開運の原子力

「エーテル法眼の運命大鑑定」で81万7千3百おまけ


 毎月の「兵器生活」記事のため、紙切ればかり買っている。紙一枚なら文字は少なく、打ち写す手数がかからない。仕上がりは早くなる。しかし、取りかかりは月末近くになってからなので、「急ぎ働き」でカタチにせざるを得ず、大変な思いをするのは変わらずで、例の如くウケるアテもない。世の中うまく行かぬものである。

 紙面から漂う怪しさに惹かれ、こんなモノを買ってしまう。戦後のネタは取り上げない事にしているのだが…。


運命開発大鑑定

 文字面だけ見て、「面白いね」と戻すトコロが、


 新聞、ラジオ、雑誌等で御承知の
 今大評判欧州帰朝=各地を遊説中
 印度哲学ドクター エーテル法眼先生来る
 運命を知り信仰に活き自然に帰れ

 なんてあるから、じっくり読みたくなってしまう。二百円でネタひとつ得られると云うのも魅力的。
 写真も良い。角帽が「欧州帰朝」の「印度哲学ドクター」を演出し、目付きの鋭さが「法眼」(智慧の眼)を物語る。
 「運命を知り信仰に活き自然に帰れ」なんて良い事を云っているのに、エーテル(宇宙空間に満ちていると想定された物質)と法眼が合わさったとたん、「いぶりがっこチーズ」、「着物にハイヒール」、「薄汚れた未来都市」と云った、ミス・マッチ、バット・テイストな雰囲気が漂う。角帽も「バカ田大学」の座布団に見えてしまう。当人は占い師の見た目をアップ・デートしたつもりなのだろうが。

 絶賛=大好評! 十月二十七日マデ日のべ
 
 霊示活断!!
 熱と力は納得ゆく迄鑑定

 去る五日以来大好評を博し連日鑑定希望者大多数につき有志の懇望もありまして特に二十七日迄日延べを断行いたしました
 此の好機を逃さず是非一度おこし下さい
 (天は自ら助くる者を助く)執事

 「運命開発大鑑定」これがチラシの主旨である。連日鑑定希望者が絶えぬので、特に期間を延長して需要に応えると云う。「五日以来」とあるから、この「日のべ」が決まる前に、「先生来る」と予告のチラシをバラ撒いている、と考えたくなるが、主筆は人間がヒネているので、このチラシを最初から配布して、千客万来のフリをしているモノと疑っている。

 紙面に並ぶ文字を見ていく。

 家相悪しきは家に病人絶えず
 愛児に恵まれぬは相性相剋なり

 家庭の不和争闘に悩む人
 初婚再婚問題に直面して其去就と運命開拓の法
 取引上相手方の心理状態を知りたき人
 病気に悩む人病状を知り平癒を願う人
 其他人間の智恵や科学の力で判断の出来ない複雑な方法を指導す

 家庭・婚姻の悩み解消、取引の成功、病気平癒の効能が語られる。ありきたりな内容である。そこに、人智・科学で判断の出来ぬ「複雑な方法」があるのが「印度哲学」なのだろう。指導されても理解出来なかったらドーするのか?

 如何なる難病者も続々快方に向かい全治す

 今では宣伝に使えない言葉である(昔はよかったね)。溺れる者が掴む「藁」そのものだ。それが

 熱血火柱の如き霊妙なる活断を以て指導す

 である。さらに「今日の鑑定明日の幸福開運の原子力」なんてコピーまで付く。運命鑑定を新時代に見合った体裁にしよう、と云う意欲熱意は認めるが、この「原子力」、キリシタンバテレンの秘法と変わるモノではないよね。
 モダンスタイルな(たぶん服装だけ)運命鑑定が、「八王子市大横町 宝樹寺」と、お寺さんで行われる―テラ銭払っているんだろうなぁ―ところも面白い。

 料金が明記してある。

 「原子力」と云うから戦後は確実、テレビは普及していないようだから、昭和30年頃と推察する。昭和30年、200円の程度を『値段史年表』で見る。
 カレーライスが100円、牛乳一本(180cc)12円50銭、ビール一杯昭和31年で125円、「週刊朝日」36年40円、うな重並は350円、東京文京区の白山芸者の玉代(花代)800円。
 今(2025年)の2千円と見れば、当たらずとも遠からず、か。悩みが消えて運が開けるのなら安いモノだ。しかし、「特別哲学易筮の鑑定は合議の上で」とある。いいトコロで「ここからは特別鑑定になりますが…」と、うまい事引き込まれて費用が嵩み、家人から「ソンナ占いなんかに高いお金払って!」と叱られる結末が、私には手に取るヨーに見えるのだ。
(おまけの余談)
 「新聞、ラジオ、雑踏で御承知の」が、本当かドーか知りたい。今回も例の短期間促成コンテンツなので、裏取りはやっていない。真偽は大宅壮一文庫で調べれば解る。結果で「ネタひとつ」になる、と思えばやる価値はあるなぁ。