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  「吟醸酒」へのご案内とお誘い

話11〜20

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<目次>

 吟醸酒について <日本酒その裏話・表話>

◇話11. 吟醸酒の香りについて
ここで少し余談。 臭いと香りの違いについて
◇話12. 香りの感じ方
◇話13. ラベルの肩書に惑わされるな
◇話14. 三増酒について
◇話15. 酒米と食用米について
◇話16. 幻の酒米について
◇話17. 今の酒と昔の酒とどちらが美味いか? について
◇話18.  アルテン(醸造用アルコール添加)について
◇話19. 甘口と辛口酒 <日本酒度>
◇話20. 樽酒


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 吟醸酒について <日本酒その裏話・表話> 

               

◇話11. 吟醸酒の香りについて
 
 吟醸香は吟醸酒独特の香りで、原料米や酵母の影響や低温発酵などの複数の影響が絡み合って出来る物です。大変爽やかでフルーティーな香りがします。、
 独特の香り”吟醸香”がありますが、初めて、この香りに接したとき、ふた組の表現をする人達に分けられます。
 最初のグループは、「変な匂いがしたよ」、と言う人たちです。この人達は、高齢者に多く、永くからの日本酒党だった人達で、過去にその様な吟醸香の経験はなく、日本酒のイメージを逆に壊すとでも、思っている人達です。この人達には、軽くこの香りの説明をして、以後吟醸酒の話はしない事にしています。
 若い人、他人の話に興味を抱ける人達は、次のグループです。「凄い香り!」、「(フルーティーな)果実のような香り」、とか、「うそ、これ日本酒?」、「ワインみたい」と一様に驚き、感動の目で視線を返してくる人達です。この人達には、自分たちが納得できるまで、吟醸酒の話をして上げます。そして吟醸酒のファンになってしまいます。

 着香(=ちゃっこう・付け香・ヤコマン)について、吟醸香の不足分を補う上で、または華やかさを出す為に、後から人為的に香りを添加するものです。三流選手を一流選手の様に見せかけるもので、後からこの様な操作をして、まるで最初からこの吟醸酒に含まれてでも居たように見せかける、ごまかしは詐欺に近いと思われます。吟醸酒はバランスの物で、それを壊してまでこの様なことが行われるのは、高く売れるからです。困ったことです。着香された吟醸酒は厚化粧の中年女性のように、バランスが悪く香りだけが目立ち品がありません。また器の中で直ぐ香りが飛ぶか、いつまでもいやな香りがへばりついて居て、味までも壊してしまいます。最初の一口は旨いと思わせるのですが、二口目にはなにやら香りのドブに落ちたような不愉快な気分になり、次には手が延びません。これは次の話12でも書きますが、含み香の質悪を飲手がちゃんと判断している事と思われます。

                    

ここで少し余談。

臭い(=におい)と香り(=かおり・芳香”アロマ”)の違いについて。
両方とも鼻で感じる、感覚ですが、生活の中で使うときは、大変な違いがあります。 
 臭いと言うときはいやな感じ、くさく不愉快な感じ、の時に使います。 
例えば、悪臭・くさい臭い・鼻が曲りそう、とか腐敗した臭い、などと使います。
 反対に、香りとはいいニオイの時に使います。
バラの花の香り、香水のかすかな香り、吟醸酒の香り、美味しそうな香り等と使います。
決して、花の臭い、美味しそうな臭い、とは使ってはいけません。
もう判っていますよね、これでは、クサい変な臭いの花かと思うでしょうし、
美味しくていやな臭いなんて、クサヤでも無いでしょうに、言葉が矛盾します。
 悪いニオイの時は、臭い。いいニオイの時は、香りと使います。 
決してこの二つの単語を混同して使わないで下さい。

                      

◇話12. 香りの感じ方。 
 
 杯から直に立上る香り(上立香=うわだちか)と、含み香(戻り香)の、二つの香りがあります。
 直接鼻からかぐ香りは、その物から立ち上る香りをじかに鼻から嗅ぐもので、普通我々が一般的に香りとして感じる感覚です。深い説明は必要としないぐらい、ごく普通に感じてきました、香りを感じる自然な動作です。バラの花に顔を寄せるのも、ワイングラスを鼻先に持ってきて香りをみるのも、うなぎを焼く香りも、皆この方法で、ニオイを感じています。
 二つ目の含み香は、食べ物、飲み物等を食べたり飲んだりした後に口の中には何も無いのに、鼻から吐く息の中に含まれる香りがこれにあたります。この含み香は大変重要な香りの嗅ぎ方(感じ方)で、この香りの良し悪しで、今食べた物や飲み物のウマいマズいが、判断されるくらい大切な香りなのです。ですから、口に食べ物を含んだ途端には味は分からないのです。口の中で充分そしゃくして、飲み込んだ後にじわじわ〜と香りが戻ってくる、その香りを味わうのです。代表的な例では、お寿司が有ります。お寿司の具で新鮮で香ばしいくらいな旨みのある物では、喉越しの後がなんとも言えずに旨みの香りが上がってきます。しかしここで本当に言いたいのは、ワサビの効いているときのその香りと味は、飲み込んだ直後に強烈に鼻に抜けるのが分かります。このように、刺激性のワサビや洋カラシ・唐辛子・香辛料等、芳香性(揮発性)の物では顕著に表れます。ニンニクを使った料理・カレーライス・チリ料理等の含み香も無くてはならない物です。
 コーヒー、紅茶、日本茶、などのテイスチングの時は良否を決める重要な項目のひとつです。
 吟醸酒の香りについてもまったく同じことで、最初に杯を口元に持ってきた時に感じる香りと、飲み込んだ後に感じる含み香の両方の香りを楽しみ、どちらもすばらしい香りでなければ、上質な吟醸酒とは言えません。これからはどうぞ、この二つの香りを、別々に楽しんでください。

               

◇話13. ラベルの肩書に惑わされるな
 
 日本酒の品質向上のため国税各地方局が主催する清酒鑑評会があります。その会で金賞を受賞した吟醸酒はその時だけの会用の特別な物で、通常一般に市販される物ではないのです。なおかつ、この賞はその吟醸酒に与えられた物で、蔵元に与えられた物では無いのです。蔵元のレベルを評価しては居ないのです。ですから、この肩書で他の酒も十把ひと絡げで売出すのはどうかと思われます。
 過去に、日本一の賞を取ったからと言って。今もイイとは限りません。 その時の吟醸酒は売る事もできない程少量だったり、賞を取るためだけの醸造だったりして、蔵元の平均レベルとは違う尺度なのです。騙されてはいけません。同じように宮内庁に入っているとか、サミットで使われたとか、マスコミに取上げられ絶賛された、または幻の・・・、限定・・・、皆同じです。そういうのに限って肩書が多いのです。ことわざに、「虎の威を借りる」と言うのがあります。

 料理屋で出す吟醸酒についても、そこのご主人がよほど吟醸酒に精通していなければ、間違った判断基準で吟醸酒のレベルを計ってしまいます。
 ある時、地酒と料理が自慢の店に仲間と入ったのですが、我々の合言葉「淡麗なさわやかな吟醸酒を下さい。」最初に出てきたのは我々の懐を見たのでしょうか、少々くたびれた締りのないもので、普通酒?のクラスです。もう一度同じ言葉に続けて「別のを」。次に出てきた物もまた良くありません。料理は美味しいのに残念です。三度目の正直。店側も立て続けにいわれるもので、「これでどうだ」と一番高いのが出て来ましたが、重くて飲めません。次に指さして「あれ下さい」。その”あれ”というのが飲めるではありませんか。主人に「これですよ、これは良い酒ですね」と言ったとたん、雷が落ちました。「お客さん、酒の通うかなんだか判りませんが、あんた達は判っていない。何故なら、3番目と4番目は同じ蔵元の酒。前に飲んだ3番目は蔵元で一番高い吟醸酒、今飲んだ4番目の吟醸酒はそれよりランク(値段)の落ちるものでその違いも判らず、後のが美味しいとは何事であるか。」と言うのです。料理は旨いのに・・・。そこの主人は判断基準を”価格”においているので、決して味や香りや品質で判断しているのでは無いのです。吟醸酒について不勉強なところは、みんな酒屋や蔵元に儲けられてしまいます。料理が旨いという店に限ってこういうところが多いのが面白い(残念な)のです。これは、私が思うに、料理には大変な修行をしてこられたと思いますが、そこでは酒についての勉強が欠落していたとしか思えません。新規お店を開店するとき、取引の酒屋のリードで棚が埋っていくのです。その結果、残念ながら先にも書いた話になるのです。
 話がそれますが、美味しいと言われるレストランでも同じように、出されるコーヒーにこういう傾向があります。先ずは飲むことから始めないといけないのですが。料理と飲物(酒・ワイン・ビール・コーヒーなど)のレベルのバランスが取れていないと、最終的に良いレストラン又は、料理屋とは言えないでしょう。
 我々も、値段やラベルや風評に騙されずに、選びたいと思います。

 こう述べてくると、なにを基準に購入すればいいか判らなくなりますが、はっきり旨い吟醸酒のポイントはいくつか有ります。
 そのポイントは、「いい品質の吟醸酒の見分け方」に詳しく書きました。お楽しみに。 

                        

◇話14. 三増酒について。 
 
 終戦直後の話ですが、国税庁国税局(酒?税局)に頭のいい者がいて、税金のたくさん取れる方法を考えました。 当時食用米すら不足するご時世の中、それで酒を作ることの贅沢さは大変なことです。かと言って酒を不足させると世情不安を起こすし、現実メチルアルコールを素飲みして、目を病んでしまう者まで出る始末です。最低限の醸造量は確保しなければならなかったのです。そこで、出来上がった日本酒を三倍に水増(アルコール増)しするのです。当然アルコール度数は清酒と同じ度数にして、日本酒1にアルコール2の割合で薄めます。これをアルコール添加、約してアルテンと言います。この状態では、清酒の中にアルコールを入れたのではなく、アルコールの中に清酒を入れたと形容した方が適切かも知れません。 このアルコールとは廃糖蜜(=サトウキビから砂糖を絞った後の真っ黒な糖かす)から工業的に作られたエチルアルコールです。 これでは旨みも三分の一になってシャバシャバの旨みもなにも無い日本酒になっていますので、甘味を増す為に水飴や調味料(味の素など)、酸味料を添加するのです。 何度も言いますが、逆に考えると、3分の2が添加アルコールの為増量アルコールの中に、三流の日本酒を混ぜて薄めた酒とも言えます。これでは日本酒と言うより、日本酒風アルコール飲料と呼んだ方が適して居るのでは無いでしょうか。
 一升瓶の首元やラベルに、紙パックでは注意書の中に、原材料名として米・米麹・醸造用アルコール・糖類(または水飴)、その上調味料と記述されていますので直ぐ分かります。甘口の日本酒には多目の水飴を、辛口には少な目の水飴をと、調整します。どちらにしろ美味くは無く酔心地の悪い日本酒の誕生です。しかし当時は物資の不足する時、うまい方法を考えたものです。それに、大事なことは税金が国庫に三倍入るという一石二鳥の名案だったのです。

 しかし、50年以上経った現在も同じ手法で大量にこの三増酒が大メーカーでも作られ続けていると言うことは大変悲しいことだと言わざるを得ません。特にテレビ等で大々的に宣伝している、あなたも知っているあのメーカー(複数)も大量に造り続けています。 原料米も麹も良質なものが大量にある今、もうそろそろ、この製法から卒業して、本物の日本酒作りに変換してほしいのです。日本酒発展のためにもどうぞ蔵元さんがんばってください。

 普通酒と言うカテゴロリーが有りまして、この三増酒の他にも、アルテン酒というのがあります。このアルテン酒は糖類・調味料こそ添加していませんが、上記の添加用アルコールをなんと40%も加え増量しています。 このアルテン酒と、前記三増酒で全国出荷数の約8割生産、消費されています。と言うことは、大部分の酒飲みはこれらの酒(アルコール)を、美味しいとか甘口辛口とか、いろいろ蘊蓄(ウンチク)をたれながら飲んでいるのです。我々消費者もそういう製品には、もうそろそろ卒業しませんか。
 この様なお酒(?)今晩も飲みます? 

                                                                         

◇話15. 酒米と食用米について 
 
 醸造用に適した原料米は山田錦とか五百万石とかいろいろありますが、これら酒造好適米で造られたものは、上質な品質の酒となります。 またこのお米は食べられますが、食べては美味しくはありません。
 食用米のササニシキ・コシヒカリ・あきたこまち・等、食べると大変美味しいこれらの米でも、酒用に使うと、それなりの味にしかならない、一級品には成れない酒しか、造ることが出来ません。
 細かい理由は書きませんが、理由は厳然として有りますので、どんなに頑張っても小学生は小学生、中学生は中学生止まり。どちらにしろ、用途用途によって最適な用い方があるので、米なら何でもイイというのは、間違いです。普通酒は別として、食用米の産地だから吟醸酒が旨いとは限りません。

           平成12年における酒造好適米生産量上位10県は下表のとおりです。
    食糧庁の検査実績による(平成12年12月末日現在)

(単位:百トン)
順 位
県 名
生 産 量
兵 庫
265
新 潟
132
長 野
72
広 島
53
秋 田
42
富 山
39
福 井
35
岡 山
27
山 形
23
10
石 川
21
709


なお、全国では平成12年で約8万トンの酒造好適米が生産されています。
また、同じく平成12年に生産された酒造好適米の上位10銘柄は下表のとおりです。
食糧庁の検査実績による(平成12年12月末日現在)

(単位:百トン)
順 位
銘 柄 名
生 産 量
主 な 産 地
五百万石(ゴヒャクマンゴク)
254
新潟・福井・富山・石川
山田錦(ヤマダニシキ)
243
兵庫
美山錦(ミヤマニシキ)
108
長野・秋田
八反錦1号(ハッタンニシキ1ゴウ)
26
広島
雄町(オマチ)
26
岡山
華吹雪(ハナフブキ)
16
青森・福島・新潟
兵庫夢錦(ヒョウゴユメニシキ)
15
兵庫
兵庫北錦(ヒョウゴキタニシキ)
13
兵庫
玉栄(タマサカエ)
12
滋賀・鳥取
10
若水(ワカミズ)
8
愛知・群馬
721
 


表は全農 http://www.zennoh.or.jp/ZENNOH/FOODS/kome/02monoshiri/04gen/sakemai.htm より

 

         

◇話16. 幻の酒米について
 
 漫画「夏子の酒」という連載物が有りました。ご存じの方も沢山いらっしゃるでしょう。蔵元の娘が本物の酒造りに挑戦する素晴しい物語で、私などもわくわくしながら読んだものです。上質の酒を造るには原点の酒米選びがキーポイントになります。ここで彼女が選んだのは過去に”幻の名酒”があり、この時使われていた酒米を使うことにしたのですが、今この時代には種籾はなく、研究保存されていた種籾を借受け、栽培し増やし酒造まで出来る量に成った時、醸造に取組みます。残念ながらここまでしか私は物語を見ていませんので、どのような終り方をしているのか判りませんが、現実としたら、幻の日本酒はたしかに再現されたと思われますが、味は今一だったはずです。なぜって、答は簡単。種籾が市中に存在しなくなったと言うことは、需要がないと言うことです。即ち、それより上質廉価の物が多量に市場に有ると言うことです。わざわざ過去の低質の物を使わずとも、現在のいい品質の物どうし掛合わされた新品種を使った方が、数段上質な物が出来るのです。 食米でも同じように、ササニシキやコシヒカリ等のように品種改良された最新の物が時代の先頭にあるのです。他に、みかん・りんご・梨・ぶどう・すいか等など数え切れないくらい品種改良された、高品質の物に置き換わっているのです。
 幻の酒を追求めて頑張っている現実の蔵元もいくつか知っていますが、ある蔵では私達みんなで、稲刈りにも行ったのに、みんな失敗しています。授業料としては高くつきましたが、そういう前向きな姿勢が日本酒を豊かにするのです。 酒米”亀の尾”で造られた吟醸酒<亀の翁>(平成5.9.蔵出し)を私も飲んでいますが、山田錦で丁寧に造られた物には残念ながらかないません。
  酒米”亀の尾”と書きましたが、本当は飯米なので、すでに昭和の初めには酒米としては認知されず消えていた身なのですが、現在大変美味しいと言われている、”こしひかり”や”ささにしき”・”秋田小町”などの親や爺さんにあたり、酒造好適米の”五百万石”の曾爺さんになります。

                    

 ◇話17. 今の酒と昔の酒とどちらが美味いか? について 
 
 宮内庁に毎年催事用に献上される酒がありますが、これは、過去の酒造法を全く変えず、未だその方法で酒を造り続けていますが、ずばりマズイです。当時は献上酒で有ったくらいですから大変上質の酒だったはずが、今では見る影もありません。それというのも、日進月歩のこの世の中、過去と道ずれ(失礼)の様なこの業界でも、大変な研究がなされ、醸造法の進歩が続いているのです。
 技術進歩の一例では、精米技術があります。たかが精米と思われますが、これが一冊の本に成るくらい、なかなか大変なのです。明治の終り頃には精米技術がまだまだ低く、10%磨くのですら精一杯の状況でした。これは今の清酒の精米度より低いのです。今の吟醸酒では50%は当り前の時代になっています。これだけでも今の日本酒の方が桁違いに優れているかが判ります。
 ほかに、酵母や酒造好適米の品種改良、貯蔵技術の進歩、流通、販売に関わる改革、取上げればキリがありません。 

 忠臣蔵の中の有名な人物で、堀部安兵衛が高田の馬場に助人として駆けつける場面で、駆けつけ3杯升酒をあおり、モモダチを取り駆出すのですが、今の日本酒のアルコール度数では、どんなに酒の強い彼でも、息が枯れるか、ぶっ倒れてしまうでしょう。私が思うに、当時の情景が落語にもあるように、銘柄で”むらさめ”この茶屋から歩いて村を出る頃には酔いが醒めてしまうと言う酒。”じきさめ”酔いがじきに醒めてしまうと言う酒。”いまさめ”酔わずに今醒めてしまうと言う酒。等と語られますがその位、一般の酒屋では水増しされて、売られていたのでしょう。”むらさめ”も”じきさめ”も笑いの世界でのギャグかと思っていましたが、なんと辞書に載っているのです。「水で薄めた酒ならイイが、酒で薄めた水では・・・」等もあります。「これは、割っていない酒だから大事におまえと飲みたい。」と殊勝に言う場面もあります。 どのくらい薄めたかは判りませんが、かなり一般的に安売酒屋では、行われていたように思われます。また<水増し>の語源もここから来ています。これほんと。

 今飲んでいるこの日本酒、特に吟醸酒が時間の流れの上では、一番旨い酒なのです。

                  

 ◇話18.アルテン(醸造用アルコール添加)について
 
 アルテンと言われる物に二つの考え方があります。
 一つは話13.三増酒の項でも書きましたが、増量するためにアルコールを添加して、水増し(アルコール増し?) するものです。絶対許されることではなく、メーカーの利益のみの理屈から成りたっています。結果、まずく(旨くない)日本酒の地位を下げる結果になり、ビール・ワイン・ウイスキーとくらべ、全国出荷量の減少として現れる結果になってしまいました。当然です。三増酒では全体の3分の2がエチルアルコールでしめられます(元の酒成分は3分の1しか入っていない)し、他のアルテン普通酒では40%がこのエチルアルコールで、薄められて造られています。旨い訳がありません。

 二つ目は、いままでの普通酒での話は別にして、吟醸酒では、別の使われ方をします。それは、アルテンする事によって、吟醸香を最大限に引き出す事を目的に添加されています。 これは”もろみ”(出来上った白濁の酒の元=これを絞ることによって清酒と酒粕になる)の最終段階で、アルコールを添加することにより、酒粕の方に付いていく香りやうま味コク等を清酒中に溶かしだし、旨さ香りを最大限引出すために、加えるのです。元来、吟醸酒とはこの様に旨さの元を、充分引出して造るのが本筋なので、添加することにより、初めてその上質な旨さ香り等が生きてくるのです。 なお副次的に、喉ごしの”キレ”を良くする事があります。アサヒビールのドライと同じ理屈で、アルコール度数が高いと喉ごしが爽やかになる傾向があります。 通常アルテンは最小限度で止められますが、その量についてはどの蔵元も銘柄ごとのハッキリした数字を上げてくれませんので判りませんが、10%以下だと思われます。10%以上添加したものは吟醸酒とは言え無くなります。前途した三増酒の使われ方と根本的に違うのです。表現(アルテンと言う表示方法)は同じでも内容(目的)は全く違うのです。 
 吟醸酒でのアルテン酒と純米酒の違いはいい品質の吟醸酒の見分け方の(6)で詳しく書きます。

                          

◇話19. 甘口と辛口酒 <日本酒度>
 
 日本酒度とは日本酒度計で計られた数値です。平たく言うと、日本酒度計とは比重計の事で、昔理科の実験で使った事があるあれです。ガラスで出来ていて、液体の中に入れると細長い”浮き”の様に半分沈みます。水面の所の目盛を読んで甘口辛口を判定します。水に入れたときの目盛を”0”とし、上の方に”+”1.2.3.・・・.と目盛り、水面より下を”−”1.2.3.・・・と目盛ります。0は水の比重で、これより比重が大きい(水より重い)場合は浮きが浮上がると言うことは、糖分が多い物ほど浮上がり、マイナス数字が大きくなります。これは日本酒度がマイナス側に大きくなればなるほど、甘口と言うことになり、 反対に、糖分が少なければ比重が小さくなり、浮きが0より沈みプラス側を示します。プラスの数字が増えるほど辛口になります。
 これは甘口辛口の一つの目安で絶対的な評価基準ではありません。+1より+3の方がより辛口だとは言えません。それは糖分だけで甘辛が決るわけでは無く総合的なバランス、特に酸味の多少で決るので、最終的には飲んでみないと判りません。それはお汁粉に塩を少し入れると甘みが増したり、酸味の少ない果物がより甘く感じるのとよく似ています。

 酒本来の味は中庸な味で五味すなわち甘味・酸味・鹹(かん=塩辛い)味・苦味・辛味がバランスの取れた物では無くては成らないと思います。バランスの取れたとは、郷土玩具の野次郎兵衛の様に甘口寄りでもなく、かと言って辛口寄りでもなく、中庸でバランスされた物でなくてはいけません。 最近甘口の酒より辛口の酒が好まれているようですが、それはメーカーの陰謀で、三増酒でさんざん甘口べたべたの日本酒を造り続けた反動で糖類を減らしただけの辛口を宣伝販売しているのです。ここでも言います、騙されてはいけません。 
 素晴しい先人のたとえに、「七色のあの虹でも、全部の色が集ると透明の光になる。」とは、私の好きな言葉です。

                       

◇話20.  樽酒
 
 祝事の宴席で鏡割りが行われるのは、当然樽酒です。今ではこの様な使い道しか樽詰の日本酒は無くなってしまいました。メーカーでも注文が有ったときだけ特別に造ります。
話がそれますが、地域の祭の盆踊で、樽をたたくことになり、その空き樽を探すのに酒屋や問屋や、いろいろ探しましたが有りませんでした。当り前のようにごろごろ転がっているとばかり思っていたのですが、今思うと、現実はとうの昔に樽の世界では無くなっていたのです。
 なぜか、樽に直に酒を入れることにより、酒の腐敗など品質の保証が出来ないからで、また樽が高く通常ではコストが合わなく成ってしまいましたし、流通コスト、樽そのものの生産本数の減少など理由は色々ありますが、普通酒のアルテン酒または三増酒を詰めた日本酒など旨い訳はありません。杉独特の香りが酒に移り味、香りのバランスを崩すので、なおいただけません。吟醸酒はバランスの上に成立っていますので、樽酒にはしません。 私個人的には、樽酒は飲みません.。その理由は、アルテン酒や三増酒はタダでも飲みたくありませんし、どうせ飲むなら、味の決ったビールにします。
 樽酒は元々、関西から馬の背中に揺られ、後に船で江戸に運ばれました。そのせいで、関東の人々は樽酒を好みました。と言うよりこれしか無かったのです。また関西の人は酒徳利でその役目を果したため、樽酒はあまり飲まれず、好みが分れました。


              

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