美しき 人間生活の為に

親しみのある模様付防空暗幕で53万3千おまけ


 50年前と千年前を繋ぎ合わせつつ、少女の友情を慈愛溢れるアニメーションで描いた映画「マイマイ新子と千年の魔法」(原作:樹のぶ子 監督:片渕須直)が、公開当初の躓きから、上映存続を呼びかける書名活動など、ファンの想いに支えられ、密やかに、ではあるがロングラン興業を展開するまでに至り(2010年3月24日現在)、兵器生活主筆は嬉しく思っている。
 映画の舞台、山口県防府市には、かつて(と書かねばならぬのが寂しい)カネボウの工場があった。主人公「青木新子」の友人「島津貴伊子」は、工場の診療所に赴任してきた医師の娘で、社宅に住んでいる。

 そのカネボウのPR誌『銀鐘』昭和14年10月号掲載の広告が、今回のネタである。

 親しみのある模様付防空暗幕

 黒一色に塗りつぶされる防空演習の夜程 護国の精神を如実に感ずるものは他にない程ですが、演習が済んで防空幕を畳み込んで了うのでは 一寸心もとない 何時何どき敵機奇襲があるとも限らない今日、何時でも窓に掛けっぱなす窓布が用意されて欲しいものです。

 平時に黒い窓飾を掛けて置くのは 考えただけでも陰気ですが、之に華やかな装飾があったら どんなに都合がよいでしょう、防空の目的を完全に果し、その上、室内装飾的な要素をも 一つのカーテンに用いて置くことは、二枚の窓掛を一枚で間に合わすことであり、之こそ織物の善用、物資の愛護とも云えましょう。

 高さ6尺巾3尺以内の窓には
 暗幕布1巾使用の場合
 御仕立代、金物共 ¥3.30

 巾にゆとりをとる為2巾使用の場合
 同 ¥6.10

 布地のみ 1ヤール ¥1.20

 鐘紡東京サービスステーション家具売場

「黒一色」で「陰気」な防空暗幕に、「華やかな装飾」を施して、防空に親しませる趣向の『時局便乗商品』である。装飾的であるがゆえに、つけたりはずしたりせずに済むから手間いらず、ついでにカーテン一枚で暗幕にもなるから、家計にもやさしいと、広告は力説する。

 しかし、よくよく考えれば、「暗幕」のウラに「普通のカーテン」を縫い合わせたようなモノであるから、コストはカーテン二枚分となり、いくら「華やか」(写真を見る限り、『華やか』にはとても見えぬが)と胸張ってみたとて、所詮、夜間室内灯火が外に漏れぬがための暗幕、開け放しておかねば白昼でも電気をつけねば本なぞ読めぬ。電気代電球代がかえって物入りで、平時に役立つは子供の幻灯大会、お父さんの暗室作業、昼ひなたからの「夜の睦言」と、『時局便乗商品』の素顔ここに見たり、である。「物資の愛護」も怪しいものだ。

 ちょっとアイデア倒れの感がある。

 
あまり華やかには見えない


 (おまけのおまけ)
 映画「マイマイ新子と千年の魔法」について、口の悪い人は、動員観客の半分は防府市民で残りはリピーター、と云うが(笑)、何度観ても飽きない、良い映画ゆえにリピーターが多いのだ、と特筆大書きしておく。

 映画の宣伝をしつつ、ネタ更新も同時に行う、実に経済だ(笑)。