私の夢は実現される!

獅子吼する<魔法使いの弟子>氏と、やっぱり続く軍艦対飛行機5


 密かな連載企画と化した「軍艦対飛行機」であるが、久々の復活である。
 前回「或絶対的な報道」に基づき、魔法使いの弟子氏へ先制攻撃をしかけたT.N氏に対し、彼はいかなる反撃に出るのであろうか…。

米国海軍最近の動向

独・蘇開戦と共に米国の参戦態勢は益々露骨となり、アイスランドに海軍部隊を派遣などして援英の手を一歩進めたのである。更に日本に対しても在米資金の凍結、援蒋の強化等によって益々世界動乱の危機ほ増大したと言うべきである。太平洋の波は、決して穏やかではない。日一日と高くなりつつあるのである。

 而して最近の米国海軍の動向を調べて見ると、海軍は目下692隻より成る両洋艦隊建設に邁進して居るが現在ノースカロライナ、ワシントンの2隻の35,000トン新戦闘艦を含む337隻の軍艦(1,274,000トン)及び438隻の補助艦艇より成る775隻の艦艇を有し、更に7月1日現在で3,678機の海軍機を有して居る。海軍飛行兵は4,500名である。亦ハワイ、はじめ其の他の基地の拡大、防備の強化事業には3億弗の予算を以て着々実行せられて居る。

 然し乍ら海軍記念日の平出大佐の言われた如く、帝国海軍は500余隻の艦艇を有し、4,000機の海鷲を以て必殺的戦法を練りつつあり、亦必要な基地は完全なる防備を施し終わって、海鷲これに依り、大鯨ここに潜み軽々しく我に挑戦するものあらば一挙に粉砕せんとして居る事は誠に心強き限りである。

 更に質的に見ても、帝国海軍の軍(艦)の優秀なる事は世界の等しく認めて居る処であり、海の荒鷲には又、往復800浬(1500粁)を飛翔して(海鷲への感状に依る)、成都攻撃に赫々たる武勲を樹てた新鋭機あり亦最近直線距離2000粁ある青海省西寧を爆撃(読売紙に依る)世界史上空前の長距離爆撃記録を樹立した精鋭機あり、彼のカーチス、グラマン、ヴォート等の新戦闘機や、ボーイング、ダグラス、コンソリデーテッド等の爆撃機飛行艇も恐るるに足りない。海軍将校の方が雑誌等にて海軍機に関する限り絶対国民は安心して居て貰い度いと言われて居る事を思い合せ頼もしき事ではないか。(芝 野澤生 S16.9)
 本題に入る前に、当時の兵器ファンがどう云う時局認識を持っていたのかを紹介してみた。日本の情報操作?の巧みさが伺える内容、と読みとる事はたやすい。
 しかし、現実に大戦艦、大巡洋艦、大駆逐艦、大潜水艦、大航空母艦を擁す、大日本帝国海軍の威容をナマで見ていれば、「帝国は万古不滅である!」と思っても無理は無い。
 新日本海軍観艦式予行演習と云う、往事の帝国海軍を知る者から見れば、児戯に等しき艦隊行動と云えども、「海上自衛隊ってスげえ!」と私をして思わせるのであるから、当時の兵器ファンはおろか、一般大衆から国政担当者までもが「帝国海軍は強い」と信じていたのは、仕方の無い事であると、私は思うのであった。

 それにしても「海軍機に関する限り絶対国民は安心して居て貰い度い」とは、陸軍の検閲官が読んだら血相を変えそうな文章である。まあ支那大陸になぐり込んで4年目ともなれば、陸軍に対する国民の目も冷ややかになると云う事か…。

 で、お待ちかねの<魔法使いの弟子>氏の登場である(拍手)。
いろいろと

1.艦隊と空軍(2)

 私はTN氏の云う様に航空母艦上から飛行機を出発させるなんて云った事ありません。
 航空母艦から出発させる様な…とにかく航空母艦も軍艦ですよ。
 三四年後と云ったのは少し暴言かも知れないが十年とたたない中に空軍は完全に艦隊を撃滅すると思います。

 ビスマルク号やクレタ島の戦に於ても空軍の威力は完全に発揮されて居ます。フッドを5分とたたない中に撃沈させたビスマルクもソードフィシュの為撃沈(と云っても良いでしょう)されたのです。
 ”あれには航空母艦が無ければ駄目だった”と云われるかも知れません。それは今の空軍(ソードフィッシュ)は航続距離がみぢかかった為です。今に航続距離が長くなれば航空母艦は本当に無用の長物になるでしょう。
 それにビスマルクを発見したのはコンソリデーテッド”カタリナ”だと云います。その後二三回ビスマルクを見失いましたがその都度発見したのは航空機であると云います。故に海上に於て艦隊を発見するのは航空機の方が有利な事がお分かりでしょう。

 又制海権がなくても制空権があれば敵地攻撃が可能な事はクレタ島を見れば良く分かります。制海権があった英国もクレタ島を守れなかったじゃありませんか。
 この様に空軍は一日一日と艦隊を制圧して居ます、今に艦隊の無くなる時が来ます。


 それまでだまって見て居てごらんなさい。人のあげあしを取って何だかんだと云った所で水掛論です。今に見て居なさい十年たたない中に私の夢が実現されます。(以下模型と「夢」の話なので略)
(魔法使いの弟子 S16.10)
 前座が済んだところで真打ち登場である(拍手!)。「航空母艦も軍艦ですよ」確かにその通りなのだが…。

 確かに戦後一時期、大英帝国も空母を引っ込めた時期があったわけであるから、氏の説が当たったと云う事も云えようが、この論争から60年たった今もなお、艦隊が海軍に存在しているのも厳然たる事実である。まあ氏の意見は極論なので、<敬して遠ざける>のが無難なところであろう。

 「今に見て居なさい」と云うあたりに、氏の不退転の決意を見る、と云うのは贔屓の引き倒しと云うものだろうか…。

思ったまま

 (略)魔法使いの弟子氏よ「艦隊を完全に撃滅する事が三四年後になるだろう。」と云わるるも、戦艦は別でしょう。

 新鋭爆撃照準器を以て、充分訓練した乗員が居れば相当の高度よりでも的確な爆撃を戦艦に見舞えるし、高速でジグザグを以て逃れんとしても急爆で戦艦を沈没せしめ得るか、又は落伍せしめるかは、結果行って見なければわからぬが、高角砲の弾幕、防御戦闘機が乱舞して攻撃機の照準を妨害するとなって来れば果たして爆撃が可能か否か話の問題が外れて来ると思う。

 急降下爆撃機が進歩すれば、又戦艦も優越性を保持せんと、装甲、速力を増大にして、対空砲火命中率向上等につとめられている。
 英国では「戦艦を空中よりの爆撃によって、破壊されない様作る事は不可能だ」…が「空中よりの攻撃に堪える様に設計する事が出来る」と…発表している。

 ビスマルク号は雷撃機に最期の止めを刺された。又最初の一撃も雷撃で速力が半減したと謂われている。併し、これにはドイツ海軍の飛行機が参加していない。ノルウェーよりでも充分参加出来た筈だが、矢張り海軍航空の特殊性は之により認識出来る。

 艦隊のある所必ず海軍航空力が付随していなければならぬと思う。
 空軍万能論もどうかと思う。果して艦隊の任務が飛行機を以て代行する事が出来ますか。換言すれば飛行機で海上を制圧する事が出来ないという事になる。
(大阪 内山弥之助 S16.10)
 「魔法使いの弟子よ」である。完全に<たしなめモード>に入っている。内山氏の説は極めて妥当なものである。が、何故この時期の投稿者は、みんな揃いもそろって急降下爆撃の話しかしないのだ? 論争当初は魚雷攻撃の有効性についての指摘もあったと云うのに…。
 「空中よりの攻撃に堪える様に設計する事が出来る」それは<喫水線下の攻撃には対処出来ない」と云う意味を含んではいないのか、と魚雷に泣かされた海軍を持った国の民は思う。爆弾、砲弾に堪えうるように設計された大戦艦も、魚雷にいぢめられたではありませんか…。

 それとも、魚雷の効能を説く投稿は、海軍当局から差し止められていたのだろうか?
 だとすれば「趣味の兵器本」研究家の端くれとしては、無視出来ない問題である。

漠として

 (略)魔法使いの弟子め以て慚愧すべきなり、又新聞その他の報道に沈めそこねたとか、こっちがやられたというのが出たためしありや。(略)
(陸攻 S16.10)
 内容そのものに見るべきものは無い。単なる<箸休め>あるいは読者投稿の一例として掲載してみただけである。

九月号

 (略)魔法使いの弟子氏に。君は一体何を考えて居られるのか?過去数ヶ月、諸兄より何と云われても頑として旧論を奉って居る。普通の人間だったら如何に航空ファンでもこんな話にもならない暴論には固執せぬであろう(理を曲げてでも固執するところに貴公の貴公たるものがあるのかも知らぬ)。若し八、九月号の夢が貴公のシンボルとするところなら、それこそ君の識能程度が疑われる。
 愚生之でも軍艦には毎日接して居る。それだけに貴公が時代遅れの軍艦観をふり回すのが癪にさわる。貴公の論は極端に云えば明治初期の軍艦と現代(或は未来)の飛行機に於て始めてあてはまるだろう。何にしろ貴公は僅か数回の出来事を半かじりせずに軍艦と云うものを冷静に根本から考え直し給え、悪いことは云わないから−。(略)
(アンタレス S16.10)
 昭和10年代の手紙サンプルとして残したい一品。主筆の品性、今回はワイドショーレポーター並になってやっております。こう毎回毎回色々文句を付けられている<魔法使いの弟子>氏に、私が同情の一つもしたくなるのが、お分かりいただけるだろうか。

思いついた事等

 空誌の発展を心からお慶び申上げます。

 魔法使いの弟子兄へ、貴兄が航空機、殊に飛行機の威力を斯くも非常識に誇張される気が知れない。僕は現在諸君の如く飛行機に興味を持ち、航空雑誌を読んでいる人の中大部分の人は軍艦を研究し、論じ得る人等と思っています。又少なくとも軍艦に就いて身(自か?)分の意見を投稿する諸兄、殊に自分の意見に反対する他の人等に対し更に我意を強張出来る程確信のある人は艦というもの全般に亘り相当専門知識のある人と察し深い尊敬を捧げます。

 併し貴兄の場合失礼乍ら軍艦と飛行機に就いて論ずべきでないと思う。自分は、貴兄の軍艦に対する知識が薄弱である、否、専門的知識は皆無であると断言して憚らない。
 自分等若い者に在勝ちな事ですが、自分の意見を述べ他人に反対されると少しの隙を見いだして更に反駁する、これは研究心の発露として誠に結構な事だが、要するに相手の正しいと言う事に気付いても自分の誤を認めると言う事を知ない、故に内心では「自分が間違っていた」と気付いても、やはり其の説を対外的には変更し得ない、これは勿論考え様により良く解せない事もないが、場合により最も避けねばならない、貴兄に当てはめると貴兄は軍艦と飛行機相方に就き研究し抜いて居ない。従って貴兄が折角空軍万能を説いても其れは述論に過ぎない。の一言で尽きる。

 軍艦と飛行機が何んなに盛衰するとも又空軍万能の時代が若し来たとしても、それは意味のない単なる一致としか認め得ない。
 悪気で書いたので無いですからお赦しを、何卒軍艦を研究されん事乞う。(略)
(神戸エアポケット S16.10)
 軍艦派のエアポケット氏からもツッコミが入る。いよいよ<弟子包囲網>の完成か?
 それはさておき、エアポケット氏の指摘は、私も含め、ネット生活者の心得として胸に沁み入るものがある。人間思っていても、なかなか実行出来ない事が多いのだ。

 貴兄の場合失礼乍ら軍艦と飛行機に就いて論ずべきでないと思う。

 ゴメンナサイ。

 貴兄は軍艦と飛行機相方に就き研究し抜いて居ない。

 おっしゃる通りです。浅学非才の身の上ですが、これも「趣味の兵器本」研究の一環なのです。面白半分でやっているのも事実です。60年も昔の読者投稿欄をネタにして喜んでいるなんて、本当に私はバチあたりです。

 と、しおらしくした所で開き直るのである。専門家である軍と、それに追従した政治家と新聞、その渦中にあって、自己の興味のおもむくまま時代を駆け抜け、あるいは途上に倒れた先達を、古雑誌の中に埋め去って本当に良いのだろうか、と私は思うのである。
 この先、時局がどのように動くのかは、誰も知らない(あるいは知っていても知らないフリをしている)。その中で、真摯に飛行機や軍艦を研究していた先達の轍を踏まない事が、戦後を生きるミリタリ趣味者の基本姿勢なのではないだろうか…。
 以上余談。

軍艦対飛行機

 軍艦は対空防御のためにあるのではない。十六吋砲は航空機を撃つために造られたのではない。
 重砲兵が戦車隊の襲撃を受けて敗れたからと言って重砲は無用でない。重砲の使命は別にある。主力艦は、敵の主力艦のためにある。フッドを総ての条件をいれて五分で撃破し得るのは、主力艦のみである。
 ビスマルク、クレタ島等の戦闘は、武器の編(偏)重によって行われたものである(武器の偏重とは、近代戦に必要な十分なる状態におかれなかったもののみが敗れた戦だ)。

 将来の爆撃機が三十トンの爆弾をつみ七〇〇粁の速力八〇〇〇粁の航続力を得るとも、之を撃破するに足る戦闘機があれば十分だ、むしろ将来の海戦は陸戦も同様であるが、如何に航空機は軍艦を助け(ここで軍艦を助けるとは敵航空兵のを撃破することだ)好く軍艦の持つ特色を発揮し得る状態に導き、二者一体となって戦術の妙を発揮し得ることによって勝敗は極り得る。

 兵器は相対的なものであるが近代戦は其の時の兵力地勢天候兵員の仕(士)気、又政治的な種々なる力に支配される。(かかる精神力以外のもののみに支配されないのが秀れた軍隊なであるが)航空機のみが十の条件を十だけ破り得ると言うが如き馬鹿気ている、航空機は敵の航空兵力を完全に撃破し得るだけで素晴らしい成功だ。

 往々にして之さえたやすく行われ得ないのが近代戦の特色で、又そこに極度に国民生活を犠牲にしてさえ、勝敗がよういに極り得ない状態なのだ、(ここで言うのは伯仲した強国間の戦争である)金力上、地勢上、航空兵力にのみ頼ると言う如きあり得ない事ではないが、(かかる状態にあるのは弱小国のみである)だがこれはやっと自らが画(え)がき得る、太くはあるが一本の線に過ぎない。
(深川 軍艦マニア S16.10)
 ただ拍手。理想的近代海戦と云うものがあるとすれば、それはこの文章の事を云うのだろう。

 手持ちの航空戦力による制空権の奪い合い、それに余力ある時は敵艦隊への攻撃を敢行し、最終的には戦闘艦同士の果たし合いで雌雄を決する。
 一般的に云われる、第二次大戦の海戦と云うのは、航空戦力のバランスが崩れすぎた結果論であったのかもしれない。お互いの航空戦力が等しく底を尽いてなお、艦隊に戦意があれば、結局の所、軍艦同士のつぶし合いになる筈だったのである。
 そして21世紀初頭における「空爆」とは、まさに弱小国対強国の戦争の姿なのであろう。

制空と航母

 (略)次に魔法使の弟子の論に反駁す。
 「今に航続距離が長くなれば航母は本当に無用の長物になる」と云っているが、大いに反省を促したい。「それまでだまって見ていてごらんなさい人のあげあしを取って何だかんだと云った所で水掛論だ」と最初から反駁されるのを恐れている、10年後になって見よ、この「読者の隣組」を通じてその勝負を決しようではないか。

 航空母艦は如何なる役目を為す故に存するか? 亦更に、大型飛行艇の出現と艦載機の将来を考える時、海戦で邪魔物なる航母は影が薄い、廃棄せよと云う論は今まで少なくないとのことだ。魔法使の弟子ばかりではない。

 魔法使の弟子よ、余り空に熱心だとは云え航母に関する知識が不足だ、余りにも飛行機だけを考え過ぎている、作戦行動が頭中にないらしいぞ。
 飛行機が航続距離が長くなれば航母にとっては尚都合がよい。即ちかのイタリは地中海そのものが、至る所航母の役目をすると誇っていたが最近、英軍事誌上に依ると今になって航母の無いのを残念がっている。それはアフリカ戦線に於て明確に表れたことだ、と云っている。そしてアークロイヤル(26000トン)号を絶賛している。
 航母は何の設備のない、前線に於る前進飛行基地であり、飛行機の修理工場なのだ、又米国はサラトガ(33000トン)を大西洋に回航し、1回250機の戦闘機を英国に送ることが出来る、その上50機は何時でも飛び得る状態にあると米国の一軍事誌上に見えている、大型飛行艇がどうして敵艦に対して急降下爆撃出来ようぞ、艦上機即ち艦上戦闘機、爆撃機なる小型にて初めて出来る。
 敵は眼前に見え、この凄惨なる光景に初めて航母の威力、亦航母は海上殲滅戦の為に用意された艦種であることを知る。
 魔法使の弟子よ、魔法を用いても10年後迄に、全世界の制空を吹き飛ばすことは出来ないぞ。
(大森 晃山良 S16.10) 
 魔法使いの弟子氏がまたもや叩かれている。「10年後になって見よ、この「読者の隣組」を通じてその勝負を決しようではないか」とあるが、読者諸賢はどちらの勝ちと見るだろうか?

 現在の兵器趣味者である我々は、なんの気なしに「空母」と云う言葉を使用しているが、「航母」と云う表記も存在していた事を記憶しておこう。歴史の試験には出題されない事だけは保証します。


 まとまりも無いまま稿を終えるわけであるが、このネタはまだ続くのである…。