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激論!「軍艦対航空機」太平洋戦争前夜


 ゴジラ対ガメラ、力道山対シャープ兄弟(笑、いくらなんでも古すぎるので、馬場対猪木くらいにしておこう)、自民党対共産党…等々「夢の対決」数あれど、いにしえの兵器ファンが心踊らせた対決と云えば「兵器の帝王」軍艦と「新進気鋭・赤丸急上昇」航空機との頂上決戦である。


 我々は歴史的教訓として「制空権なきところに制海権なし」と云う事を知っており、国防上、軍艦も航空機もそれぞれ必要である事も認識していることは云うまでも無い。したがってかような論争自体、既に読者諸氏の知的好奇心を引く以外の意義を持たないのであるが、50年前の兵器ファンの実相を明らかにすると云う「兵器生活」の趣旨にのっとり紹介する次第である。


 例によってネタは「空」読者サロンおよび読者の隣組である。

軍艦対飛行機

 軍艦対飛行機。之は今次大戦迄は軍艦の方に絶対的に勝目があると思われて居た。
 支那事変で我海鷲は寧海平海等の二千余頓の巡洋艦を撃沈した。而し之は相手が支那海軍故世界ではあまり注目しなかった。
 独のポーランド進撃の時もグディニア軍港で駆逐艦数隻は独空軍の為撃沈された。
 ”ノールウェイ進撃”は遂に航空機が軍艦を負かした。Ju87b急降下爆は英戦艦へ1000瓩或は500瓩の爆弾を叩き込んで之を一撃の下に撃沈したのである。之は軍艦の煙突其他の最も弱い所へ命中したからだと言う人も居る。而し之は負けおしみと言うべきである。たとえどこへ命中したからと、言っても撃沈した事は撃沈したのだ。3万頓の巨艦が一瞬に海底へ沈んだと言う事は英国側は否定したが之は信ずべき事ではない。我々はあくまで航空機之が等らを(原文ママ)撃沈可能であると言う事は知って居るからである。

 ダンケルクに於ては英仏の艦船は275隻が撃沈された。之は陸上から並びに海上からの攻撃のものもあったが、その80%は空軍の戦果であろう。之等の大部分は駆逐艦並に輸送船であるが、之に於ても空軍は絶対的に勝って居る。或駆逐艦は司令塔から真二つされて居る。又護送船団等も空軍の前には無力を表して居る。

 将来航空機は一層強くなるであろう。一万瓩の爆弾をかかえて敵艦隊襲撃する日こそ空軍の前には何物の敵も無くなるのだ。いくら軍艦が強武装になろうとも我々は空軍の勝利を絶対に信じて居る。その時はもう近いのだ、三、四年後と思う。
(上村 雄)S15.12

 論争の第一弾として妥当なものである。まず「軍艦の方に絶対的勝ち目がある」と云う定説がある。その一方では上村氏の思想である「航空機による軍艦撃沈可能論」がある。今までは恐らく「定説とは云うものの、何か違うよなあ」と云う漠然としたものがあったのだろうが、支那事変時の日本軍による中華民国軍艦撃沈によってそれが強化され、第二次大戦初期のドイツ空軍による英軍艦撃沈により、いよいよ確固たる論として筆をとらせたものと推察される。したがって論はいきおい「空軍万能論」とならざるを得ないし、書き方も断言調となるのである。

 蛇足であるが、帝国海軍の強武装軍艦が壊滅したのはまさに上村氏の予見した「三、四年後」+半年である。さすがに自国海軍が他国空軍に負けるとまでは思わなかったはずである。

雷撃機

 12月号上村氏の論に興味を以て少々…。
 航空機が大型艦船を撃沈したる事実はスペイン内乱に於ける戦艦エスパナ号が210封度爆弾2個により、又今次、大戦には英国戦艦がJ.U.87に撃沈され多大の大型艦が傷ついたのは周知の事実である。
 併し最近の戦艦は装甲完備し、甲板も空中攻撃に対抗する為強化され、艦側にはバルジ隔壁を装備して小型爆弾には充分対抗出来、今尚海上の王者とされている。若し是に致命的打撃、或はそれ以上打撃、即ち撃沈するには1000封度級の大型爆弾を以て、連装の高角砲、数連装の高射機関砲10数門の対空火網をくぐって急降下爆撃を以て脆弱部に命中させねばならぬと思う。

 是に於いて小生は、2〜4機の雷撃機を以て、単縦陣にて敵艦に順次魚雷攻撃を敢行しては如何と思います。現今、各国は快速魚雷艇の建造に大童になりつつあるのも、この艦側攻撃にあると信じます。而して雷撃機は高速で、極めて強度に操縦性はく(本文ママ)設計され、胴体内に特種魚雷を搭載し、敵艦を発見するや猛然急降下に移り、敵艦の防御砲火を突破して海上数十米、或はそれ以下に降下して、直ちに上舵水平にうつし、全速にて敵艦に向かい攻撃し、急上昇…次に2番機…と、順次攻撃は現在50〜60%の命中率があるから将来更に進歩して予想外の威力を発揮すると思います。

 艦上雷撃機は英海軍に依り研究され発展したものといわれていて、我が国では大正10年に英国センビル大佐以下30名を招聘した時ソッピース・カッター、ブラックバーン・スゥイフト艦上雷撃機が船着し、この機により講習を行い、次に研究用に3葉の10式が作られ、大正13年には当時の優秀機13式が出現し昭和に入るや英国風の×式と×式が改造され、昭和8年には×式と発展したが、最初にうけた英国風は永く後年まで残った。

 今や我が海軍航空隊は機体性能の優れた雷撃機と、技術訓練の卓技と相まって、無敵潜水艦と共に太平洋雷撃戦隊を形成す時、太平洋は断じて安し。
(摂津田辺住人 内山外川)S16.1


 本文中の「封度」は重量単位の「ポンド」の事である。
興味深い論が出れば必ず援軍が来るものである。先の論とまったく同じでは芸が無いため、次論はより精緻となるか、切り口を若干変えるものである。ここでは帝国海軍得意の魚雷攻撃の可能性が提示されている。
 「無敵潜水艦と共に…」あるのは、まさに帝国海軍が指向していた方法論そのものである。勿論これには戦艦群による「正義の鉄槌」が控えているのであるが。

 日本雷撃機史とみても面白い。どうも昭和に入ってからの兵器名称には検閲が入るように思われる。

軍艦対飛行機に就て

 上村雄氏へ。貴言の如く駆逐艦は飛行機、否命中爆弾に対しては実際無力である。が但し甲級乙級8000〜10000トンの重巡洋艦に対しては何うだろうか、疾駆する細長い艦に水平飛行中爆弾を命中させるのは誠に困難であり従って急降下爆撃の必要が生ずる。飛行機の最も不利な点は其の搭載量に限りがあり大爆弾を多数携行出来ない事である。殊に急降下爆撃に於いては1発乃至2発であり命中は愈々困難となる。
 又砲弾の如く集中攻撃が不可能である、と云うのは面積少ない軍艦に爆弾を投下するには一機々々上空を通過せねばならぬ、故に高角砲は差し当たっての一機を射撃し容易に命中弾を浴びないだろう。これは少し巡洋艦を強く見過ぎたかも知れぬが、戦闘艦では−英の巨艦が空襲に依って撃沈された事は事実であるが煙突に命中したのも事実であろう。戦艦は敵主砲(40糎)弾に耐えられる様に造られて居るから艦側装甲は14吋あり甲板も同砲弾に対しびくびくする必要の無い様に防御されて居る。かかる装甲を500〜1000瓩の爆弾で破壊する事は絶対に不可能である、成程爆発力は無理して飛ばす必要が無いから砲弾より強いかろう但し砲弾の如く深く突込み爆発するのと異なり爆弾の爆発は甲板上の器物櫓を吹飛ばす事は出来ようが撃沈は勿論装甲を貫く事すら出来ないだろう。

 嘗て米国でワシントン号を沈めた時、36糎砲弾11発、機雷4個、魚雷2本、1000瓩爆弾を4個命中させてやっと沈めたが、其の時間は実に1時間を要したと動かぬ廃艦でさえこの強さである。ました海上を疾駆する主力艦に於いておやである。実際戦艦が直接砲弾によって撃沈されるのは極稀で、大部分火薬庫の爆発に依って沈んで居る。
 将来艦型が大きくなればなる程其の撃沈は困難となり、爆弾も又砲弾の援助物となるに過ぎないだろう。
 現在尚米国始め各国が艦建競争に全力を尽くすのも、未だ艦艇の価値の重大さを認めているからであって、未だ「軍艦は空軍の前には何物もない」とは判らないであろう。

 現在では爆弾よりも大型艦に対しては魚雷(雷撃機)の方が猛威を振うであろう。諸兄の反対論も出ると思うが、少なくとも太平洋制海決戦にあっては航空機はあくまで補助的攻撃兵器となろうと思う。何故なら艦載機に於いては攻撃力貧弱であり、大型遠征機では艦隊の発見が困難である。無電でと言われる人があろうと思うが海戦では特に自分の位置を知らさずに敵の位置を知る事が最も有利であり、故にうかうかと無電は乱発出来ない。
(神戸 エア・ポケット)S16.1


 軍艦側に立った反論である。具体的数値を上げて論破しようと云う、反論の正統派と云うべきものである。「航空機はあくまで補助的攻撃兵器となろう」と云うのが海軍上層部以下大多数の意見であったのは有名な話である。しかし「爆弾よりも魚雷の方が猛威を振う」と云うあたりは注目に値する。

続・軍艦対飛行機

 12月号の愚論”軍艦対飛行機”に対し諸兄より色々と御意見有難う。
 さてエア・ポケット氏は8000頓以上の巡洋艦の撃沈困難と言われて居るが巡洋艦の装甲は5吋位なもので(こんなに厚いものは少ないであろう)500瓩の爆弾で大穴があく。
 そしてその速度たるや時速33〜34節たとえ40節出るにせよ飛行機に対して雲泥の差である。これを20〜30の急降下爆撃機群が数千米の高度かせ巡洋艦の上へ急降下して来て一機づつ500瓩の爆弾を落とす。
 一旦目標に向かって行けば敵弾にあって翼が吹飛んでも、機そのまま目標に向かって行く事が出来るそうなれば機体諸共自爆ですな…。

 数千米より急降下して来た機より落とされた500瓩爆弾が命中すれば、甲板を打ち破って内部まで貫通してその次は海上に艦影なしと云う所まで行くであろう。
 又戦艦の甲板上の器物、櫓等を吹き飛ばす事が出来ると同氏は云っていたが、それでよいのではないだろうか?
 櫓を飛ばして照準不能にしマストを折って連絡不能にし武装をもぎ、戦闘不能にすればもうこれ以上する事はない。無理に撃沈しなくってよいのである。
 その間に10機や20機撃墜されようとも、独逸では300機を以て一艦に当てると云って居る。
(東京 上村生)S16.2


 反論に対する反論、これを論争と云う。具体的数値による反駁に対しては、それを逆手にとり、相手の言葉尻を捕らえて逆の結論を導くと云う大技が駆使されているのを読みとっていただけたであろうか。

 「兵器生活」主筆は、論自体よりも「そうなれば機体諸共自爆ですな…」と云う一言に注目する。昭和15年(すなわち1940年、60年前だ)にこう云う醒めた物の云い方をする人間が居るとは思わなかった。兵器ファンと云う人種は、戦闘行為をしている時に、兵器搭乗員、兵器操作者が死傷すると云う事にあえて目をつぶって世間の糾弾を浴びるのであるが、こう云う物の云い方が当時から存在していた(そう云う人種が存在していたと云う事でもある)事に驚きを禁じ得ない。
 ちなみに「兵器生活」主筆も時にこう云う物の云い方をする種の人間であるので、上村氏らを非難糾弾するものではない。

 航空機は艦艇よりも高速であるから補足は容易である、と云うのは確かであるが、それに爆弾を当てる事も容易であると必ずしも云えない事も事実である。「二階から目薬」と云う言葉もあるくらいである(笑)。

認識不足氏へ

 (前略)次に軍艦対飛行機について「東京上村」氏へ。今まで黙って見てたですが、少し貴君は空軍を過信していますね、絶対に軍艦が飛行機に圧倒されるような事は、(一世紀後ならいざ知らず)あり得ない。空軍はそれ自身の任務、又更に強味もあれば弱点もあるし又軍艦だってそうです。だから両者は互いに共同して行くものだと思います。但しこれは将来数十年位までと限定されることはあり得ると思います。(以下略)
(陸攻)S16.3


 やや感情に走った反論である。云われる当人はたまったものではないが、後日論争を再録しようと云う物好きにとっては無くてはならないものである(笑)。「絶対に軍艦が飛行機に圧倒されるような事は、あり得ない」と云う一文を見つけては歴史野次馬はほくそ笑むのである(えげつないなあ…)。

艦隊と空軍の所感

 近頃又空軍対艦隊の比較優劣が盛んになって来た。この問題は数年前否十数年前より論議せられたねのである。其の当時にも空軍万能論者があった。併し爾後十数年航空機は非常なる発達を遂げた。而るに艦隊も又今日依然として存在しその能力を示して居る。
 今次大戦始まるや再び此の説現れ且独空軍の英艦撃沈の報は之に拍車をかけた。併して今日空軍の前に艦隊は全くその無力を暴露したととなえる人がある。
 併し乍ら依然艦隊は艦隊としての威力を有することは明らかである。独が昨年英本土上陸をなさんとしてしなかったのは何故か。色々な理由を上げることが出来ようが、その一つは英国海軍の存在ではなかろうか。もし空軍が艦隊を無力たらしむるならば、独は上陸を敢行し恐らく英国は今日欧州に存在しなかったであろう。

 空軍は艦隊に優った特点を有する、だが艦隊も又空軍に優った特長を有するのだ。空軍は艦隊に取って代わるべきものではなくして、むしろこれと共同すべきものではないか。結局近い将来に於いては、空軍が艦隊を亡ぼすということは起こらず、空軍と艦隊とは自己の領域に於いて絶えざる発展を遂げて行くであろう。
(Nordpolarstern 改め 旭 昇一郎)S16.3


 趣旨は陸攻氏と同じく「空軍万能論」に対する異議申し立てであるが感情に走らず、軍艦航空機共に必要であるとしている所がミソである。

 完全に相手の論を撃破出来ない場合、あるいは相手の論が極論に過ぎる場合、そして論争が泥仕合になった場合に登場する良識ある論でもある。最終的にはこのような形で事態は「進歩・前進」する。が歴史野次馬にとっては至極まっとうな意見でイマイチ面白くないのである(笑)。

 こうやって論争が続いている間も、帝国海軍航空隊は航空機による対艦攻撃の技量を高めつつあるのであった。

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