青年は戦車を知るべし!

あなたの戦車知識を試す<戦車50問>


 2001年の青年にとっての<戦車知識>とは、イコール<戦車模型製作のための知識>、あるいは<戦争シミュレーションゲームのための知識>と云っても過言では無い。すなわち、個々の戦車の名称、形状、性能だったり、過去の戦車戦闘の経緯に、今後登場するであろう新型戦車の予想等に集約される。

 一方、「兵器生活」で取り上げるところの<戦前・戦中での民間レベルでの戦車知識>と云うと、従来殆ど取り上げられる事が無かったと云って良い。なにせこのサイトの主筆自身が情報を持っていないのであるから、書きようがなく、したがって密かに研究をされている読者諸賢以外の読者諸氏も知りようが無いのである。


 今回、「むーのおもちゃ箱」で大日本帝国戦車研究を展開されている、むー氏より、当時の戦車知識の一端を伺わせる史料の提供を受けたので、ここに御礼申し上げるとともに、ネタとして我々も、当時の知識を共有しよう、と云うのが今回の趣旨である。

 今回紹介する文章は、国防科学雑誌「機械化」昭和17年10月号(この雑誌の場合、通算号数が表記されるので、23号と書くべきであるが、発表時期特定の便宜を優先している)に掲載された<戦車五十問>の全文である。原文は問いがカタカナであるが、仮名遣いの変更と併せ、ひらがな表記に改めてある。

知っていますか?
 戦車五十問
 あなたの戦車知識は何点か

 出題・回答:友廣 宇内

はしがき
 これからの青年は誰でも戦車について十分知識をもたなければならない。しかしみなさんは、それについてどの位の知識をおもちでしょうか。ここに戦車問題五十問とその答をかかげてみましたから、下の回答をかくして、上の問にどれだけ答えられるかやってみて下さい。
 一問二点で百点満点。

質問の部
(1)近代の軍事界の二大傾向とは?
(2)機械化とは?
(3)車輌の原動機は?
(4)機械化部隊の花形は?
(5)戦車の種類は?
(6)豆戦車の重量は(大体)?
(7)軽戦車の重量は(大体)?
(8)中戦車の重量は(大体)?
(9)重戦車の重量は(大体)?
(10)超重戦車の重量は(大体)?
(11)豆戦車は何人位搭乗出来るか?
(12)豆戦車はどの位の速さか?
(13)軽戦車の搭乗人員は?
(14)軽戦車はどの位の速さか?
(15)中戦車の搭乗人員は?
(16)中戦車はどの位の速さか?
(17)重戦車の搭乗人員は?
(18)重戦車はどの位の速さか?
(19)超重戦車の搭乗人員は?
(20)超重戦車の走る速さはどの位か?
(21)戦車は此の五種類だけか?
(22)特種戦車の種類は?
(23)特種戦車と一般戦車との相違点は?
(24)特種戦車の任務は?
(25)装甲自動車と戦車とが最も相違している点は?
(26)履帯の効能は?
(27)それだけですか?
(28)履帯の支持力は如程か?
(29)敵戦車を積極的に追い払う手段は?
(30)それだけですか?
(31)消極的な方法では?
(32)それだけですか?
(33)ピアノ線はどのような効果がありますか?
(34)レールの植込んであるのと防■(一字不明)との相違点は?
(35)その目的は?
(36)戦車が河を渡渉出来る大体の範囲は?
(37)渡渉前の注意としては?
(38)戦車の昇れる傾斜度の大体の程度は?
(39)戦車の立木排除の大体の見当は?
(40)戦車が越えられる壕の幅は大体どの位ですか?
(41)又深さはどの位です?
(42)戦車の湿地通過の大体の深度は?
(43)戦車の登崖出来る大体の高さは?
(44)戦車の主な任務は?
(45)副務としてはどのような働きをしますか?
(46)戦車使用の鉄則は?
(47)味方とはどのように連携しますか?
(48)それだけですか?
(49)進撃に当たっては?
(50)それを委しく謂うとどのような事ですか?

 原本では、紙面上半分が質問、下半分が回答となっているため、設問(48)のようなこれだけでは何を意味するのか解らないものがあったりする。
 では、回答をどうぞ。
回答の部

(1)空軍の躍進と諸兵備の機械化であります。
(2)装甲した車輌を主体として自動車化し、大きな活動性を持つようにすることです。
(3)内燃機関を発動機として使用したものに限っております。
(4)戦車であります。
(5)豆戦車、軽戦車、中戦車、重戦車、超重戦車の五種類です。
(6)約二噸位の標準であります。
(7)約六噸位の標準であります。
(8)約一〇噸位の標準であります。
(9)約一八噸から三五噸位迄の標準であります。
(10)約五〇噸以上です。
(11)定員二名であります。
(12)最大時速は四五粁です。
(13)定員三名であります。
(14)最大時速は三五粁です。
(15)定員三名であります。
(16)最大時速は四五粁です。
(17)五・六人であります。
(18)最大時速三〇粁であります
(19)十人位であります。
(20)最大時速三〇粁であります。
(21)其他に特種戦車があります。
(22)通信戦車、工兵戦車、煙幕展開戦車、火焔、発射戦車、輸送戦車等です。
(23)一般戦車は攻撃、戦闘専門で特種戦車は其の補助機関であります。
(24)大体其の名称が示すような補助行動を致します。
(25)車輪と履帯の違いです。
(26)地面との摩擦力が大きいので重い戦車を軽快に運転することが出来ます。
(27)地面の少々の変化に関係なく走行出来ます。
(28)一平方糎に付き〇.五瓩を標準とします。
(29)戦車戦、対戦車砲、空軍爆撃等であります。
(30)特に肉薄攻撃があります。
(31)自然の障害物、即ち河川、急坂、湿地、塁等を利用します。
(32)地雷、■(一字不明)砦、壕、陥し穴、土、立木の切株等の防壁、障柵等を設けます。
(33)履帯に巻きついて戦車の運行が出来なくなります。
(34)その高さを種々に変えてあります。
(35)不平等な衝撃で履帯を外すためです。
(36)戦車の種類によって違いますが、大体深さ七〇糎から一.二〇米位迄です。
(37)河床が泥濘か如何かを調べます。出来得れば上陸地点の傾斜度、障害物等を視察します。
(38)大体四〇から四五度です。
(39)大体一〇糎程度から七五糎程度のものも圧倒出来ます。戦車の種類と地盤によって明確にいえません。
(40)戦車の全長の半分迄は良いといいますが、実際にはその長さの四割が安全確実です。
(41)大体一米から四.五米位であります。戦車によって違うのは勿論でありますが、その壕の(横断面の形)堀り方によって大変違うものであります。
(42)大体一二糎程度であります。
(43)種類によって違いますが、四〇糎位から一.二〇米位までであります。
(44)前面の敵を(抵抗物)排撃して歩兵のために戦勝の詞をつけます。
(45)敵の背後を攪乱したり重要地点を占拠のため挺進します。
(46)大集団で奇襲すること。
(47)歩兵、砲兵、工兵、航空軍と密接な連携をとった上で攻撃をします。単独攻撃は大体に於て無意味であります。
(48)その行動を全く秘密にして敵の意表外に出ます。
(49)敵情偵察と地形を調査。
(50)人工防■(一字不明)物、自然防■(一字不明)物を調べ、敵の火力の程度を予知することです。

をはり(ここだけ歴史的仮名遣いそのまま)

 筆者の友廣氏がどのような立場の人間なのか、例によって不詳なのであるが、同じ「機械化」で<空中戦車兵団>(昭和17年5月)と云う記事が掲載された当時は、<落下傘技師>と紹介されていた事だけ記しておく。

 さて、この記事の内容であるが、お分かりの通り、

  どんな戦車があり
  どう戦闘に利用し(対抗手段は何で)
  その際の留意点は何か

 と云う、戦車使用者が最低限認識しておかなければならない事項に限定されている。読者の知りたい戦車の武装については、軍事機密であるから、まったく触れられていない。こうやって美味しいところが秘密になっているから、戦時軍事雑誌研究はかえりみられないのである(笑)。

 設問(44)(45)は戦車の任務についてであるが、第一に歩兵の攻撃支援があげられている。<前面の敵を(抵抗物)>と表現されているのが、日本戦車主砲の目標で、それが敵機関銃・特火点である事は云うまでも無い。
 副務となっているのが、<電撃戦>での戦車利用である。しかし、設問(46)戦車使用の鉄則として大集団による奇襲、を上げているあたりから、本音としての主任務は、すでに戦車主体のドイツ式電撃的挺進にあると見て差し支え無い。
 回答(47)の<単独攻撃は大体に於て無意味>と云う部分も当然の話であるが、戦史好きな読者諸賢であれば、その失敗例をいくつも挙げる事が出来るはずである。

 それにしても設問のかなりの部分をさいている、<戦車が踏破出来る地形>と云う事について、一般の戦車ファン(含む主筆)はあまりにも無関心でありすぎるように思えてならない。戦車砲や装甲板の性能以前に、どうやって戦場まで到達させるのか、と云う部分も含め、個々の戦車と云うものを評価する時期に来ているのではないのだろうか…(だからと云って負けた現実が覆るわけでは無いのだが)。

ますます「機械化」が欲しくなってきた(笑)