手   紙

 ふと気づいたことがある。
 進化していく中で忘れ去られていくものって、世の中にはたくさんある。その中のひとつを最近思い出させることがあった。そこで思い出したのは「手紙」だった。パソコンや携帯電話の普及によって電子メールが一般化した今、相手に伝える想いまで機械化されていくような気がした。
 だから今、想いが温もりを失う前になんとしてでも残しておきたかった。あの人に送りたかった、この手紙。唯一、僕が心を寄せているあの人に…

「お久しぶりです、お元気ですか?
 先日、一緒に御飯を食べながら話しをしたときは、とっても楽しかったです。お互い今はあの場所を離れて、また新しいところへと旅立つことになったよね。同じ時に共に同じ行動をとったこと、僕にはとても心強かった。そして何よりもうれしかった。そして、離れ離れになった今でもこうして会えることが、やっぱり嬉しいんだ。
 あなたと初めて出会ったときのことを思い出したりしてた。初めて会ったのは去年の冬、年が明けて間もない頃だったよね。あなたを最初に見たとき、何か不思議な感じがしたんだ。あの時初めて話した内容覚えてる?「お友達になりませんか?」だったっけ。
 それから1年と数ヶ月、同じ空間に一緒にいることをどれだけ楽しみにしてきたかな。僕がやろうとしていること、あなたがやろうとしていること、口に出さなくても目を見るだけでわかっちゃった。相談にも付き合ってもらったこともあったよね。あなたは僕にとっては心から信頼できる人なんだ。落ち込んだり精神的に辛くなったとき、あなたの顔を見れば元気を取り戻せた。あなたは気づいてないかもしれないけど、僕は何度も助けてもらったんだ。そうしているうちに、どこかで魅かれていく自分がいたよ。
 でも、僕がそれ以上のことを望めば今までの関係が一気に崩れてしまう、そんな不安があったんだ。だから、僕はこれ以上何も望まない。あなたの幸せを奪おうとか余計な気持ちを抱かせたりしたくはありません。今までみたいに、一緒に御飯を食べたり一緒に話しをするだけ、一緒にいることができるだけで十分なんです。一緒にいる時間を大切にしたい、思い出に残したいって、ずっと今でも思ってるんだ。
 だけど、無理を承知でやっぱり最後に伝えたいんだ。僕はずっと…」

 僕はペンを置いて窓を開け放った。澄みきった青い空が広がっていた。ときたま吹き込む風がとても気持ちいい。僕は手元にあった紙飛行機を、青空に向かって思いっきり投げた。紙飛行機は翼を広げて力強く飛んで行った。そして、紙飛行機は見えなくなった。
 深呼吸と背伸びをして、僕は窓を閉めた。
「ピリリリリー」
 ほぼ同時に携帯電話が鳴った。ふと我に返って電話をとった。
「もしもし……」