設計家の夢

 野球ファンにとっての夢のプレーヤーとは 「ピンチに必ず押さえるピッチャーとチャンスにホームランを打つパッター」 であるそうだ。私たち兵器ファンも夢を見る。 「烈風が…」 とか 「キ108が…」 といった実際に存在した兵器が活躍していれば、というものから 「富嶽が…」 という計画倒れのモノが実現していれば…というものである。
 しかしもう少し想像力のあるファンは自分自身で 「無敵の兵器」 を夢想する。それは 「絶対負けない戦闘機」 、 「戦闘機より速い爆撃機」 、 「不沈空母」 のような兵器ファンにとっての 「ピンチに必ず押さえるピッチャーと、チャンスにホームランを打つパッター」 である。


 かつて 「空」 という航空雑誌があった。工人社という出版社から敗戦まで刊行されていた雑誌である。同誌には 「設計家の夢」 という読者投稿欄があった。戦前・戦中の航空機ファンの考えた新型航空機 (まれに航空機以外の投稿もある) を投稿者自身のイラストで世に問うコーナーである。その新案・奇案に対して、本誌 (及び他の読者) から批評が寄せられる。作画技術のレベルから、投稿者の航空機に対する技術センスまで問われるハードな企画であった。


 「兵器生活」 の大型企画として、当時の投稿作品と、その批評を再録する。私たちの大先輩である投稿者のセンスと、現実の技術者の手による 「作品」 である実際の航空機とのセンスの違い、戦前・戦中に考案されていることによる発想の限界等、について色々と感じていただけたら幸いである。架空機の発案に関して苦労している方も、これを見ていただければ当時の航空ファンのレベルを知ることが出来、大いに参考になるものと思われる。


 カンの良い方は 「ミリタリーエアクラフト」 誌1998年11月号の 「連合軍の日本軍用機コード・ネーム徹底研究」 (下田隆一) やぜに坊氏のHP 「ぜに坊のマニアックページ/日本軍機コードネーム」 に取り上げられていた、架空の日本軍機のことを思い出されることであろう。その記事中に登場する 「スズカゼ20」 という機体は、湯川利男氏の作品 「涼風」 ( 「涼」 の字は 「にすい」 になっているのが実は正しい) シリーズの20号機にあたると思われる。湯川氏はこの 「新設計家の夢」 ( 昭和15年頃のタイトル) での常連投稿者で、毎月のように投稿作品が掲載される程のマニアである。 「涼風」 というのは氏が投稿する航空機に附番された一連の名称である。 
 
 ところが、この20号機は 「夢」 欄には掲載されていない。 「夢」 欄を紹介するために国会図書館で 「空」 誌の 「夢」 欄を昭和15年8月号から16年12月までコピーをとったのだから確かである。(ただし昭和16年12月号は国会図書館には無い)
 ただ湯川氏の作品は他の読者欄や目次等のカットとして利用されていることがあるので、涼風20型はカット用に使用されたものと考えられる。
 「ミリタリーエアクラフト」 誌記事におけるマッコイ大尉らは、日本軍機情報源として 「空」 誌の記事やカットを利用して、新型航空機情報を収集していたのだろう。


 マッコイ大尉らは、 「夢」 欄が読者投稿ページであることにはさすがに気づいて、日本軍機のコードネーム付けの対象からははずしたのであろうが、他のページに紛れたものについては、まさか架空機だとは思わずに日本軍制式機として取り扱ってしまったものだろうと推測される。

本来であれば記念すべき第一回には、この 「涼風20」 を取り上げなければならないのだが、現物が手元に無いのでまだ紹介できません。ごめんなさい。 「夢」 欄を紹介する以上は 「涼風20」 も取り扱わなくてはならないので、次回以降を期待されたい。コードネームが付けられた他の架空機についても、情報源は同じである可能性が高いので、合わせて調査を進めたいと思っている。


 作品の紹介、及び批評については誌上での文章をそのまま再録する。また、イラストについても 「空」 に掲載されたものをそのまま使用する。したがって、不明確な文章表現や不鮮明な図版が掲載されることをあらかじめお断りしておくものである。投稿者の氏名についても資料的価値を鑑み、そのまま掲載する。ただし漢字・仮名遣いは必要に応じて、新漢字・新仮名遣いに改めるものとする。


 なお、性能欄にある単位は以下の通りである。

   米=メートル  平米=平方メートル  粁=キロメートル  瓩=キログラム
   粍=ミリメートル  瓦=グラム

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