四捨五入してもゼロも同然

「モダン手ほどき」掲載「貯蓄利殖術」で80万9千おまけ


 最近、面白い・面白そうな新刊書籍が毎週出るおかげで、ネタの仕入れがままならない。「兵器生活」コンテンツをこさえる時間も読書に取られてしまう有様だ。
 そんな時、重宝するのが『婦人公論』200号附録「モダン手ほどき」だ。記事ひとつは見開き一つだから、全文テキストに打ち直しても2時間くらいなモノで、前口上をつけ、本文の記述にチョコマカとケチをつけ、とってつけた結びで締めれば今月の更新はクリア出来る。


 主筆の仕事は「主に肉体労働」(テキスト入力)なので、記事の面白さは元ネタ次第と開き直る事も出来る。しかし、「兵器生活」のネタに出来る、と思い「肉体労働」を厭わずやるのだから、読者諸賢が面白いと思えなかったら、それは、読む側が面白がれるだけの紹介が出来ていないことになる(読者の程度が…とはさすがに云えぬ)。


 今回の「貯蓄利殖術」は、正直「面白い」モノでは無い。不景気に安月給、生活防衛のための貯蓄・利殖の必要性は、これが出た昭和7年も令和5年の現代も、大きく変わるトコロは無い。見開き一つで語り終える内容に、そう新奇なモノがあるわけもない。
 そんなモノをわざわざ紹介する意図は何かと云えば、記事に記載されている預金の利子がスゴイからである。
 現在(2023年7月)の、「ゆうちょ銀行」の通常貯金の利子は「0.001%」で、定額貯金「0.002%」、定期預金も「0.002%」だ。定期にすれば倍の利子がつくのだが、1000万円預け入れて百円が倍になって2百円だから、ATM時間外利用手数料で消し飛んでしまう。そこを認識した上で記事をお読みいただきたい(例によってタテのものをヨコにして、仮名遣いなど調整している)。

貯蓄利殖術

 深刻な不景気、失業苦、就職難の荒れ狂う世の波に処して、巧みに生計の舵を操って行くことは なかなか大事業であります。一旦、夫の収入が激減したり、又は失業の憂目を見た場合、即ち生活の暗礁に乗り上げた場合、SOSの役目をするものは、実に日頃の貯蓄です。
 貯蓄の必要なことは、誰でも知りすぎるほど知っています。しかし知っていても行わないところに人間の弱さがあります。行わないで行われないという、これが貯蓄をしない人の第一に言う言葉です。しかしこの言葉に嘘偽りはありません。「少し余裕が出来たら」「生活費が余ったら貯蓄しよう」というのでは 貯蓄はとても出来ないものであるからです。金は幾らあっても余ることがないからです。
 では貯蓄するには何うしたらよいかと申しますに、倹約を行い、日常生活に無駄があれば、無駄を排除することは勿論必要ですが、それだけで貯蓄は出来るものではありません。「是非貯蓄せねばならぬ」という信念を実行に移して、毎月の生活費を予算し、その予算の第一に貯蓄を記入して、夫々(それぞれ)の家計に応じた適当なる貯蓄を支出してかからねばなりません。斯かる強制的方法を実行してこそ、初めて貯蓄は可能になるのです。世にいう天引貯金はこれで、月末若しくは月初(つきはじめ)に収入の一部を天引きして必ず貯蓄するか、或いは保険に加入し又は月掛貯金に加入して、いやでも応でも集金郵便又は集金人に来させて適当な金額を払い込んで行くようにします。

 貯金の必要・実行の困難が語られる。「金は幾らあっても余ることがない」その通り。必要なのは今スグやる決意とやりとげようと云う信念、そして収入からの最初の支出を貯金に回す「仕組み」だ。もらう時が預けたときになる「天引き」は貯蓄の王道だ。どんなお金持ちでも、始まりはここからである。日比谷公園・明治神宮など、近代公園の造園に関わった本多静六は、月給の1/4を天引き貯金して、それを投資の元手にして莫大な財産を得たと云う。


銀行預金
 (イ)普通銀行  
 貯金の種類 甲種銀行利子  乙種銀行利子 
 定期預金  年利四分七厘  年利五分二厘
 当座預金  日歩三厘  日歩四厘
 小口及特別当座  日歩八厘  日歩一銭
 別段預金  日歩九厘  日歩一銭

 (ロ)貯蓄銀行  
 貯蓄預金  日歩八厘 年利計算分四分二厘 
 据置貯金  年利四分七厘  
 定期預金  年利四分七厘  
 郵便預金  年利四分二厘  
 信託預金  年利約五分  
(註:本文の記述を表に改めてある)

 銀行預金の種類と、利子が記されている。それぞれの違いは、今日活用しようが無いから調べていない。「日歩3厘」は1日ごとに、元本×0.003の利子がつき、「年利四分7厘」なら1年で×0.047だ。貯蓄のない人から見れば四捨五入すればゼロぢゃんと思ってしまうだろう。しかし、主筆の意図は、読者各人が、昭和7年当時の預金利率が、冒頭に引いた現代の「0.001%」「0.002%」の何倍もあったことに気付いていただくトコロにある。
 給料が上がらない事が日本社会低迷の原因のひとつとして語られているが、いくら預金したところで増えないのであれば、自力救済の手段―記事では「SOSの役目」と称している―として心許ない。この方が問題だと思う。

 さて貯金の性質によって、その預金方法も自ずと異(ちが)いますが、子供の教育費や、お互いの老後の生活費に充てる為や、病気その他の災害に備える為の貯金は、例い、利子、利回り等は安くとも、健実な銀行に預けるのが、最も安全です。又金額の多少と性質によっては貯金の方法を次の様にするのがよろしい。

 (1)毎月月初めに貯金して、其の月の食糧その他の買物及(および)色々の支出に充てるものや、相当纏まった金額でも、何時入要かはっきりしない金は、郵便貯金か銀行の特別当座預金にするとよろしい。
 (2)毎月月初め、又は毎日預け込んで、数ヶ月若しくは数ヶ年引き出さないですむお金でしたら、予め払い戻しの期間を定めて、銀行に据置貯金又は定期預金として預入し、又は郵便貯金の月掛け、日掛け貯金をするとよろしい。
 (3)賞与その他不時に纏まった収入のあった時 その金額が五百円以下で二ヶ年以内ならば引き出さずにすむという様な場合には之を銀行の定期預金にします。

 さて、銀行へ定期預金をする時の注意ですが、同じ定期預金でも、三ヶ月、六ヶ月、一年、二年とありますが何れを選ぶかということです。この選び方如何で、利子が多く手に入るか何うかが決定されます。定期預金は「期限満了と共に元利相揃えて支払い申すべく候」というのが普通です。従って三ヶ月の定期預金ならば三ヶ月満了と一緒に、六ヶ月定期なら六ヶ月後に夫夫(それぞれ)元金にその間の利子を付けて返される訳です。
 この場合一ヶ年より六ヶ月、六ヶ月より三ヶ月毎(ごと)に切替える方が多くの利子が得られます。又貯蓄銀行の貯蓄預金に於ても、日歩計算より年利計算の方が利子が沢山入ります。

 さきにも書いたが、預け入れ方法の違いの説明はしない。切り替える期間を短く設定する方が、多くの利子が得られるとあるが、数学の脳力の無い主筆なので、利率が同じならもらえるモノは変わらないヨーに思えてならぬ。
 記事本文は分「0.01」(割=十分の一、の十分の一)、厘「0.001」(千分の一)の世界だが、昨今の預金金利の「0.001%」(千分の一パーセント)では、数字のケタが2つ違うことに気付く。元本×0.001なら1千万あれば1万円、貯めた自分にごほーびの一つ出してもバチは当たらぬ金額が得られる。これが0.001%になると、ATM手数料で終わる100円にしかならない。身を削って働いてお金を貯めてコレでは、資産形成をしよう云う気になれない。閉塞感しか無い。
(おまけのおまけ)
 今回は、「厘」で計算しているが、「分」でやるとものすごい結果が出て来そうなので、あえてやらなかった。やったら血を吐いて倒れてしまうかもしれない。
(おまけの明治・大正・昭和の利率)
 『値段史年表』(朝日新聞社)に「定期預金利息」が載っている(タテをヨコにしたり端折ったりしてます)。
 明治15年 7分6厘2毛 
 明治25年 4分3厘9毛 
 明治30年 5分8厘9毛 
 明治35年 6分9厘3毛 
 明治40年 5分4厘1毛 
 大正元年 5分3厘 
 大正5年 4分2厘7毛 
 大正10年 5分2厘 
 大正15年 6分 
 昭和5年 4分5厘 
 昭和10年 3分7厘 
 昭和15年 3分3厘 
 昭和20年 3分3厘 
 昭和24年 4分4厘 
 昭和32年 5分5厘 
 昭和55年4月 7分2厘5毛 
 昭和61年11月 3分1毛(6ヶ月) 

 「値段史年表」最後の昭和62年3月は、六ヶ月定期「2分6厘4毛」、1年ものは「3分6厘4毛」である。「7分」は凄い。堅実な貯蓄でこれだから、相場はさぞや怖ろしいことになっているんだろう。「一夜にして身代を失う」世界があると云われている。