接舷・斬込用意!

敵B29・敵空母・捕獲新戦術で58万おまけ


 「兵器生活」では、戦前・戦中の一般向け雑誌に発表された、『新兵器』の数々をご紹介しているが、今回は『敵B29・敵空母・捕獲新戦術』(『機械化』昭和20年1月号)である。
 おなじみの「未来兵器」ではなく、「新戦術」を名乗るのは何故?

敵B29・敵空母・捕獲新戦術

 上図は我が本土を盲爆する醜敵B29の捕獲戦術である。
 まづロケット弾を発射、鋼鉄線つきの落下傘を開かせ、B29に引っかけ、速力を減退せしめる。オートジャイロ付のロケット推進攻撃機により、B29の巨体上部に降下密着して内部に突入、独特の斬込み戦法をもって同機を占領の上、我が基地へ悠々操縦帰還するのである。
 敵側の発表によると、B29一機の資材で戦闘機12機を製作し得るとのことで、資材獲得の意味からも痛快極まりない。

 下図は敵航空母艦捕獲戦術。
 特殊潜水艦により敵空母の推進機を停止せしめ、空母甲板の首尾両端に着色特殊発煙弾を落下して目標となした後、煙幕を展開して空母を覆い、斬込み空挺隊が強行着艦する。
 更に大型潜水艦を浮上、舷側に梯子を掛け、斬込む。狼狽する敵を忽ち殲滅し、敵空母を完全に占拠する快挙である。
 この号が印刷納本された日付―昭和19年12月20日―は、学童集団疎開が開始(8月)決定されて半年弱、レイテ沖で連合艦隊が壊滅(10月25日)して二ヶ月弱、B29の東京初空襲(11月24日)の約一ヶ月後である。本土空襲の激化が確実となり、米軍の沖縄あるいは台湾侵攻が現実/時間の問題となってきた時期だ。ゆえにB29と敵空母対策は、空想兵器考案・提供側にあってもゆるがせには出来ない問題であったと云えるだろう。B29の機首がちょっとヘンなのも、手元にある資料で描かざるを得なかった、当時の切迫感を物語っている。

 しかし、敵機墜とせ、敵艦沈めろ、で良さそうなものである。 「ロケット式急設阻塞弾」同様の兵器は、「B公」の行き足を遅くするために使われ(届くなら当てればいいぢゃあないか)、本土防空の切り札であるべき「ロケット推進攻撃機」は、なんと敵機乗っ取りのために使われる(挺身隊員の替わりに機銃を積めば…)のだ!

 「空母捕獲戦術」も似たようなものである。「敵空母の推進機を停止」させるところまで潜水艦で接近出来るなら、魚雷を撃ち込んでも、艦底に爆薬を仕掛けることも出来よう。「斬込み空挺隊」がグライダーで易々と飛行甲板に乗り上げられる―仲間の機に衝突したりしないのか?―制空権があれば、台湾沖航空戦の戦果は現実のものになり、こう云う『新戦術』が考案される余地は、そもそも無いのである。

 「機械化」と云えば、かつては表紙に『国防科学雑誌』と謳われ、この号の編集後記も、「国民の科学技術―就中科学兵器に対する知識の普及徹底」の「使命達成に邁進」する事を誓っている。
 にもかかわらず、B29に体当たりを敢行して「馬乗りで叩落」した中野伍長(12月8日付新聞記事)と、輸送機で敵飛行場に強行着陸・焼き討ちを謀った「薫空挺隊」(12月3日付新聞記事)から着想した、あまり科学的とは云えない記事が載ってしまうのである。
 記事に対しては厳しい感想を抱いてしまうのだが、帝国には、大型爆撃機が無い、空母も無い、ならばパクってしまえ、せめて雑誌図解記事の中だけでも…と云う心情は察して余りある。「資源獲得の意味からも痛快極まりない」は、『そうでもしなけりゃあもう駄目だ』に等しい。

 実現の前提を考えれば否定せざるを得ないのだが、B29一機を捕らえれば「排気タービン付」のエンジンが4つに、本州―マリアナ間2千キロ超を飛べるだけの燃料から救命筏まで手に入り、訓練された斬込隊員も生きて戻ってくるとなりゃあ、こりゃあ痛快と書きたくもなろう(笑)。しかし、何のためにアメリカと戦争を始めたのか覚えているのだろうか…。


中野伍長の「馬乗り」



薫空挺隊


 記事では『新戦術』と謳っているが、海賊連中の接舷斬り込み戦術の場所を変えたものに過ぎない。実行するには荒唐無稽―占拠したは良いが、敵のど真ん中から戻って来られるのか?―そのものだが、冒険活劇映画・マンガの中なら、そう云う心配は脚本家に任せた上で、お手並み拝見と決めてしまえる戦術である。

 図版の説明もしておく。

 「馬乗り」するべく、B29―「おもり」と「パラシュート」の付いたワイヤーに引っかけられ、減速している―を追跡する「ロケット推進攻撃機」

 「特殊吸着装置」で接舷、「斬込決死隊」(『悠々帰還』ぢゃあないのか?)を送り込む図。攻撃機機首の下に爆撃機の「窓」が見える。
 機体上部の回転翼は「飛乗り成れば直ちに停止する」とあるが、意味があるのだろうか?

 B29に、機首の「段」が無い事を知った絵描き(三枝 孝介)は、さぞ悔しがった事だろう。
 斬込隊員が酸素マスクを着けているのかどうかは、印刷不鮮明でよく解らない。
 ページ下段「空母捕獲戦術」の図版は、「新兵器」らしい画が出て来ないので、説明文だけ紹介する。番号は、こちらで便宜的に付けたもの。

 1.特殊潜水艦で空母のスクリューを停止する
 2.特殊発煙剤を空母の前後甲板に落下
 3.空母の周囲に煙幕を張る
 4.煙幕中の空母の甲板は特殊発煙剤を目標にグライダーは降下する
 5.着艦したグライダーより 又大型潜水艦よりも梯子により艦内に突入 敵空母を捕獲する

 これもマンガや映画であれば立派な見せ場になろう。

 記事の本筋は、B29・空母と云う差し迫った脅威を無力化するのみならず、手駒にしてしまおうと云う「新戦術」なのだが、見方を変えると「空挺部隊」活用法の提案でもある。
 当時、帝国日本には『空の神兵』と讃えられた空挺部隊が陸軍にも、海軍にもあったのだが、緒戦で脚光を浴びたものの、その後は使いどころ無くくすぶっており、敵飛行場の攪乱―後続を送り込む手段が無い以上、制圧とは云えない―に最後の花道を見いだそうと機会を窺っていた(陸軍の空挺部隊は、沖縄の飛行場に突入して名を戦史に残し、海軍は、マリアナのB29基地を狙うが果たせずに終わる)。
 この記事は、軍には「こんな使い方もあるんぢゃあないですか?」、国民には「こんな『つわもの』が、まだ残っているんですよ」と云うシグナルであったと解釈することも出来たりするのだ。

 動いている飛行機・空母を乗っ取る。
 こんな無茶は、「アドリア海の空賊」でもやらないが、「少年忍者部隊月光」ならば、きっとやりとげてくれるんぢゃあないか、くらいの事は書いてもバチは当たるまい。