が襲撃し、アリサの逃亡が始まる、という展開だった。第10話は喫
茶店の店員として働き、わたる少年との交流を通して、アリサがひと
時の安らぎを得ていたが、ソロンの追っ手の影を感じて、再び戦いに
身に投じることとなる。
アリサとソロンとの戦いが本格的に始まったこと、アリサを徹底的に
追い詰めることで彼女は1人で戦わなければならないことを改めて認
識させたことを考えれば、この10話と11話は「もうひとつの第1話」、
つまり「アリサVsソロン編」の第1話と位置づけることができる。こ
のことを頭に入れた上で、もう一度ストーリーを読み返せば、実に緊
迫したエピソードとなっているのが分かるだろう。
続く12話と13話は、7話と8話に続くアリサと子供との交流が軸にな
っている。7話と8話は大介少年の父親捜しにアリサが手助けしてい
るが、こちらは先の銃撃戦で深い傷を負ったアリサをテツヤとチャコ
の小学生ペアが手助けすることとなる。
ところで本作の特色として、掲載誌の関係もあるとは思うが、子供ゲ
ストがしばしば登場する。いずれもストーリーに大きく関わる役どこ
ろではあるが、アリサとソロンとの戦いに深く関わるのはテツヤとチ
ャコのみである(もっとも大介を始めとして、本エピソード以降に登
場する子供ゲストはソロンの存在そのものを知らないが)。そのため、
このエピソードでのアリサは味方を得ることになるが、2人がソロン
との戦いに関わるのは、人質になったテツヤをチャコが助けるまでで、
それ以降はアリサ1人での戦いとなる。そういう意味では、アリサの
戦いが「孤独」であるという線は外れていないといえる。
ここでの最大の見所は、モーゼル全自動モードの初使用だろう。特筆
すべきは、20連発用のクリップの装填から銃床を組み立て、モーゼル
に装着する過程をしっかりと描いている点であり、銃火器に精通して
いる原作者・平野仁氏だからこそできるのであって、本作の名シーン
のひとつといっても過言ではない。
|