城南時代、それからいくらも経たない頃です。やはり5才頃。同じNさん家に黒い犬が飼われていました。 
      よく人に吠え掛かる、不吉な不気味な犬でした。 
       
      「だいちゃん、クロに、飴ぇ、やりんさい。ほしたらなれるけぇ」Nさんにいわれて 
      母に持たせられた「今日の分のおやつ」の飴をその犬に投げてやりました。 
      白い歯をむき出して尻尾をやたら振りながら不器用にその犬は、小さなアメ に噛み付いています。 
      「ほらみい。はぁ、クロはだいちゃんに馴れるど。はぁ、だいちゃん、さすってやったらええ」なるほどそんなものかと、 
      犬に手を伸ばしてなでてやろうと思いました。 
      犬の腰の辺りに僕の手が触れたとたん、ガッツと黒犬は振り向きざま、僕の腕に噛み付きました。腕から赤い血が噴出して、左腕がしびれました。 
       
      人の腕をかんで満足げな黒い犬。赤く吹き出るわが血潮。突然の出来事に真っ白になった大人たち。 
      まるでスタンダールの世界のようでした。 
      獣医に連れて行かれた黒犬は狂犬病でないことを確認の上、処分されたとアトになって聞きました。犬には罪はないのに。 
       
      Yの字型に左ひじに残っていた犬の噛みアトは、長いことボクの腕にYマークをつけていましたが、現在は、もうほとんどわかりません。
 
  
                                                   2002年6月1日(土)14:09  大二郎 
       
       
       
       
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